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和巳の一日
#15
しおりを挟む昔の方が何でも笑って受け止めることができた。
世間知らずだったって言われればそれまでだけど、それが必ずしも悪い方向に転ぶわけじゃなかった。知らなかったんだね。じゃあしょうがない、と許されてきた。
しかしそれは大人になると通用しない。必然的に、無知は罪になる。
だから大人になってからの方がくよくよ悩むことが多くてめんどくさい。
めんどくさい大人になったな、って。
……本当は思いたくないんだ。
「和巳さんは……どうやって大人になったの」
そんな質問が口から飛び出した。彼は不意をつかれたようだったけど、やがてゆっくり瞼を伏せた。
「いやいや。気付いたら歳とって、大人の括りに入ってた。だけの話だよ。それに鈴ももう大人じゃん。一応」
「一応、って付け足すところが俺を大人と思ってない証拠だよね」
「ははっ、どうしたの急に」
聞き返されて口ごもる。自分でもよく分からないけど、彼の片手を掴んだ。やっぱり、和巳さんの手の方が大きくて、頼りがいがあって、ずっと大人っぽい。歳は四つしか変わらないのに。
「その、俺が大人になれるように、色々アドバイス貰えたらなって……」
真剣に言ったつもりだったけど、和巳さんは可笑しそうに吹き出した。
「ごめん、笑うつもりはなかったんだけど。まぁいいじゃん、鈴はもう大人なんだから。そのうち若さの方がほしくなるよ」
彼の言ってることは分かる。でも、それは見た目の話だ。見た目が大人になりたいわけじゃなくて、内面から変わっていきたい。
「はぁー、鈴はほんとに可愛いなぁ……」
それでも和巳さんは相変わらずのペースだ。
「大人になりたいなんて……そんな事を真剣に悩んでんのが本当に可愛い」
「み、みんなは思わないのかな?」
「あはっ、思うかもね。でも俺は思ったことない。むしろいつまでも若くありたいから、悪いけどその悩みはさっぱり分からないんだ。ゴメンねー」
さっぱり……か。
そこまできっぱり言われると、こっちも清々しく諦めてしまいそうだ。いじいじ悩んでるのが馬鹿らしくなるような。
「そんながっかりしないでよ。鈴はアドバイザーを間違えてるんだ。四つしか歳が変わらない俺に答えを求めたってたかが知れてるって」
じゃあ誰に?
不思議に思ってると、指で頬をつつかれた。
「日曜日。お父さんに会って、訊いてごらん」
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