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水やり
#18
しおりを挟む足元に気を払いながら車に乗り込む。矢代さんがまだ申し訳なさそうにしてるから、和巳さんは窓を開けてくれた。
「本当にいいんですよ。俺こそ、気遣ってもらったのにすいませんでした」
あ、でも。
「もし、あのまま俺が帰ってたら……矢代さんは、どうしました?」
「あぁ、一応迎えに行くつもりだったよ。今日君達がどこで飲んでいたのか、俺は知ってた。秋のスマホに内緒でGPSのアプリを入れてるからね」
「え」
彼は爽やかな笑顔を浮かべてるけど……軽く、血の気が引いた。
「恋人の居場所は常に把握してないと不安なタチなんだ。特に秋は、俺の予想しない行動を起こす時があるからね。……あ、このことは秋には隠しておいてもらえるかな。結構手間なんだ、パスワードを解くの」
「あ……はい……」
「ありがとう。じゃあ、気をつけて帰ってね」
矢代さんは俺達に小さく手を振る。和巳さんは普通に発進させたから、彼とはすぐに別れてしまった。しばらく走ってからも、まだ鳥肌が立っていた。
「恐ろしい人だった……」
「え、そう? 良い人だったじゃん」
和巳さんは話を聞いてなかったのか、上機嫌で運転してる。位置情報ダダ漏れのことを言おうとしたけど、……和巳さんが俺のスマホに仕掛けても困るから黙っておいた。
「和巳さん、世の中色んな人がいるね」
「そうだね。良い人も悪い人もいっぱいいる」
「和巳さんは良い人?」
「さぁ、どうだろ?」
家に帰れることがご機嫌なのか、和巳さんはいつもと変わらない様子だ。でも、それがいい。
和巳さんは変わらない方がいい。しっかりしてる和巳さんなんて気持ち悪い。って、それじゃただの悪口か。
でも今のままでいい。今の彼が、俺は好きだ。
「和巳さん、ごめんね。俺眠くて……ちょっと寝ちゃうかも」
「いいよ。着いたら起こすから、ゆっくり寝てな」
「ありがとう……和巳さん、おやすみ」
「おやすみ」
優しい手が、頭に触れる。和巳さん、たまに両手をハンドルから離すから激怖なんだけど……まぁ、今日は彼を信じて寝させてもらおう。
俺も早く、彼と同じ家に帰りたい。
帰ったら、今日のお礼をしたいな。
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