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元不良少年の計画
#1
しおりを挟む時が流れるのは本当に早い。
けど特に大きく変わったこともなく、平穏な日々を送れている。……少なくとも、自分は思う。
「日永さん。今月の決算書作成、そろそろお願いしますね」
「承知しました」
和巳は会社のデスクで、ひたすらパソコンに向き合っていた。月末作業の為、今日は朝からかなり切り詰めて働いている。
「ちょっと飲み物買ってきます」
腰をさすりながら席を外し、休憩所へ向かう。
パソコンをする時だけ使う眼鏡を外し、目薬をさした。
「はぁ~。疲れた……」
目が痛い。数字は強い方だけど、漢字の羅列はあまり慣れてない。結構疲れるな……。
入社したばかりだからか、現状任されているのは単純作業だ。仕方ないけどどうしても考えてしまう。
俺この会社に入る意味あった……!?
日に日に疑問に思う。死にものぐるいで勉強して大学を卒業した後、ラッキーボーイの俺は運良く大手の会社に就職した。契約ではあるけど、結果を出した分だけ評価される世界は良かった。
ところが父から今後の方向性を考えてほしいと言われ、泣く泣く退職して日本に戻り、今に至る。
祖父が引退した後、恐らく父が取締役に就任して……これから長い目で見ていけば、この会社で少しずつキャリアを積んでいくのが一番良い。
それでも、毎日代わり映えのない入力作業ばかりだと思考が凝り固まる。俺はこの会社の何なんだ。中途入社した社員? ……うん、それだ!
でも俺は十七時退社を夢見てる。定時五分前は皆大慌てで帰り支度をしていた、前の職場が懐かしい。
「いやいや…」
いけない、卑屈になるのはやめよう。
缶コーヒーを買ってベンチに腰掛ける。そしてポケットの中の手帳を開き、中から世界で最も愛する恋人の写真を取り出した。
わぁ……可愛いな、鈴……!
そうだ。お世話になった会社を辞めて帰国したからこそ、また鈴と逢えた。その全てに感謝しなきゃ罰が当たる。現状をあるがまま受け入れるのも順応性のひとつだ。郷に入っては郷に従う。英語が不安なのに留学した時も、何とかなったんだし。
何とかならなかったのは寮生活してたときに間違えて女子の部屋に入ったことだ。変態のレッテルを貼られて知らない学生達からdirtyと連呼された時は心が折れそうになった。
でもそんなのは大したことじゃない。俺はポジティブ思考だけは誰にも負けないと思ってるから!
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