28回の後悔

おまめ

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12/16 Ⅲ

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「それでその後、親戚のところでお世話になってました」
「そっか…特に何事もなかった?」
「はい。リュウさんもお元気そうで」
「まぁね」
しゃがみ込んで柴犬のもちおと戯れている私の後ろで、そんな会話が聞こえてくる。
竜斗と偶然再会した男は矢崎元介といい、竜斗曰く職場の昔の後輩らしい。もちおは親戚のペットだという。せっかくなら、ということで自販機で適当に飲み物を買い、公園のベンチで話し込んでいた。
「で…そこの女性は…?」
「俺の専属モデル。碧衣っていうの」
「ちゃんと給料払ってんすか」
「家に住まわせてる。ねっ」
「碧衣さん、もしなんか文句あったらすぐ言ったほうがいいですよ。相談にも乗りますし」
2人ともこちらを見て言った。落ち着いた印象だが、どこが圧が強い2人には愛想笑いでしか対応できなかった。
「あ、こんな遅くまで離してしまって…リュウさん、これ俺の住所と連絡先です。なんかあったらいつでも呼んで下さい」
「おぉ、さんきゅ。今度メシでも行こ」
「はい、ありがとうございます。では」
元介さんはこちらにも微笑むと公園を後にした。

「付き合わせてごめん。帰ろっか」
「はい」
「明日は服とか探しに行こうと思ってる」
「わかりました」
「…あのさ」
「はい?」
「タメでいいよ?」
「えっ」
いくら年下とはいえ、助けてもらった相手にタメ口は恐れ多かった。
「いや…ちょっと難しいです」
「そこを頑張って!別に仕事だけの関係ってわけでも無いでしょ。ねっ?」
「善処します」
竜斗はムッと顔をしかめた。
「わかった」
今度は笑顔。思えば、いつも竜斗に振り回されている。今度元介さんに昔の竜斗でも聞いてやろう。

帰ってからも竜斗の言う通りに動くと、12時には就寝できる状態になった。断ったが、結局ベッドを借りてしまった。竜斗はソファ。
にしても、こんな時間に寝るのはいつぶりか。近頃は寝れないと分かり、諦めていたので眠くなるまでボーっとするか本を読むかして、夜を過ごしていたから、とても早く感じた。しかし、眠れる気はしない。電気を消されかけたので、慌てて止めた。
「早く寝ないとお肌に悪いからさ~。これも仕事のうちだと思って」
「電気消しても多分日が昇るまで寝れませんよ、私」
「そんな自信満々に言われても。じゃあ何、子守唄でも歌えばいい?」
「子どものそれとは違います」
「また敬語だし。ちょっと調べるから待って。睡眠障害、どうすればいいっと…」
ポチポチとスマホで検索をかけた。
「そんな簡単に対策できたら苦労しませっ…しないって」
「確かに…満足できる結果は出ないねー」
竜斗ははぁ、とため息をつくとベッドに近づき、座った。
「???」
「寝れるまでトントンしてやるから、寝な」
「いやいやいや…!?」
「寝れないって思うから寝れないんでしょ。目閉じて。おやすみなさい」
「私、子どもじゃないって……!」
「手がかかるわねほんとにもー!」
竜斗は電気を消して戻ってくると、頭をトントンし始めた。
「あっ、頭…?」
「えっ頭じゃない?じゃあどこ?」
「肩とか?背中とか?」
「わかった。結局して欲しいんだね」
「違うって頼んでない!」
「はいはいお黙り。おやすみなさい」
もうこうなったら寝たふりだ。大人しくするしかない。竜斗に背を向けて目を閉じた。背中を優しくトン、トン、とされる。
…おかしいな、眠い…
ウトウトしたのに気づいたのか、小さく笑った。
「おやすみ」

小さい頃を思い出す。
まだ幼稚園に通っていた頃。何も考えなくても、何もできなくても良かった頃。親にトントンとしてもらうとどこか落ち着いた。安心して、夢の中へと入れた。朝が待ち遠しくなった。
そんな感情を、今、思い出した。

しかし、今そこに居るのは親ではなく飛び降りを止めた優しい男だ。
この男は、どこまで優しいのだろうか。
朝起きたら、どんな顔で待っているのか。
明日はどんな風に笑うのだろうか。
今だけは、久しぶりに朝が怖くなかった。
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