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水やり

#21

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「へぇ。風間君クールだね」
「まーね。俺、バイだから」

うはっ。
結構な告白を軽いノリでされた。

「……でもな、バイはゲイやビアンよりおかしいんだってさ。あいつらは同性だけを好きになるけど、バイはセックスさえできれば何でもいいんだって。一番ずるくて汚い存在だ、って言われたことがある」
「そんな……っ!」

そんなの、いくらなんでも酷い。身体の関係を求めない人達だってたくさんいるのに。
そういうことを言う人は、きっと彼らの存在を知らないんだ。世界には色んな人がいるってことを知らない。自分を中心にしてる、杓子定規な考え方だ。

「そんなこと言われて怒らなかったの?」
「無視だな。怒ってもいいし、殴ってもいいけど、分かんないじゃん。力で捩じ伏せても、上手く弁解したとしても……それが正しいか分かんないから。まー反論しないと図星っぽくなるけど、相手にしないのが一番」

自然と、足が止まってしまった。彼はそれに気付いて、振り返ってくれる。
「な、俺も大概ヤバい奴だって分かっただろ。だから隠さなくていいよ」
「そんなこと思わないよ。風間君、優しいじゃん。俺のDVDまで借りてくれて」
「それは別に大したことじゃないだろ」
彼は可笑しそうに笑う。そうは言うけど、結構勇気のいることだと思うけどなぁ。

「グダグダ理屈っぽいこと言ってごめんな。何か最近は心理とか遺伝子とか、そういうことばっか勉強させられてるからさ。変に考えちゃうんだよね。勉強すればするほど、俺っておかしいのかなぁって思ってくんだ」
「そうか。風間君、教育学部だったもんね。将来の夢とかあるの?」
「あぁ。教師になりたい! 前は死んでもなるかって思ってたけど、俺の恋人が教師やってるから。同じ話題で盛り上がんのも悪くないかなって思って」

それにはビックリした。訊いてみると、やっぱり男の恋人らしい。すごいなぁ……教師ってことは歳上の人だろうし。もしかして俺の従兄弟よりも歳上かな。

「お前は何か夢あんの?」
「俺、は……」

わずかに口を開いて、また閉じた。俺なんて、きっと祖父の会社の社員になる未来しかない。身内は入れない組織体制だったら良かったのに、ウチはそうじゃないから。大抵の業界で強みになる経済学部に入って、金融の勉強をする道を選んだんだ。




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