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お出迎え
#12
しおりを挟む母が父に頼み、紹介で入社したということらしい。
転職が難しいのは分かるけど、わざわざこんな茨の道を選ぶ必要はないだろう、と思ってしまう。母さんは何で止めなかったのか。
ウチの親族の絆は切りたいと思った時にすぐ切れるようなもんじゃない。学生の自分ですらそれを嫌というほど知っている。
「ま、そういうこと。鈴鳴ももう二十歳だろ? ほら、一杯いきな」
叔父さんは俺に空のグラスを渡すと、零れそうなほどビールを注いだ。
「あっすいません、叔父さん……俺車で来てるんで、今日は飲めないんです」
「えぇ? しょうがないなぁ、じゃあ代行呼んであげるから。今日ぐらいはいいだろ? お前の二十歳のお祝いもしてやってないし、良い機会だから飲み明かそう!」
と言ってくれるけど、多分叔父さんの転職祝いも兼ねてる。そう思うほどにテンションが高い。
「な? ほら、早く」
「で、でも……」
会が終わったら直ぐ、自分の車で帰りたい。曖昧に言葉を濁してると、彼の表情がわずかに変わった。
「せっかくすすめてるのに、何で素直に受け入れないかなぁ。そんな態度じゃ社会に出てからやってけないぞ。社会人ってのは、まずは人間関係を円滑にすることから……」
「……すいません、いただきます」
長々と説教が始まる予感がして、先に頭を下げた。しょうがない。確かに代行を呼ぶか、タクシーで駅まで行くんでもいいし。
飲んじゃおう。この息苦しい場所に居続けるなら、いっそ少し酔った方が楽だ。そう思い、ビールを一気飲みした。
「……っはぁ。ごちそうさまでした。美味しかったです」
「良い飲みっぷりだなぁ。よし、もう一杯いけ!」
「えっ! もう大丈夫です」
舌が痺れる。苦過ぎだし既に吐きそうなんで手を振って断ると、彼はまた不機嫌そうな顔でグラスを押し返してきた。
「歳上の言うことは聴いとけよ、鈴鳴。俺なんかは違うけど、日永さんの家はそーいうのに厳しいんだろ」
「……っ」
少しだが、胸が痛んだ。
いやだな、向こうの事つっこまれんのは……。
てかこの人ガラ悪いぞ。いつもはもっと優しかったはずなのに。顔色からじゃとても窺えないけど、彼も相当酔ってると思う。
和巳さんはどこにいるんだろう。
「じ、じゃあ後ちょっとだけ。頂きますね……」
絶対ダメだけど、怖くて断れない。
でも許容量を越えたらどうなるか……。自分自身も分からない。
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