28回の後悔

おまめ

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12/16 Ⅱ

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「だから、動かないでもらえます?」
「うぅ…」
竜斗はさっきから顔をしかめている。メイクブラシがくすぐったくて私がしょっちゅう動くからだ。先程からメイクを施されている。今回はかわいい系で行くと言われた。私には分からない。
「目の周りやるから閉じて」
言われた通り目を閉じると、冷たい何かがまぶたをなぞった。何この変な感覚……!
「ピクピクしないで!」
「はいっ…」
恐らくアイライナーだ。自分でやるときと人にしてもらうときではかなり感覚が違う。
「じっとして」
「はい…」
怖い。人格変わってきた。顔は見えないが、声が冷たい。

「……」
「……」
「……よし、できた。こんな感じ」
「わぁ……!」
誰これ。かわいい。
「私じゃないみたい……」
「正真正銘碧衣ですよ。いい感じにできた」
竜斗は満足そうに頷いて、向こうからカメラを持ってきた。
「撮るよ。あぁでも自然にしてて。まず目線こっちに」
指定通りに目線を変える。何だかプロのカメラマンみたいだ。竜斗は何でもできるのかもしれない。いつもの優しい声に戻った。
「おっけー!今日の仕事は終わり。ところで碧衣、服とか貴重品とか、家に取りに帰りたいよね」
「あ、確かに」
「もう遅いから一緒に行くよ。ほら」

竜斗の家はマンションの7階だった。落ち着いたエントランスを通り、外に出ると真っ暗だった。
「あ」
「何?」
「鍵閉めてないかも」
「えぇ…」
「こっちです」
築10年くらいの小さいアパートが私の自宅だった。やっぱり鍵はかかってない。
「散らかってるので玄関で待っててい
「おじゃましまーす」
話聞いてない。遮るな。
「服とか財布とか…あっスマホ。スマホある?」
「あります。充電したまんま」
「連絡先ちょうだい。俺も出かけたりするからさ」
「わかりました」
連絡先を交換して、荷物をまとめて、家を出た。改めて思ったが、何の温かみも無い家だ。できればしばらく見たくない。
「鍵閉めた?」
「閉めました」
「よし」

帰る途中、明るいコンビニが目に入った。肉まんののぼりが風になびく。あったかそうだなぁ…
2人で顔を見合わせた。
「買っちゃうかー」
「買っちゃいましょう」
食べることへの興味がほとんどなくなってしまった私だが、流石にこの寒い中では温かい食べ物を見ると食べたくなってくる。ホクホクの肉まんを2つ。一口食べると湯気が立った。二口目には肉汁が溢れ出した。
「うっまー。久々に食べた」
夜道を食べ歩きしていると、前から男の人が犬を連れて歩いていた。わー柴犬だーなんて呑気な事を考えた私を横目に、竜斗は驚いた顔をした。
「ゲン…?」
「えっ、リュウさん…!?」
「ゲン…!!お前…!」
竜斗は走ってゲンと呼んだ男の肩を抱いた。知り合い…?
「はぁ、良かった生きてて…」
「会えるなんて思ってませんでした。久しぶりです!!」
ゲン?はどうやら竜斗を慕っているようだ。

生きてて良かったと言われたこの男、何者なのか……?
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