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15話、とてつもなく大きな鶏肉(4)

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【内臓の下処理】

「よしっ! それじゃあラーナ、わたし達も内蔵を下ごしらえしていきましょー!」
「もっと欲しかったなぁ」
「充分でしょ!?」
「まぁいっか、それでどうしたらいいの? 切るの?」
「切るというよりかは掃除をするといった方が正しいわ、筋とか脂の塊とか臭くなりそうな所や、腐りやすい所は取り除いて欲しいの」
「あぁ下処理ね」
「その後に小さく切ったら、血を洗い流して、キレイな水に漬けて、少し待つ」
「待つの?」
「血を抜きたいからね、それを3回ぐらい」
「水足りる?」
「ふふーん、洗う用の水はここに出しといたわ!」
「はーい」

(こんなに大きいんだし肝臓と砂肝、あと心臓はレバーペーストでいっか、保存もしやすいし小分けもしやすいしね)

「残りは……うーん……っあ、あぁガランティーヌにしよっと、このサイズのガランティーヌは楽しそうだわ、もも肉だけでも使えば燻製をする量が減るし、これは名案だわ!」
「ガランティーヌって?」
「それはね……」

 リリは前世の話しは除いて説明を始める。
 ガランティーヌはフランスの郷土料理だ、開いた鶏肉で鶏のミンチやキノコ、ピスタチオなどで作ったタネを包んだ料理である。
 今回リリは、もも肉で内蔵を包もうという算段なのだ。
 メニューが決まり、リリは使うであろう、もしくは使えるであろう調味料を用意するためにふてくされているイヴァに声をかけることにした。

「イヴァー、この前って香辛料は何を買ったっけ?」
「いろいろじゃな?」

 リリが聞くとイヴァは目の前に黒いモヤを出し覗き込んだ。

「見て見んことには……どれどれ?」

 黒い靄に上半身が飲み込まれていく姿は、リリには摩訶不思議に見えた。
 イヴァは確認しながら、次々と言葉に出す、黒い靄から声が響く。

「ブラックペッパーにガーリックじゃろ……あとセージ、ローリエ、ローズマリー、ここらへんはちゃんと揃えてあるみたいじゃな? あとはオレガノ、コリアンダー、カイエンヌ、カッパリス、オニオン、パセリ……こんなところじゃな?」
「じゃあコリアンダーとカッパリスとブラックペッパー、ガーリック、オニオンあとは……カイエンヌとローリエをちょうだい」
「分かったのじゃ」
「あと白ワインと木の実ってある?」
「白ワインは無いのぉ、木の実なら砂漠の苺とピスタチオとクルミ、アーモンドならあるぞ?」
「砂漠の苺って果物じゃないの?」

 リリも色々とカルラ・オアシスの出店で買い漁った中でも、物珍しさで買った砂漠の苺のことは覚えていた、見た目は苺そのままで赤く小さな果物だと思っていた。

(てっきり苺の亜種みたいなものかと思ってたわー)

「あぁ、見た目はいちごに見えるが、れっきとした木の実じゃぞ? 砂漠地帯のサボテンにしか付かない、珍しい木の実じゃ」

 イヴァが取り出した砂漠の苺の匂いを嗅いでみると、甘さとスパイシーさの共存する、爽やかな香りがした。

(これは……オールスパイスに近いわね)

「面白い香りのする木の実ねー」
「じゃろ?」
「今回はこれも使うわ、パンと砂漠の苺は、たくさん出してもらっていい?」
「分かったのじゃ」
「あとこの前買った靴も! あそこによろしくー」

 リリは大きな布を広げ、指差しながらそう言った。

「わかったのじゃ、ほれっ!」

 イヴァは収納魔法から顔を出すと、バラバラとまとめて出した。

「相変わらず雑に出すわねー」

 やれやれといった感じで答えるリリ

「いいじゃろーが、1つ1つとだすのは面倒なんじゃ!」

(っま、わかってて布を広げたんだけど)

「っあ! あとパンだけは樽に出しといて」

 そう言って空の樽を指差すリリ。

「わかったのじゃ」
「頼んだわねー」

(さぁ作ろっと! 今日は大物だし、気合い入れていかなきゃ、今日こそ徹夜はしたくない! ちゃちゃっとやらなきゃね)

 リリは半ば諦めながらも、自分に言い聞かせる。
 そしてピクシー用の小さな鉄靴に履き替えた。

【様々な内臓のペースト】

[1、スパイスを用意する]

「まずはペースト用の香辛料! コリアンダーとブラックペッパーを潰して、と」

 ボウルのような陶器の器にコリアンダーとブラックペッパーを入れる。
 その内の一つを飛び上がり踵で思いっきり踏むと、パキッっという気持ちのいい音を立てて種が割れた。

「よしっ、よーぉし! 割れるわ、全然割れる! これでまた一つ、わたしもやれることが増えたわ!」

 喜びながら種子を潰す姿は、まるでアクロバティックなタップダンスを踊っているようにも見える。
 鉄靴と器が当たる音、種の割れる音、リズミカルに小気味よく、カンッ、カンッ、パキッ、パキッと辺りに暫らく響いた。

「あー終わっちゃった、結構楽しかったのにざんねーん」

 あっという間に全てを潰したリリは残念そうに呟いたが、表情は笑顔そのものだった。

(これはハマるわ、またやろーっと)

 靴を脱ぐリリの上から、クラウディアが覗き込むように声をかける。

「始めてみましたわ! ピクシーは美味しい料理のために、宙を舞い踊ると噂では聞きましたが、本当でしたのね」
「踊り?」
「その踊りにどんな効果があるのか興味がありますわ!」
「…………あー、これは肉の臭みが取れるのよ」

(なんか誤解してるみたいだけど、そのままにしとこっと、勘違いしてるクラウディアってなんか面白いしね)

「その魔法はもしかして『ヴェルキンドの冒険譚』で書かれてる妖精の秘法ですか!? 是非! 私にも教えて下さいませんか!?」

 身を乗り出して、鼻息荒く聞いてくるのでリリは気圧されて尻もちをついてしまう。
 リリが知っている、冷静で憎たらしいクラウディアとは似つかわしくない反応だ。

(おっとっとぉ! 秘法ってなに? よくわかんないけど、面白そうだしそういうことにしーとこ、クスクスッ)

「そうなんですよー、でも残念なことに、妖精の秘法なので教えられないのー」

 リリは堂々と明るく嘘をついた、
 たまたまではあるが、この行動は一般的なピクシーの行動にとても近かった。
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