死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

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9話 悲劇

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 ◇◇◇ 

 エルビス様に出会うまでの私は、恋の一つもしたことがなかった。
 辺境で貧乏な男爵家に産まれた私。不満は何もなかったけど、どこか退屈していて、心のどこかで王子様が現れるのを夢見ていたような、普通の女の子だった。

 だからエルビス様が目の前に現れた時、王子様が迎えに来てくれたと本気で思った。
 幸せで嬉しくて、一瞬で恋に落ちた。一度目の人生の私は、恋に溺れていたんだと思う。彼のことを私は何も見えていなかった。

『このままが続けば、グラスウール伯爵家はアルサファリア王国で指折りの大富豪になるんだけどな』

 恋のフィルターがかかって、都合の悪いことを見ようとしなかった。何も聞こえないフリをした。馬鹿な私、あんな男のどこが良かったんだんだか。騙された私が、ただ愚かだっただけ。

 私は、騙された自分のことも大嫌い。
 だから――――例え国中から非難されることになろうとも、一緒に地獄に落ちる覚悟はしているわ。

 ◇

「――首尾はどう?」

 結婚後、薬の調達も兼ねて、ケント様とは定期的に交流を続けていた。
 ギルバレド公爵家研究所の診察室にお邪魔していた私は、服薬についての副作用などの問診を受けていて、その中で尋ねられた質問にすぐに答えた。

「申し訳ありません、毒に関しては進展がありません」

 注意深く探ってはいるつもりだけど、今のところ、毒の気配は微塵もない。当然か、私が用済みになるのは子供が産まれた後で、今は大切な子供を産む道具だから殺すわけにはいかないものね。

「それもそうだけど、君の全体の状況だよ」

 未知の毒に関しての質問だと思っていたのだが、私の答えに、ケント様は首を横に振った。

「全体とは?」

「君の復讐とやらの経過」

 ケント様が興味があるのは未知の毒のはずなのに、私の復讐も気にするのね。
 まぁ結婚式の時にあんなヘマをしてしまったんだから、心配するのも当然か。私が失敗したら、未知の毒が手に入らなくなるものね。

「問題ありません、不倫の証拠は着々と手に入れています」

 私を舐め腐っているエルビス様は、堂々と屋敷の中でも浮気をしていた。それこそ、一度目の人生の私はどうして気付かなかったのかと不思議に思うほど。

「体の関係は? ちゃんと避けられてる?」

「はい、ケント様の薬のおかげで」

 結婚初夜、エルビス様は私を抱く前は必ずお酒を嗜んでから行為に及んでいたから、それを利用すれば、薬を仕込ませるのは容易だった。あとは前もって用意していた赤いインクをわざとらしくシーツにつければ準備は完了。ケント様お手製の薬は、現実と夢の区別もつかないらしく、お酒の力も手伝って、エルビス様は私を抱いていると思い込んでいた。
 ただ、朝、愛する人に抱かれて幸せな自分を演じなければならないのだけは、億劫だったけど。

「なら良かった。追加の薬は必要?」

「いいえ、エルビス様は暫く帰ってこないので、必要ありません」

「帰ってこない?」

「はい、エルビス様が私に用があるのは子供が生まれやすい期間だけなので、それ以外は仕事だと嘘をついて外泊しています」

 エルビス様が私を抱くのは、排卵日の近い日のみ。
 それ以外は抱かないし、私の部屋に来ることも共に休日を過ごすことも、一緒に朝を迎えることもない。更に結婚から少し日が経ってからは、長期の仕事だと嘘を付き、必要な日以外はアイラと義両親を連れて別宅で過ごされていた。

「……グラスウール伯爵はどれだけ最低な男なんだ?」

「自由に動きやすくてなによりです」

 一度目の人生の私は、エルビス様の言葉を信じ切っていて何も気付かなかった。お仕事が忙しくて大変そうだと、お仕事を頑張っているエルビス様が素敵だと、本気で思っていた。全て偽りなのにね。

「なので私も、その期間、実家に帰る許可を頂きました」

 実家に帰りたい、とのお願いに『仕事だからと君を放置しているのが申し訳なかったんだ』と、エルビス様は笑顔で応じてくれた。本心は私がいない方が堂々と本邸で過ごせるし、アイラといちゃいちゃ出来るからでしょうけど。

「それで、今でも巻き込んでしまっているのに申し訳ないのですが、ケント様にも、私の実家について来て欲しいんです」

「カスターニア男爵家に? 僕が?」

「はい、ケント様に見て頂きたいものがあるのです。これは、ケント様にとっても――ギルバレド公爵家にとっても、いえ、アルサファリア王国にとって重要なことだと思います」

「随分、規模が大きいな。一体何事?」

 死に戻りをした私は、一度目の人生で起こったを知っている。

「アルサファリア王国では近い未来、大規模な食糧危機が起こり、多くの民が命を落とすことになります」

「――っ」

 目の前でケント様が大きく息を飲んだ。
 そうですよね、私の話が事実なら、これはアルサファリア王国全体の危機を示している。でもこれは実際に私が一度目の人生で起こったことだから、信じてもらわないと困る。

「原因を聞いても?」

「詳しくは知りません、ただ、《ヤツリグサ草》と呼ばれる植物が原因で農作物が枯れ果ててしまい、民に食料がいきわたらなかったことが原因だと聞いています」

「ヤツリグサ草か、聞いたことがない植物だね。どこで最初に発生したか分かる?」

「いいえ」

「ヤツリグサ草の見た目は?」

「いいえ、知りません」

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