彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

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楓乃子 2

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 宵闇よいやみの言葉に心がついていけず、光弘は目に涙をにじませながら浅く速い呼吸を震える唇で繰り返し、横に小さく何度も頭を振った。

 宵闇は宙に浮く、血の色の瞳で真っ直ぐ光弘を射抜いたまま、歪んだ笑みを見せる。

 「なかなかに面倒な女だったが、最期はあっけなかった。ここからはお前も分かっているだろう。」

 宵闇は楓乃子を自分の顔に近づけ、鼻で笑った。

 「・・・・俺がお前の命を狙ってやったら、あっさり言霊を使ってお前と席を代わり、身代わりになって焼け死んだ。ヨモツヘグイの呪いを宿しているのだから、そんなことをすればどうなるかは分かっていただろうに。・・・・お前にかせられた逃れることのできない宿命を、言霊を使って無理矢理自らと入れ替えるとは・・・・哀れな女だ。」 

 光弘は、宵闇から重ねて語られていく真実に耐えられず、膝をついてうつむいた。
 その様子を見て、宵闇が紅い目を煌めかせ、心の底から嬉しそうに笑い声をあげる。

 「まさか・・・光弘、お前・・・何も気づいていなかったのか。この女の行いに・・・想いに・・・・。なんと報われない女だ!命をとして守った相手は、何も気づかず今はすっかり黒に取り込まれてかっさわれてる・・・・・。クフフフッ・・・・とんだ道化じゃないかっ!」

 そう言って、宵闇は心底楽しそうに笑った。

 姉さんは、俺のために幼い頃自ら呪いを受け入れ、それをひた隠し生きていた・・・。

 俺の命をただ救うためじゃなかった。
 あの時車の席を無理矢理変わり身代わりになることで、呪われた運命の輪から俺をはずしてくれていたんだ。
 言霊をつかってまで・・・・・そこに座れば死ぬと分かっていたのに。

 光弘はようやく、あの時楓乃子がなぜ「ありがとう」ではなく、「ごめんね」と言ったのかを理解した。

 「この女・・・業火に焼かれながら、お前の名を何度も口にして謝っていたぞ。傍にいられなくなることをやたらと悔いていたようだ。敵ながら、この女がお前に寄せる唯一無二の愛情には心揺れるものがあったのに、お前は気づいてすらやれかったというのか・・・・。」

 「・・・・・。」

 「まさか、死んだ直後に魂を残してまで俺の邪魔をしてくるは思わなかったがな・・・・。おかげで俺はお前の周りの人間を刈り取ることができず、この女の背から出た刃先で精神を痛めつけてやることくらいしか叶わなくなってしまった。・・・死んでまでとことん目障りな女だ。」

 光弘は鞘となって槍に貫かれ揺れている楓乃子を見つめた。
 涙で歪む視界の中、心から呼び掛ける。

 「姉さん・・・・・。」

 「呼んでも無駄だ。魂はあっても心はすでに死んでいる。」

 光弘の目からは光が消え、浮かされたように楓乃子の名を呼んだ。

 「さぁ、どうする光弘。時間がないのだ。相手が秋津あきづであれば俺もさして急ぎはしなかったが、今は話が別だ。黒や癒となると分が悪い。奴らは得体がしれない。・・・・俺の霧だけでなく俺自身を封じる力を持っているのは厄介だ。せっかく封印がほころんだのだ。これ以上捕まっている理由はない。・・・俺はもう行くぞ。」

 「姉さんを・・・返せ。」

 光弘は、意識が遠く感じるほどに胸を締め付けられながら、ようやく絞り出すように言った。
 
 「では、すぐに俺と契約を交わせ。お互い悪い話ではない。お前のために一途に生きた女の魂を野ざらしにされたくはないだろ・・・」
 
 宵闇が光弘に語り掛ける中、その誘惑の声を静かに遮るものがあった。

 「いい加減、そのうるさい口をつぐんではくれないか・・・・・。」

 光弘の耳に、その声は宵闇の手にする槍の先から響いたように聞こえた。
 懐かしく愛おしい、今は聞くことの叶わない人物の声だ。

 「姉さん・・・・・?」
 「みーくん・・・。」

 光弘は、叫ぶように宵闇の槍に向かい呼び掛けた。
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