双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

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君は変わらないな

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 往生際悪く海神の頬に触れ薄く形の良い唇をついばみながら、それでもどうにか彼の温もりから肌を離すことに成功したボクは、素早く衣を纏い帯を締めた。

 「いつだって君から離れるこの瞬間は、心が引き裂かれそうに辛いよ・・・・・。君の衣になりたいくらいだ。そしたら、君のなめらかな肌をずっと感じて、僕だけのものにしていられるのに。」

 「・・・うん。」

 ボクの口から次々飛び出す、相変わらずの慎みのない言葉の数々に真面目にうなずきながら、海神は小さく微笑む。
 可憐な笑顔の中に、憂いを帯びたわずかな陰りを見つけ、ボクは海神もボクと同じ気持ちでいてくれているのだと・・・・柔らかい心地よさに包まれた。

 ボクは小さく息を吐き、瞬く間に身支度を整えていく海神の絹糸のようななめらかな髪を、いたずらに指に絡めた。
 ようやくあきらめて、この生真面目な想い人の抱え込もうとしている件について口を開く。

 「・・・・黒の受けた傷は、彼にとっては酷く残酷で、厄介なものだ。・・・・白妙が呪いをまとわせていたことに、君も気づいていただろう。」

 「うん。」

 「あの呪いは、場合によっては何の意味も成さないが、縛りが強い分、とても強力だ。」

 「・・・・やはり蒼でも、黒を癒せないのか。」

 「そういうこと。・・・・あの呪いを受けてできた傷は、白妙と黒本人以外の者には、絶対に癒すことはできない。光弘でもだ・・・・。妖術以外の方法で治すとしたら、自然治癒以外は望めない。」

 「・・・だが恐らく、黒は・・・」

 「うん・・・・。光弘にかかわる大きな問題でも起きない限り、あいつは絶対にあの傷を自分で癒したりはしないだろうな。しかし、あれだけの傷だ・・・・。自然に回復するのを待つとしたら、癒えるまでに数カ月はかかるだろう。ねぇ・・・・海神。君は、どうしたい?」
 
 海神は、指に絡め遊んでいた彼の髪の一房ごとボクの手を包み込み、それを自分の頬に寄せた。
 それだけで、ボクの心臓は鼓動を甘く高鳴らせていく。

 「このままにはできない。黒は・・・・私のところで預かろうと思う。」

 「君なら、そう言うと思ったよ。ボクと君の近くにおいておけば、黒の傷が癒えるまでの間に、仮にショクのやつがちょっかいを出してきても、二人を守ることができる。・・・・・ただ。」

 ボクの言いたいことを理解している海神は、暗い表情で瞳を伏せた。

 「皆まで言ってくれるな・・・・蒼。」

 海神の言葉で、ボクは覚悟を決めた。
 黒と光弘は離れて行動していることも多い。
 やはり海神は、場合によっては、ボクと離れてでも二人の助けに入るつもりでいるのだ。

 最初から分かってはいたが、海神は人の苦悶の表情を理由もなく見過ごせる者ではない。
 仮に、自分が酷く傷ついても、歩みを止めることはないだろう・・・・・。

 ボクは海神の髪をなで、彼の頭を柔らかく胸に抱いた。

 「君ってやつは、2千年前とちっとも変わらない、強情な奴だな。・・・・あの時君は、喜びを感じることを拒んでいただろう。君はあんなに小さかったくせに・・・龍粋を追い込んだ自分が笑顔を見せることは、あまりにも不誠実で・・・・彼を裏切ることになると思っていたんじゃないか?」

 「・・・・・・。」

 「そんな君だったから、ボクはあの時、全く放っておくことなんてできなかった。あの頃すでに、君はボクにとって・・・とても愛おしい存在だったんだ。」

 「蒼・・・・」

 「・・・さすがに、今とは少し、違った種類の愛おしさではあったけどね。」

 ボクの言葉に、海神はくすりと笑った。
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