死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

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10話 実家へ

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 ヤツリグサ草を直接見たこともなければ、どこで最初に現れてどこからどう広がったのかも知らず、ただ、エルビス様達がしていた会話の中で知った知識しか持っていない。

『ヤツリグサ草という厄介な植物が現れて、農作物が枯れ始めているらしいですね』
『ギルバレド公爵が必死で新しい薬を開発しているが、まだ時間がかかるらしいぞ』
『うちは被害がなくて良かったわね』

 どこか他人事のような会話。
 グラスウール伯爵家もまた、野菜や穀物などの農作物を扱う事業を行っていたが、グラスウール領ではヤツリグサ草の被害は出ず、国中が大変な中、餓死とは無縁の生活を送っていた。

「未来のギルバレド公爵様は――ケント様は、暫くして、ヤツリグサ草を除去する薬を開発していました」

 餓死者が多く出たのは、殆どが平民だった。
 薬の開発に時間がかかった分、被害は広がり、結果、食料が民に行き渡らず、死者の数は増えてしまったのだ。

「残念だけど、例え未来の僕が除草剤を開発出来ていたとしても、実物がなければ薬は作れない。未知の毒と同じだ」

 あんな悲劇は二度と起こしたくない。
 でも、お飾りの伯爵夫人として悠々自適に暮らして来た私は、ヤツリグサ草について何も知ろうとせず、役に立つ知識の一つも持っていない。例え未来を知っていたとしても、無力な私に出来ることは何もないと思っていた。

「実物があれば、どうにかして下さいますか?」

「ヤツリグサ草がある場所を知っているのか?」

 だけど、二度目の人生を送るうちに、気付いたことがある。

「何も知りません。でも、ヤツリグサ草の特徴だけは、聞いたことがあります」

 昔からずっと不思議だった。
 どうして私のお父様の領土、カスターニア領は、水は綺麗で空気も良く、周りには木や草木が生え揃っている自然溢れる土地なのに、農作物が出来ないんだろう、と。収穫出来る農作物も多少あるにはあったが、殆どが畑を耕しても作物は採れる前に枯れ、花は萎れる。売れない草や木だけが生え揃う不思議な土地。
 これらの特徴は、ヤツリグサ草の被害にあった土地と一致する。被害のあった土地も、農作物や花だけが枯れ果て、木々や食べられない草木は無事だった。

「もしかしたらヤツリグサ草は、私の実家があるカスターニア領に生息している可能性があるんです。断定は出来ませんし、これ以上ケント様を巻き込むのは申し訳ないのですが、力を貸して欲しくて……」

 結局、私一人ではどうすることも出来なくて、ケント様を頼ることになってしまう。

「どうしてイリアが謝るんだ? 民の悲劇は見過ごせないし、力を貸すのは当然だろう」

「……! そう……ですか」

 良い人、あまりにも自然に応じるから、驚いた。

(エルビス様とは、グラスウール伯爵家とは大違い)

 最低最悪なグラスウール伯爵家の皆様。この悲劇を回避することは、グラスウール伯爵家の復讐にも繋がると、私は知っている。

(だってエルビス様達は、この悲劇を利用して、甘い蜜を吸っていたから――)

 悲劇が起きているアルサファリア王国の現状を酒の肴に、笑いながら会話をしていたエルビス様達を、心底軽蔑します。

 ◇

 カスターニア男爵家は、生活はいつもカツカツな貧乏貴族だった。
 社交界に足を運ぶこともままならない貧乏貴族だから、我が家はギルバレド公爵家当主のケント様にも当然お会いしたことがなくて――

「よよよよよよよようこそギルバレド公爵様! ここここここのような田舎に足を踏み入れて下さいまして、一体全体何のご用でしょうか!?」

 ……お父様、緊張し過ぎ!

「父が失礼しました、カスターニア男爵家長男のグレイブと申します。この度はギルバレド公爵様ともあろうご立派な方が、このような辺境の地に何か御用でしょうか? それも、妹と一緒に――」

 お父様を押し退けて前に立つグレイブ兄様。
 こんな大物をいきなり連れて帰って来た妹を不審に思うのは分かるけど、そんな冷たい目で私を見ないでよね! グレイブ兄様の視線が痛いから!

「突然の来訪失礼しました、イリアから興味深い植物の話を聞いたので、こうしてこちらに足を運ぶことになりました。滞在中はお世話になりますが、よろしくお願いします」

「興味深い植物?」

「こここここここここちらこそよよっよよろしく――」

「お父様、ちょっと下がりましょうか」

 グレイブ兄様に任せた方が良いと判断した私とお母様は、お父様の手を引いて後ろへ下がらせた。

 ◇

「お父様が大変失礼しました」

 話を終え、ケント様に用意した部屋に案内した私は、お父様の失態について深く頭を下げた。

「どうして? 面白いお父様だったよ、あからさまなおべっかを使ってくる人間より遥かに良い」

 緊張し過ぎて何を言っているのか、聞き取るのも難しかったですけどね。

「そう言って頂けるのは嬉しいのですが、父はなにぶん優しすぎる性格をしていおりまして、人を疑うことを知らずによく騙されてしまうんです」

 実はうちが貧乏なのは、お父様が何度も騙されてしまうことも、要因の一つだったりする。

「確かに、それはそうなのかもね。だけどカスターニア男爵令息――グレイブはしっかりしているようだし、良い家だと思うよ」

「……ありがとうございます」

 大好きな家族を褒められるのは、素直に嬉しい。

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