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2章

6話 入学試験合否とクラス担任

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 俺は隣の女の子をじっと見る。見た目、13~15歳程の女の子、ダークエルフの。そうだナハアスが探しているのもダークエルフだった筈だ。ダークエルフはとても珍しいと聞いた。

 ナハアスの妹と同一人物、という可能性はとても高い筈。ナハアスの名は確か・・・

 俺はこめかみに手を当てると考え込む。ロシェルとサリュが俺の顔を不思議そうに眺める。2人は俺の身体が邪魔でダークエルフの身体は見えていないらしい。何だったか・・・ナハアス、ナハアス・・・ナハアス・クロウグ。そうだナハアス・クロウグだ。俺は彼の名前を思い出し、振り向くと彼女に向かって解析眼をかける、普段はなるべく使わない様にしているのだが・・・


エルハ・クロウグ♀

年齢          14

Lv             15

ライフ     1350/1350
マナ         480/480

str      225
def      1455
agi      1470
mat      855
dex      465
int      268


ギフト       千里眼   晩成

魔法技術   精神魔法 ランク3 付与魔法 ランク3  耐性魔法 ランク2

スキル       迅歩 ランク3 潜伏ランク4  魔力消費減少 ランク2 弓術ランク2


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 やはり当たりだったみたいだ。同じクロウグ姓、ナハアスの妹で決まりだろう。

 しかし、尖った能力だな、ダークエルフってみんなこんな感じなんだろうか?ライフがかなり高めだ、防御力も充分にある。騎士は騎士でもタンクってやつじゃないのか? 
しかし攻撃力なんかレベルの割には低めだ。覚えている魔法は結構良いが、魔法効果が少し高いくらいでマナの少なさなんかそれこそ人族の冒険者より少し多いってくらいだ・・・しかし、少し穴の有りそうな試験だなと俺は思う。実戦で動けばかなり使える戦士になるんじゃ無いだろうか。パーティを組んだ場合に限定はされるけど、やはりそこまではドックタグでは見れないか。
 
 もし受験者同士の模擬戦ならまず勝てない、というか泥試合だ。攻撃してもダメージが通らないし、自分がダメージを受ける事も無い。魔法使い相手なら魔攻が低いからダメージを受けるだろう、いやしかし耐性魔法をかければ良いのだろうか・・・いやそれもマナが低くていずれジリ貧になる筈だ・・・魔石とかでブーストすればこの防御力を生かせるだろうが・・・試験自体は魔石の使用を禁じてたしな。

 才能はあるがバランスが悪くて落とされた受験者も多いんだろうなあ・・・例えばエルハの場合、騎士として101位、魔法使いとして101位。って感じがするなーーー

 なんて考えてる場合じゃ無かった、ロシェルの肩に手を置き首を振ってエルハを見ろと合図をする。ロシェルは最初怪訝な顔をするが、チラリと俺が首を向いた所に視線を動かしたーーあっ という表情を見せると俺に視線を戻す、彼女に何と声をかけるか迷っている様だった。

「うーン、本当は魔法師が良かったんだけどなァ。デも、いっカ!受かったしネ」

 嬉しそうに独り言を漏らし喜びながら彼女はドッグタグを掌の中で遊ばせる。さっき泣きそうな呻き声を上げていたのは一体誰だよと突っ込みを入れたくなるがーーグッと堪え違う言葉を探す・・・

「あーえーっとクロウグさん?であってる?」

 彼女に向かって出した言葉はそれだった、エルハって名前だとなんで解ったのって言われそうだったしな、いや、お兄さんに名前も聞いたって誤魔化しても良かったかもしれないが・・・

「ン?え?そうだけド・・・あなただレ?」

 不思議そうな顔をするエルハにロシェルと一緒に説明を始める。ナハアスが妹を探しに王都に来ている事、見つけたら教えて欲しいと連絡先もロシェルが聞いているという事。試験に合格した事で、満面の笑みを湛えながら話を聞いていたエルハの表情が徐々に蒼ざめて行く。

「えーと、あなタ達、私はクロウグなんて名前じゃ無いワ!ダ、ダークエルフ違いじゃないかしラ?」

 いやさっき、そうだけド って言ってたじゃないか・・・辿々しく誤魔化す目の前のダークエルフをロシェルがジッと見つめる、エルハはその目を見たくない様でツツっと横に視線を泳がせるーーーが、その先には俺の視線、エルハは視線を上に逃すが其処からはもう、キョロキョロと眼球が動いている。

「どうせさ、この学園にいる以上逃げられないんだし、今そのタグを見せてくれればすぐに解決するよ?もし違ったら勿論お詫びはするからさ」

「そうだな!クロト、タグにはさっき名前が刻印されてた!」

 俺とロシェルの言葉を聞き終わる頃にはエルハは既に諦めた様だ。額に指の腹を当てると溜息を吐き、今ここにいる理由を話し出した。

「私はネ、里から魔石をタクサン買って来てっテいう御使いを頼まれたノ、ダークエルフは成人すル前に里から一旦出テ、ちゃんと行動出来るかっていウ試験をするノ、王都までハ、簡単にこれタ、私は脚には自信あるシ。潜伏もできルから、魔物に襲われることはないワ、でも王都に初めて来て。学園があるって聞いテ、どうしても入りたくなったノ、そしたらホラ。魔石を買って帰る為の金貨が30枚も有るじゃなイ?それでネ」

 最後は可愛くウインクでキメる。いや、おい・・・

「金貨30枚じゃ入学金と残りの2年分は払えるがその後はどうする積りなんだ?」

「エ?」

「いや、エ?じゃなくてさ、その後の授業料だよ、金貨30枚じゃ足りないぞ?」

「エェぇええ!」

 この子、其処まで考えてなかったんだな・・・まあ、でもどっちにしろナハアスには報告が必要だな。確りと兄貴に叱られると良い・・・エルハは頭を抱えその場にしゃがみ込み。どうしようどうしようと呟く。ロシェルと顔を見合わせた俺は取り敢えず彼女の事は放って置く事にした。ナハアスにはロシェルから連絡を取ってもらう事になった・・・

 

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 あの後、筆記試験会場に移動し俺達はテストを受けた。正直、筆記試験は前世の小学生レベルの算数、この世界では算学と言うらしい。数字だけでは無く、駆け引きと言うか、精神性というかーーー例えば問題の中に、肉が1キロ鉄貨で7枚だったとする9キロ買った場合銅貨と鉄貨で何枚か。それを求めた後、一体幾らまでなら値引きできるか、その理由も書けーーーなんていう問題なんかも有った。答えのある問題が全部で50点、答えの無い問題が加点式で50点という仕組みらしい。因みに平均点は50点程度だそうだ。この世界の学力ヤバイな・・・いや、騎士科の生徒が平均点を下げているんだろうな。

 まあ取り敢えずは計算は間違うはずも無い難度だったし、値引き等については、答えは無い様なものだ。余程馬鹿な事を書かない限りは大丈夫だろう。

 この筆記試験は因みに合否の判定は含まないが成績いかんによっては総合科、魔法科、騎士科の変更はあり得る。との事だったので、皆が本気で試験を受けていた。賢さは既にドックタグの方で把握しているらしく、この試験は個人の知識を測る為のテストらしい。無事テストも終わり、最後にこれから学ぶ教室に案内して今日は終了という事だった。

 俺とロシェルは本館、敷地の中央にある建物。サリュは別の棟に案内されるらしいーー総合科や、騎士科、魔法科、商業科、職人科、すべての科が1つずつ独立した建物にある。俺達は教室に案内され、各自、適当に席に着いた。此れから担任が各自クラスを訪れ明日からの学園生活についての説明をしてくれるらしい。

 ロシェルと明日からの授業についての予測、どんな授業なのかとかーーそういった話題に2人で華を咲かせるのだ。あーだ、こうだと話も盛り上がってきた頃、教室の扉がガラリと音を立て開く、金色の透き通った髪や、横に伸びたエルフという種族を表す特徴的な耳。は、無表情に教室の中央、たった先程この学園の生徒になったばかりの自分を含む生徒達の目の前に立つ。その彼女を見た俺は、つい口から無意識に声が漏れたのだ。

「撫子・・・?」

 とーーー
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