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暴走
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龍粋からの報告を受け、長は妖月である神妖たちを招集した。
悠の位である、長、龍粋。
界の位である、宵闇、白妙、加具土命、社、たまより。
長は妖月に龍粋の榊の占いでの凶兆を示し、神妖界全体を護る巨大な結界と、避難場所となる主要箇所の強固な結界を緊急で展開するよう伝えた。
過去経験したことのない事態に戸惑いながらも、妖月たちは速やかに各地へ散っていく。
それぞれ大木や大岩などの重厚でかつ頑丈な標を探し出すと、長から託された呪い符を取り出し、羽のように軽い薄紙に書かれた符に念をこめ標に向けて放つ。
手の中をなめらかに・・・滑るように放たれた符は、吸い寄せられるように標に張り付くと、青く燃え上がり、そこに淡く輝く模様を残した。
全ての呪い符を指示された地に張り終えると、長は自らが納める神殿の中心に陣を描き、龍粋に術の発動を託した。
この巨大な結界の強固さは、術の発動者の妖力に比例する。
この場で長が龍粋に託すのは自然なことであったが、当の龍粋は陣の前で動きを止めてしまった。
「龍粋?どうした。」
「・・・・いや。なんでもない。大きな陣だからね、少し緊張してしまったんだ。」
「はははっ。お前ほどの男でも、そんなことがあるんだな。大丈夫。これだけの面々がそろってるんだ。仮にお前が失敗したってなんとかしてやるさ。」
宵闇の言葉に清涼とした笑みを優雅に返し、龍粋は陣の中心へ立った。
印を組み半眼になると、全身全霊を集中させ、陣に念を込めていく。
描かれた陣が光で満たされ始め、しばらくした時。
加具土命が焦るように声を上げた。
「おい。儂の思い違いでなければ、龍粋の奴・・・念を込め過ぎているのではないか。」
その言葉に、妖月全員が息をのんだ。
陣の輝きは既に眩しくて目を逸らしたくなるほどで、中心に立つ龍粋の姿が半分のまれてしまっている。
「龍粋!!もう十分だ!それ以上念を込めるな!」
宵闇が声を上げるが、龍粋は聞こえていないのか念を込めるのを止める様子はない。
長を見ると、なぜか苦し気に表情を歪め、止めることさえできないようでいる。
念を枯渇するほど込めてしまえば、最悪の場合精神を失い、樹木などの意思を持たない生命体に変化してしまう。
古に誕生した命逢の大樹の成り立ちが、まさにそれなのだと言い伝えられていた。
宵闇は心を決め、陣の中へと踏み込もうとした。
もはや陣の成否など関係はない。
宵闇にとって、龍粋を失ってまで得たいものではないのだ。
その時。
宵闇の前を、静かにさえぎったものがいる。
白妙だ・・・・・。
白妙は陣の前に立ち龍粋を見つめると、決して大きくはない声でハッキリと言葉を放った。
「龍粋・・・何を血迷っている。さっさと、正気を取り戻せ。」
「・・・・・。」
「お前がその道を私の目の前で選ぶというのなら、私も共に連れていってもらう。」
その言葉に、龍粋はピクリと身体を震わせたように見えた。
白妙は宵闇を振り返り、清流のように澄み切った瞳で真っ直ぐ宵闇の目を見つめた。
「宵闇・・・・すまない。」
白妙はただその言葉だけを宵闇に残し、陣の中へと足を踏み入れ颯爽と陣の中心へ進んでいく。
陣に足を踏み入れた瞬間。
白妙の衣は燃え上がり、むき出しの皮膚のいたるところは切り裂かれ、鮮やかな赤が白い衣を染めた。
宵闇は、白妙の後を追い陣に飛び込むと、龍粋の前で崩れ落ちていく白妙を、抱き止め、包み込むようにして腕に抱えた。
宵闇も、白妙も、龍粋とは妖気の色が違う。
他の色の陣に触れれば、反動で痛い目をみるのはわかっていたが、龍粋が全力で念をこめ術を発動させている陣だ・・・・・痛い目などと言えるような可愛い反動で済むわけがなかった。
生きながら焼かれる、声を上げることさえできないほどの苦しみと耐えがたい激痛に、皮膚が裂ける痛みすら感じない。
宵闇は歯を食いしばり、意識を失った白妙を加具土命へ向かって放り投げた。
そのまま耐えきれず膝をつき、龍粋を見つめる。
龍粋は今まで見たことのない苦しみの表情を浮かべ、念を込め続けていた。
薄く開かれた瞳の奥に光は感じられず、龍粋が意識を失っていることがわかり、宵闇は絶望した。
龍粋は・・・・止められない。
薄れゆく意識の中で、宵闇は龍粋の頬に一筋伝った流れを見た。
もう声を上げることすらできず、倒れ込みそのまま仰向けになると、宵闇は龍粋の裾を強くつかんで無理矢理笑顔を作った。
いいよ。
どうしてこんなことになったのか分からないけど・・・龍粋がそんなに辛いなら、俺がお前と逝ってやるから。
その代わり、白妙は・・・・勘弁してやって。
宵闇は遠のく意識の中・・・最愛の者の名を、声にならない口で紡いだ。
悠の位である、長、龍粋。
界の位である、宵闇、白妙、加具土命、社、たまより。
長は妖月に龍粋の榊の占いでの凶兆を示し、神妖界全体を護る巨大な結界と、避難場所となる主要箇所の強固な結界を緊急で展開するよう伝えた。
過去経験したことのない事態に戸惑いながらも、妖月たちは速やかに各地へ散っていく。
それぞれ大木や大岩などの重厚でかつ頑丈な標を探し出すと、長から託された呪い符を取り出し、羽のように軽い薄紙に書かれた符に念をこめ標に向けて放つ。
手の中をなめらかに・・・滑るように放たれた符は、吸い寄せられるように標に張り付くと、青く燃え上がり、そこに淡く輝く模様を残した。
全ての呪い符を指示された地に張り終えると、長は自らが納める神殿の中心に陣を描き、龍粋に術の発動を託した。
この巨大な結界の強固さは、術の発動者の妖力に比例する。
この場で長が龍粋に託すのは自然なことであったが、当の龍粋は陣の前で動きを止めてしまった。
「龍粋?どうした。」
「・・・・いや。なんでもない。大きな陣だからね、少し緊張してしまったんだ。」
「はははっ。お前ほどの男でも、そんなことがあるんだな。大丈夫。これだけの面々がそろってるんだ。仮にお前が失敗したってなんとかしてやるさ。」
宵闇の言葉に清涼とした笑みを優雅に返し、龍粋は陣の中心へ立った。
印を組み半眼になると、全身全霊を集中させ、陣に念を込めていく。
描かれた陣が光で満たされ始め、しばらくした時。
加具土命が焦るように声を上げた。
「おい。儂の思い違いでなければ、龍粋の奴・・・念を込め過ぎているのではないか。」
その言葉に、妖月全員が息をのんだ。
陣の輝きは既に眩しくて目を逸らしたくなるほどで、中心に立つ龍粋の姿が半分のまれてしまっている。
「龍粋!!もう十分だ!それ以上念を込めるな!」
宵闇が声を上げるが、龍粋は聞こえていないのか念を込めるのを止める様子はない。
長を見ると、なぜか苦し気に表情を歪め、止めることさえできないようでいる。
念を枯渇するほど込めてしまえば、最悪の場合精神を失い、樹木などの意思を持たない生命体に変化してしまう。
古に誕生した命逢の大樹の成り立ちが、まさにそれなのだと言い伝えられていた。
宵闇は心を決め、陣の中へと踏み込もうとした。
もはや陣の成否など関係はない。
宵闇にとって、龍粋を失ってまで得たいものではないのだ。
その時。
宵闇の前を、静かにさえぎったものがいる。
白妙だ・・・・・。
白妙は陣の前に立ち龍粋を見つめると、決して大きくはない声でハッキリと言葉を放った。
「龍粋・・・何を血迷っている。さっさと、正気を取り戻せ。」
「・・・・・。」
「お前がその道を私の目の前で選ぶというのなら、私も共に連れていってもらう。」
その言葉に、龍粋はピクリと身体を震わせたように見えた。
白妙は宵闇を振り返り、清流のように澄み切った瞳で真っ直ぐ宵闇の目を見つめた。
「宵闇・・・・すまない。」
白妙はただその言葉だけを宵闇に残し、陣の中へと足を踏み入れ颯爽と陣の中心へ進んでいく。
陣に足を踏み入れた瞬間。
白妙の衣は燃え上がり、むき出しの皮膚のいたるところは切り裂かれ、鮮やかな赤が白い衣を染めた。
宵闇は、白妙の後を追い陣に飛び込むと、龍粋の前で崩れ落ちていく白妙を、抱き止め、包み込むようにして腕に抱えた。
宵闇も、白妙も、龍粋とは妖気の色が違う。
他の色の陣に触れれば、反動で痛い目をみるのはわかっていたが、龍粋が全力で念をこめ術を発動させている陣だ・・・・・痛い目などと言えるような可愛い反動で済むわけがなかった。
生きながら焼かれる、声を上げることさえできないほどの苦しみと耐えがたい激痛に、皮膚が裂ける痛みすら感じない。
宵闇は歯を食いしばり、意識を失った白妙を加具土命へ向かって放り投げた。
そのまま耐えきれず膝をつき、龍粋を見つめる。
龍粋は今まで見たことのない苦しみの表情を浮かべ、念を込め続けていた。
薄く開かれた瞳の奥に光は感じられず、龍粋が意識を失っていることがわかり、宵闇は絶望した。
龍粋は・・・・止められない。
薄れゆく意識の中で、宵闇は龍粋の頬に一筋伝った流れを見た。
もう声を上げることすらできず、倒れ込みそのまま仰向けになると、宵闇は龍粋の裾を強くつかんで無理矢理笑顔を作った。
いいよ。
どうしてこんなことになったのか分からないけど・・・龍粋がそんなに辛いなら、俺がお前と逝ってやるから。
その代わり、白妙は・・・・勘弁してやって。
宵闇は遠のく意識の中・・・最愛の者の名を、声にならない口で紡いだ。
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