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お迎え
#2
しおりを挟むやばい。ちょっと気まずい。
会いたかったし、会えてすごく嬉しい。
けど成長し過ぎて完全に知らない人のオーラが流れちゃってる。
凍てついた空気を打破するべく、彼の手を引いた。
「腹減ってないか? 何か食いに行こう!」
周りにも再会を喜んでる人達がいたが、静かに見つめ合ってる自分達と酷く対照的。逆に恥ずかしくて、場所を移ることにした。
貴島は特に気に留める様子もなく、黙ってついてきた。
ただ歩いてるだけで見惚れそうだけど、変な感じだ。
違和感の原因は容姿だけじゃない。中身もだ。
昔の彼はもっとお喋りで、活気的な少年だった。ところが今の彼は恐ろしくクールだ。六年の月日が彼を変えてしまったらしい。
「ラーメン好き?」
尋ねるとコクッと頷いた為、彼とレストラン街のラーメン屋に入った。カウンター席に案内され、お通しのネギのせメンマを食べる。
「学校はいつから来るの?」
「来週の月曜から」
「ほ~。じゃ、一緒に行こうぜ」
微笑みかけると、彼は一瞬驚いた顔を見せた。
いやいや、何でそこで驚くんだ。
「何、駄目?」
「違う。……やっぱり変わったな、と思って」
「そう?」
「あぁ。真っ先に迎えに来たのも驚いた」
注文したチャーシュー麺が目の前に置かれる。手探り状態ではあるが、互いに言葉を発するタイミングを慎重に取り出していた。
割り箸を渡すと、貴島はようやく口端を上げた。
「ありがとな」
「……おぉ」
何か、改まって言われると照れる。
顔が熱くなった気がして、慌てて視線を前に戻した。
貴島とは、小学校五年生まで一緒だった。
家が隣だった為、物心ついた時から一番近くにいた。同い年なのにしっかりして、頼もしい彼に随分助けてもらっていたと思う。
でも六年前、俺は親がやってる割烹屋の移転の為東京へ引っ越すことになった。貴島の家と距離があるから、ずっと会えずにいたけど。
「お父さん大変だな。急にシンガポールに単身赴任とか」
「あぁ。でも二年だけだし、兄貴の家に居させてもらえることになったから。むしろついてた」
彼は父子家庭だ。そのお父さんが海外赴任することになり、急遽お兄さんが住んでる東京へやって来たのだ。
半年前、久しぶりに彼から連絡を受け取った時、それはもう嬉しくて舞い上がった。
ずっと一緒にいたかったのに、離れなくてはいけなくなった親友。彼が自分が通う高校に転入するというのだから。
住所を移したり大変だったはずだけど、転入試験も問題なかったようだ。学校に生徒の枠が空いてることも幸いで、無事来週から一緒に通うことができる。
再会したときはやっばい緊張してたけど、ようやく深い喜びが込み上がってきた。
「前の学校はどうだった? 勉強難しかった? 部活とか、委員会は入ってた?」
「質問攻めだな」
貴島が苦笑したから、思わず口を手で覆った。
訊きたいことがたくさんある。でも大移動で疲れてるだろうし、今日は彼を労らないと。
「悪い、それはまた今度! とりあえず、俺達の再会に乾杯!」
「はいはい。乾杯」
瓶のコーラをカチンと鳴らし、一気に煽る。冷たい炭酸は涙が出るほど辛かったが、頭の中がすっきりした。
俺の中では親友以上、の青年だ。……強くなりたいと思ったのも、全部彼の為。
昔はいつも心配をかけてたから。今度こそ俺が彼を支えてみせる。
「貴島、困ったことがあったら何でも言えよ。学校でもそれ以外でも。俺が解決する」
「頼もしいな。……それじゃ、早速ひとついいか」
「何!?」
役に立てると思ったら嬉しくて、箸を置いて横を向いた。すると貴島は不敵な笑みを浮かべ、俺の額を指でつついた。
「学校の中。案内して」
……。
あまりに些細なお願いで、呆然としてしまった。
「そんなん頼まれなくてもする」
「そっか。サンキュー」
でもそんな小さなことすら確認しないといけない……俺達の距離は、それほど遠のいてしまったんだろうか。
実際大人びた彼と相対するのは、妙に緊張する。他人行儀になりそうだけど、これは本意じゃない。
コーラを飲み、申し訳なさに俯く。
「貴島……久しぶりに会ったら引くほどかっこよくなってたな」
「何だソレ」
貴島は、ここで初めて可笑しそうに肩を揺らした。ひとしきり笑った後、意味ありげな視線を寄越す。
「俺からすれば、お前の方がきらきらしてて焦るよ。驚いたけど、中身は変わってなくて安心した」
「いや、中身の方が変わったよ。自分で言うのも何だけど、昔より百倍しっかりしてる」
「そう? ……別に変わらなくても良いのに。川音はそのままで」
彼からすれば、何気ないひと言だったのかもしれない。
しかしそれは心の柔い部分に突き刺さった。
死ぬ気で勉強して、上がり症を克服して、揺るがない優等生像を築いた。それはかつての情けない自分を知る、貴島に胸を張って会う為だったから。
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