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10話、姫騎士とメイド(4)
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「ダークエルフの魔道士にピクシーですか? クリスタどう思います?」
真っ直ぐリリ達を見たまま、クラウディアは振り返らずにクリスタに聞く。
「ダークエルフとピクシーにであれば、クリスタもクラウディア様、それどころかディアナやエマですら、後れを取ることはないと思います」
微動だにしないクラウディアとクリスタ。
二人に見つめられ、どうしようかと悩むリリと、まだ怒りの収まることのないイヴァ。
(いきなり戦闘? やめて、わたしがそんなに可愛いからって、そんなに見ないで!)
「というかイヴァ、やってくれたわね……後でお説教よ」
心の中で悪態をつき、誰にも聞こえないように小さく呟くリリ。
しかし、クリスタの注意自体は二人に向けられていない。
「それよりも、後ろにいるマントの少女、あれはおそらく」
「ゴブリン、ですわね?」
クラウディアがドヤ顔で答えた。
「いえっ? ハイ・オークかと」
「っえ!?」
「クラウディア様の目は、相変わらずの節穴ですね」
クリスタの言葉を聞き、エマがすぐさま諌める。
「こら、クリスタ! お嬢様になんてことを」
(ププッ姫騎士さん、これは色々と恥ずかしい奴だ!)
クラウディアは顔を赤くするが、振り払うように咳払いをして話を続けた。
「コホンッ、それで? クリス、だからなんだというのですか?」
「ダークエルフ、ピクシー、ハイ・オーク、この三種は亜人の中でもなかなか出会えない種族です、だからこそ情報戦で負けています」
「それで?」
「戦闘になっては、ディアナとエマの犠牲は必要でしょう、ハイ・オーク単体ですら関わらないのが常識です」
「戦えば、どちらかが死んでしまうと?」
「おっしゃる通りでございます」
(丸聞こえですよー、そういうのは小声でやりません?)
「おなかすいたー、リリ早く行こ?」
今回も、ギルド内では基本的に沈黙を保っていたラーナだったが、明るい声で急ぐように促す。
(さっきのメイドさんのセリフ聞いていたよね? 相変わらず自由ねー)
「っえ、っあぁ、はい」
リリの焦った返事を聞くと、ラーナはさっさと歩き出した。
「っ! 待ちなさ……い……」
止めようとしたクラウディア達にラーナが睨みをきかせる。
ラーナの威圧的な目に、クラウディアはすぐさま腰のレイピアに手を置き身構える。
クリスタも背中のナイフに手を回している。
(やっぱり聞こえていたのね、怒っているじゃない)
そこに相変わらず空気の読めないソフィアの声が入ってくる。
「おいおいー、君たちは一悶着起こさないとギルドを出られない、そんな呪いでもかかっているのかいっ?」
「ソフィア!? お願いだから、ややこしくしないで!」
「リリちゃんは酷い言いようだなぁ、まったくー……それじゃあこうしようかっ」
(ソフィアの提案なんて、嫌な予感しかしないんですけどー、聞ーきーたーくーなーいー)
リリの願いは届かない、ソフィアは飄々と話しを続ける。
「料理対決で買ったほうが、負けたほうの言うことを聞く、これでどうだいっ?」
「なぜ勝負なんて? それにわた……」
リリの反論は、ソフィアの指によって口を塞がれ止められる。
「リリちゃんの疑問や意見は必要ないんだよねぇ、因みにイヴァちゃんは、リリちゃんの料理を食べたいだろう?」
「っえ? あぁ、妾は甘いものが食べたい!」
(いやっ、会話になってないし! いろいろと間違いだらけだから!)
ソフィアはリリの反論を言うより前、すぐさまラーナにも質問をする。
「ラーナちゃんも、お腹空いていると言っていたよねっ?」
「まぁ……」
「それなら、リリちゃんの料理を早く食べたいだろう?」
「それは……うん」
「ほらっ、こっちサイドは万全だねっ!」
ソフィアが両手を広げてアピールする。
もちろん、リリは納得していない。
(当人のわたしを除いてだから、万全じゃあないんだけどー)
「それでメイドちゃん、アンに聞いたんだけど、君のお嬢様は花嫁修業に来たんだろう?」
「はぁ、そうですね」
「なら内容に料理も含まれるわけだ」
「確かに、料理も必修ではございます」
「これ! やめなさいクリスタ!」
淡々と答えたクリスタを、エマが諌める。
(っえ! 花嫁修業? あの姫騎士さんは何を考えて花嫁修業で冒険者ギルドなんかに?)
とんとん拍子に話し合いが進んでいくので、リリはずっと口が挟めずにいた。
「なら、問題はないじゃあないか! 戦闘じゃラーナちゃんに勝てるわけ無いだろうし、何より私が面白くない!」
(ソフィアの奴、自分の為って言い切ったわね)
「料理なら勝敗のバランスも利害も効率も全部がクリアできる、どうせお嬢様達の目当ては私なんだろう? 正確には私の秘薬が目当てといった所だねっ」
「どういうこと?」
その言葉と態度で一瞬の間が空き、リリがようやく質問をした。
「あぁ天才の私の作った秘薬は、健康だけじゃなく、髪にも美容にも効くからねっ、あぁ人気すぎて困ってしまうよー」
自信過剰にも程があるようなソフィアの台詞。
そこでクラウディアが質問をした。
「では、貴女様が砂漠の錬金術師、ソフィア・テイラーペレス様で間違いないと?」
「いかにもその通り、だから勝負で勝った方が言うことを聞いてもらえるというのは君達のメリットの方が大きいのさっ」
「というと……」
「普段じゃあ絶対にしないが、今回は特別に私の秘薬を幾つかベットしてやろう、どうだいっ? お嬢様方?」
(わたしのメリットは? 何にも無いんですが、やりたくないんですが)
真っ直ぐリリ達を見たまま、クラウディアは振り返らずにクリスタに聞く。
「ダークエルフとピクシーにであれば、クリスタもクラウディア様、それどころかディアナやエマですら、後れを取ることはないと思います」
微動だにしないクラウディアとクリスタ。
二人に見つめられ、どうしようかと悩むリリと、まだ怒りの収まることのないイヴァ。
(いきなり戦闘? やめて、わたしがそんなに可愛いからって、そんなに見ないで!)
「というかイヴァ、やってくれたわね……後でお説教よ」
心の中で悪態をつき、誰にも聞こえないように小さく呟くリリ。
しかし、クリスタの注意自体は二人に向けられていない。
「それよりも、後ろにいるマントの少女、あれはおそらく」
「ゴブリン、ですわね?」
クラウディアがドヤ顔で答えた。
「いえっ? ハイ・オークかと」
「っえ!?」
「クラウディア様の目は、相変わらずの節穴ですね」
クリスタの言葉を聞き、エマがすぐさま諌める。
「こら、クリスタ! お嬢様になんてことを」
(ププッ姫騎士さん、これは色々と恥ずかしい奴だ!)
クラウディアは顔を赤くするが、振り払うように咳払いをして話を続けた。
「コホンッ、それで? クリス、だからなんだというのですか?」
「ダークエルフ、ピクシー、ハイ・オーク、この三種は亜人の中でもなかなか出会えない種族です、だからこそ情報戦で負けています」
「それで?」
「戦闘になっては、ディアナとエマの犠牲は必要でしょう、ハイ・オーク単体ですら関わらないのが常識です」
「戦えば、どちらかが死んでしまうと?」
「おっしゃる通りでございます」
(丸聞こえですよー、そういうのは小声でやりません?)
「おなかすいたー、リリ早く行こ?」
今回も、ギルド内では基本的に沈黙を保っていたラーナだったが、明るい声で急ぐように促す。
(さっきのメイドさんのセリフ聞いていたよね? 相変わらず自由ねー)
「っえ、っあぁ、はい」
リリの焦った返事を聞くと、ラーナはさっさと歩き出した。
「っ! 待ちなさ……い……」
止めようとしたクラウディア達にラーナが睨みをきかせる。
ラーナの威圧的な目に、クラウディアはすぐさま腰のレイピアに手を置き身構える。
クリスタも背中のナイフに手を回している。
(やっぱり聞こえていたのね、怒っているじゃない)
そこに相変わらず空気の読めないソフィアの声が入ってくる。
「おいおいー、君たちは一悶着起こさないとギルドを出られない、そんな呪いでもかかっているのかいっ?」
「ソフィア!? お願いだから、ややこしくしないで!」
「リリちゃんは酷い言いようだなぁ、まったくー……それじゃあこうしようかっ」
(ソフィアの提案なんて、嫌な予感しかしないんですけどー、聞ーきーたーくーなーいー)
リリの願いは届かない、ソフィアは飄々と話しを続ける。
「料理対決で買ったほうが、負けたほうの言うことを聞く、これでどうだいっ?」
「なぜ勝負なんて? それにわた……」
リリの反論は、ソフィアの指によって口を塞がれ止められる。
「リリちゃんの疑問や意見は必要ないんだよねぇ、因みにイヴァちゃんは、リリちゃんの料理を食べたいだろう?」
「っえ? あぁ、妾は甘いものが食べたい!」
(いやっ、会話になってないし! いろいろと間違いだらけだから!)
ソフィアはリリの反論を言うより前、すぐさまラーナにも質問をする。
「ラーナちゃんも、お腹空いていると言っていたよねっ?」
「まぁ……」
「それなら、リリちゃんの料理を早く食べたいだろう?」
「それは……うん」
「ほらっ、こっちサイドは万全だねっ!」
ソフィアが両手を広げてアピールする。
もちろん、リリは納得していない。
(当人のわたしを除いてだから、万全じゃあないんだけどー)
「それでメイドちゃん、アンに聞いたんだけど、君のお嬢様は花嫁修業に来たんだろう?」
「はぁ、そうですね」
「なら内容に料理も含まれるわけだ」
「確かに、料理も必修ではございます」
「これ! やめなさいクリスタ!」
淡々と答えたクリスタを、エマが諌める。
(っえ! 花嫁修業? あの姫騎士さんは何を考えて花嫁修業で冒険者ギルドなんかに?)
とんとん拍子に話し合いが進んでいくので、リリはずっと口が挟めずにいた。
「なら、問題はないじゃあないか! 戦闘じゃラーナちゃんに勝てるわけ無いだろうし、何より私が面白くない!」
(ソフィアの奴、自分の為って言い切ったわね)
「料理なら勝敗のバランスも利害も効率も全部がクリアできる、どうせお嬢様達の目当ては私なんだろう? 正確には私の秘薬が目当てといった所だねっ」
「どういうこと?」
その言葉と態度で一瞬の間が空き、リリがようやく質問をした。
「あぁ天才の私の作った秘薬は、健康だけじゃなく、髪にも美容にも効くからねっ、あぁ人気すぎて困ってしまうよー」
自信過剰にも程があるようなソフィアの台詞。
そこでクラウディアが質問をした。
「では、貴女様が砂漠の錬金術師、ソフィア・テイラーペレス様で間違いないと?」
「いかにもその通り、だから勝負で勝った方が言うことを聞いてもらえるというのは君達のメリットの方が大きいのさっ」
「というと……」
「普段じゃあ絶対にしないが、今回は特別に私の秘薬を幾つかベットしてやろう、どうだいっ? お嬢様方?」
(わたしのメリットは? 何にも無いんですが、やりたくないんですが)
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