133 / 324
楓乃子 2
しおりを挟む
宵闇の言葉に心がついていけず、光弘は目に涙をにじませながら浅く速い呼吸を震える唇で繰り返し、横に小さく何度も頭を振った。
宵闇は宙に浮く、血の色の瞳で真っ直ぐ光弘を射抜いたまま、歪んだ笑みを見せる。
「なかなかに面倒な女だったが、最期はあっけなかった。ここからはお前も分かっているだろう。」
宵闇は楓乃子を自分の顔に近づけ、鼻で笑った。
「・・・・俺がお前の命を狙ってやったら、あっさり言霊を使ってお前と席を代わり、身代わりになって焼け死んだ。ヨモツヘグイの呪いを宿しているのだから、そんなことをすればどうなるかは分かっていただろうに。・・・・お前にかせられた逃れることのできない宿命を、言霊を使って無理矢理自らと入れ替えるとは・・・・哀れな女だ。」
光弘は、宵闇から重ねて語られていく真実に耐えられず、膝をついてうつむいた。
その様子を見て、宵闇が紅い目を煌めかせ、心の底から嬉しそうに笑い声をあげる。
「まさか・・・光弘、お前・・・何も気づいていなかったのか。この女の行いに・・・想いに・・・・。なんと報われない女だ!命をとして守った相手は、何も気づかず今はすっかり黒に取り込まれてかっさわれてる・・・・・。クフフフッ・・・・とんだ道化じゃないかっ!」
そう言って、宵闇は心底楽しそうに笑った。
姉さんは、俺のために幼い頃自ら呪いを受け入れ、それをひた隠し生きていた・・・。
俺の命をただ救うためじゃなかった。
あの時車の席を無理矢理変わり身代わりになることで、呪われた運命の輪から俺をはずしてくれていたんだ。
言霊をつかってまで・・・・・そこに座れば死ぬと分かっていたのに。
光弘はようやく、あの時楓乃子がなぜ「ありがとう」ではなく、「ごめんね」と言ったのかを理解した。
「この女・・・業火に焼かれながら、お前の名を何度も口にして謝っていたぞ。傍にいられなくなることをやたらと悔いていたようだ。敵ながら、この女がお前に寄せる唯一無二の愛情には心揺れるものがあったのに、お前は気づいてすらやれかったというのか・・・・。」
「・・・・・。」
「まさか、死んだ直後に魂を残してまで俺の邪魔をしてくるは思わなかったがな・・・・。おかげで俺はお前の周りの人間を刈り取ることができず、この女の背から出た刃先で精神を痛めつけてやることくらいしか叶わなくなってしまった。・・・死んでまでとことん目障りな女だ。」
光弘は鞘となって槍に貫かれ揺れている楓乃子を見つめた。
涙で歪む視界の中、心から呼び掛ける。
「姉さん・・・・・。」
「呼んでも無駄だ。魂はあっても心はすでに死んでいる。」
光弘の目からは光が消え、浮かされたように楓乃子の名を呼んだ。
「さぁ、どうする光弘。時間がないのだ。相手が秋津であれば俺もさして急ぎはしなかったが、今は話が別だ。黒や癒となると分が悪い。奴らは得体がしれない。・・・・俺の霧だけでなく俺自身を封じる力を持っているのは厄介だ。せっかく封印がほころんだのだ。これ以上捕まっている理由はない。・・・俺はもう行くぞ。」
「姉さんを・・・返せ。」
光弘は、意識が遠く感じるほどに胸を締め付けられながら、ようやく絞り出すように言った。
「では、すぐに俺と契約を交わせ。お互い悪い話ではない。お前のために一途に生きた女の魂を野ざらしにされたくはないだろ・・・」
宵闇が光弘に語り掛ける中、その誘惑の声を静かに遮るものがあった。
「いい加減、そのうるさい口をつぐんではくれないか・・・・・。」
光弘の耳に、その声は宵闇の手にする槍の先から響いたように聞こえた。
懐かしく愛おしい、今は聞くことの叶わない人物の声だ。
「姉さん・・・・・?」
「みーくん・・・。」
光弘は、叫ぶように宵闇の槍に向かい呼び掛けた。
宵闇は宙に浮く、血の色の瞳で真っ直ぐ光弘を射抜いたまま、歪んだ笑みを見せる。
「なかなかに面倒な女だったが、最期はあっけなかった。ここからはお前も分かっているだろう。」
宵闇は楓乃子を自分の顔に近づけ、鼻で笑った。
「・・・・俺がお前の命を狙ってやったら、あっさり言霊を使ってお前と席を代わり、身代わりになって焼け死んだ。ヨモツヘグイの呪いを宿しているのだから、そんなことをすればどうなるかは分かっていただろうに。・・・・お前にかせられた逃れることのできない宿命を、言霊を使って無理矢理自らと入れ替えるとは・・・・哀れな女だ。」
光弘は、宵闇から重ねて語られていく真実に耐えられず、膝をついてうつむいた。
その様子を見て、宵闇が紅い目を煌めかせ、心の底から嬉しそうに笑い声をあげる。
「まさか・・・光弘、お前・・・何も気づいていなかったのか。この女の行いに・・・想いに・・・・。なんと報われない女だ!命をとして守った相手は、何も気づかず今はすっかり黒に取り込まれてかっさわれてる・・・・・。クフフフッ・・・・とんだ道化じゃないかっ!」
そう言って、宵闇は心底楽しそうに笑った。
姉さんは、俺のために幼い頃自ら呪いを受け入れ、それをひた隠し生きていた・・・。
俺の命をただ救うためじゃなかった。
あの時車の席を無理矢理変わり身代わりになることで、呪われた運命の輪から俺をはずしてくれていたんだ。
言霊をつかってまで・・・・・そこに座れば死ぬと分かっていたのに。
光弘はようやく、あの時楓乃子がなぜ「ありがとう」ではなく、「ごめんね」と言ったのかを理解した。
「この女・・・業火に焼かれながら、お前の名を何度も口にして謝っていたぞ。傍にいられなくなることをやたらと悔いていたようだ。敵ながら、この女がお前に寄せる唯一無二の愛情には心揺れるものがあったのに、お前は気づいてすらやれかったというのか・・・・。」
「・・・・・。」
「まさか、死んだ直後に魂を残してまで俺の邪魔をしてくるは思わなかったがな・・・・。おかげで俺はお前の周りの人間を刈り取ることができず、この女の背から出た刃先で精神を痛めつけてやることくらいしか叶わなくなってしまった。・・・死んでまでとことん目障りな女だ。」
光弘は鞘となって槍に貫かれ揺れている楓乃子を見つめた。
涙で歪む視界の中、心から呼び掛ける。
「姉さん・・・・・。」
「呼んでも無駄だ。魂はあっても心はすでに死んでいる。」
光弘の目からは光が消え、浮かされたように楓乃子の名を呼んだ。
「さぁ、どうする光弘。時間がないのだ。相手が秋津であれば俺もさして急ぎはしなかったが、今は話が別だ。黒や癒となると分が悪い。奴らは得体がしれない。・・・・俺の霧だけでなく俺自身を封じる力を持っているのは厄介だ。せっかく封印がほころんだのだ。これ以上捕まっている理由はない。・・・俺はもう行くぞ。」
「姉さんを・・・返せ。」
光弘は、意識が遠く感じるほどに胸を締め付けられながら、ようやく絞り出すように言った。
「では、すぐに俺と契約を交わせ。お互い悪い話ではない。お前のために一途に生きた女の魂を野ざらしにされたくはないだろ・・・」
宵闇が光弘に語り掛ける中、その誘惑の声を静かに遮るものがあった。
「いい加減、そのうるさい口をつぐんではくれないか・・・・・。」
光弘の耳に、その声は宵闇の手にする槍の先から響いたように聞こえた。
懐かしく愛おしい、今は聞くことの叶わない人物の声だ。
「姉さん・・・・・?」
「みーくん・・・。」
光弘は、叫ぶように宵闇の槍に向かい呼び掛けた。
0
あなたにおすすめの小説
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】
remo
ライト文芸
「もう。あきらめて俺に落ちてこい」
大学付属機関で助手として働く深森ゆの。29歳。
訳あって、恋愛を遠ざけていたけれど、超絶優しい准教授 榊 創太郎に心惹かれ、教生時代の教え子 一ノ瀬 黎に振り回されて、…この春。何かが始まりそうな予感。
⁑恋に臆病なアラサー女子×年下イケメン男子×大人エリート紳士⁂
【完結】ありがとうございました‼
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
天使と狼
トウリン
恋愛
女癖の悪さに定評のある小児科医岩崎一美《いわさき かずよし》が勤める病棟に、ある日新人看護師、小宮山萌《こみやま もえ》がやってきた。肉食系医師と小動物系新米看護師。年齢も、生き方も、経験も、何もかもが違う。
そんな、交わるどころか永久に近寄ることすらないと思われた二人の距離は、次第に変化していき……。
傲慢な男は牙を抜かれ、孤独な娘は温かな住処を見つける。
そんな、物語。
三部作になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる