死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

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36話 最後の復讐



 ――――カスターニア子爵家からの融資を打ち切られ、不貞も全てバレたグラスウール伯爵家は、残り少ない繋がりのあった家や商人も、グラスウール伯爵家で一番の力を持っているおじい様とやらにも早々に見切りを付けられ、衰退の道を進んだ。
 今ままで全く危機感を持っていなかったアイラも流石に異変を感じ、自分の置かれている状況を理解した。極貧になったグラスウール伯爵家では今でのような贅沢な暮らしは出来ず、かと言って不貞女のレッテルを張られたアイラに他に行く場所はなく、ただ惨めで、苦痛な日々を過ごすしかなかった。

 自分達がこんな目に合っているのは全て私の所為だと、あの人達が考えるつくのは当然だった。

 ◇

 離婚当日――

 全ての離婚の手続きを終え、残すは、離婚届けへの署名のみ。
 待ち合わせをしていた役所近くの建物で、数か月ぶりにエルビスと会った。

「……久しぶりだな、イリア」

 エルビスの姿は以前とは打って変わってくたびれていて、これがあのグラスウール伯爵の姿だと思うと、滑稽で笑えてしまう程だった。

「随分みすぼらしい姿ね、エルビス。以前の私の実家を貧乏貴族だと嘲笑っていたけど、それ以上に酷いわ」

 屈辱に歪む顔。
 私の望み通り、貴方達の悪事をバラし伯爵家を衰退に追い込んだ。これで地獄に落とせたと思う人もいるだろう。だけど、私はそれだけでは満足出来ない。

「最後にイリア、君に謝罪をさせてくれないか?」

「……いいわよ」

 促されるまま、エルビスが取ったであろう部屋の一室に入り、テーブルがある椅子に腰掛ける。そのテーブルの上には、いつの間にか用意されていたティーセットが置かれていた。
 紅茶、砂糖、ティーカップ――どれも怪しく見えるけど、どれにが含まれているのかは、分からない。

「イリアのために美味しい紅茶を用意したんだ」

「……そう」

 あの人達はきっと私を殺す。この中に、私を殺すための毒がある。
 エルビスに気付かれないよう、紅茶とコップのふちをハンカチに含ませ拭い、砂糖を包んでポケットに隠した。

 毒を見つけることは、私の最大の目的だった。私を殺した憎い毒。出来ることなら、きちんと毒を見つけた後に――――死ぬつもりだった。
 最初から幸せになるつもりはない、未来を生きるつもりもない。
 私は最初から、エルビス達に消えることのない人殺しの罪を背負わせ、地獄に叩き落するもりだった。

(大丈夫、私が死んでも……きっとケント様なら、毒を発見して下さるはず)

 ケント様にきちんと毒を手渡し、解明してもらってから毒で死んだ方が確実だと、今まで毒を探していたけど、もう限界だった。
 このまま生きていれば……甘い誘惑に負けて、復讐の誓いを破ってしまう。

「結婚生活紅茶だ。じっくり味わってくれ」

 人生最後の紅茶だとでも言いたげね。いいよ、貴方を地獄に落とすためなら、喜んで口にする。

「……いただきます」

 コップを持つ手は震えていたけど、ずっと覚悟はしていた。この為に、私は復讐を誓い、人生をやり直した。
 だけど――――!

「……飲めない……! 飲めないです、ケント様っ!」

 死にたくない、もう一度死ぬのは嫌! 生きたい! 生きて、今度こそは、この手に子供を抱きしめたい!

「なっ! いいから飲め! お前の所為で俺達家族は滅茶苦茶になったんだぞ! アイラとの幸せな家庭も持てなくなったんだ! お前の所為で真実の愛を貫けなかったんだ!」

「アイラと幸せになりたかったなら、全部捨てて、人を巻き込まずに勝手にやりなさいよ! それすらも出来なかったくせに真実の愛とか、笑わせるわ!」

「このっ!」

 掴みかかってくる衝撃を覚悟して目を閉じたけど、衝撃は訪れなかった。それどころか、目の前でエルビスは苦しむように床に這いつくばっていて。

「無事に薬が効いて良かった」
「ケント様!」

 平然と部屋の中に入ってくるケント様の背後には沢山の人がいて、苦しみ悶えるエルビスを乱暴に抱え、連れ去った。

「これは……」

「彼が飲んでいた紅茶に、体が痺れる薬を入れたんだ。命に別状は無いから、安心していいよ」

 別にエルビスの心配はしてないけど……薬を入れておいた? 前もってってこと? 視線で私の疑問に気付いたケント様は、答えを口にした。

「彼等には見張りを付けていたから、ここを特定するのは容易だったよ。別部屋で待機していたアイラも前グラスウール伯爵夫妻も捕らえたし、既に毒も手に入れた」

「……じゃあ、私がこの部屋に来たのも……」

「ああ、全て裏で見ていたよ」

 嘘……全然気付かなかった!

「イリアは自己犠牲が過ぎるからね。また何かよからぬことを考えているんだろうな、とは思っていたから、途中で意図に気付いたよ。だからあえて泳がせてあげた。ああ、毒は前もって抜いてあったから、心配いらない。イリアを殺させたりはしないけど、殺人未遂の罪は被せられるだろ?」

「……そう、だったんですね」

 全ては、ケント様の手の上だったってこと?

「これでイリアの復讐は終わりだね」

「……そうですね」

 希望通りの殺人者の罪を背負わせることは出来なかったけど、子爵令嬢を殺害しようとしたとなれば、未遂でも重い罰を与えられる。グラスウール伯爵家はもうお終いだろうし、共犯のお義母様もお義父様も、生きて日の出を浴びることはないだろう。平民のアイラに至ってはもっと重い罰が与えられるかもしれないけど、私には関係ない。
 どうぞそのまま地獄に落ちて、二度と私の前に姿を現さないでね。

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