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三石
#7
しおりを挟む宙はずるい。
嫌なことがあれば逃げることができて、逃げたあとも大人から心配される。
幼い頃はしょっちゅう聞いた言葉。もう誰に言われたのかも覚えてない。
彼らの言う通り、俺は狡い。弱くて、守られる存在。
それがたまらなく嫌で、自分を殺した。
「俺なんか……って、言わないでください」
凍った水面のような瞳で、宙は透夜を見返した。
「透夜……」
感情のない声音が胸に突き刺さり、息を飲む。
「ごめん。自己肯定感低い、って前も言われたのにな」
それどころか、今日初めて会った三澄さんにも言われた。自分を下げるのが癖というか、常になっている。
なにせ、事実だと思っているから。自分は価値のない人間だと思っているから、足場を切り崩すことに抵抗がない。
「俺は宙さんに救われました。誰とも関わりたくないと思ってた俺が、初めてもっと知りたいと思えた人……それが貴方なんです」
「……前から思ってたけど、お前は俺を崇め過ぎだぞ。俺はむしろ性格ねじ曲がった奴なんだから」
「性格ねじ曲がった人が、わざわざクローバー型の石なんて用意しませんよ」
透夜は胸ポケットから、四年前に渡した石を取り出した。
「四つの葉全てに意味があるんですよね。富と栄光、健康、……愛」
「言うなって、恥ずいから」
「あははっ。……でも、宙さんが周りを思いやる人だってことは皆分かってると思います」
クローバーの琥珀を手のひらに包み、透夜は瞼を伏せた。
「本当は皆、宙さんと仲良くなりたいんですよ。ただ下手に触れたら壊れてしまいそうな人だから、迂闊に近付けないだけです」
俺は別ですけど、と彼は笑った。
「俺は加減が分からないんです。欲しいと思ったらなりふり構わず動いてしまう。きっと今も」
テーブルに置いてる手が触れた。
「貴方を愛し過ぎて、壊してしまいそう」
「……あ……っ」
何で、こんなことを真っ直ぐ言えるんだろう。
叔父さんも言ってたけど、バカ正直過ぎる。
「冷めるだろっ。早く食べなって」
「はーい」
わざと話を逸らしたものの、透夜は気を悪くすることなく、美味しそうにご飯を平らげた。
くそ……っ。
この人たらしを何とかしないと、心が持たない。
逸る鼓動を抑え、空になった皿を片付けた。
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