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4話 婚約者様に会いに
しおりを挟むリシャルだけ愛のある結婚をするなんて許さない。幸せになるなんて、許さない。
「問題は、私と会って下さるかだけど……」
私は今十九歳で、インテレクト公爵様とはこの帝国の成人である二十歳での結婚を約束している。残る期間は、あと一年。拒否されるの前提で、会えるまで何度も通うしかない。
「冷酷非情な血の公爵……アクト様」
社交界に全く顔を出さない私でも、アクト様の名前は聞いたことがある。
皇族の血筋であり、代々、皇室魔法騎士の団長を務める有能な一族で、アクト様はその中でも、一度敵と認識したものには容赦なく血の雨を降らせ、知能明晰な頭脳から敵を追い詰め、二度と戦いたくない相手と称されることから、冷酷非情な血の公爵の呼び名がついた。
有名人だけど社交界嫌いとしても知られ、滅多なことでは社交界に現れず、仕事と称して欠席するためそのお姿を見た人は少なく、かく言う私も、婚約者でありながら、その姿を拝見したことは一度も無い。
一度も会ったことがない形だけの婚約者。
私がアクト様から放置されているのは誰から見ても明らかで、愛の無い結婚であることは間違いなく、リシャルは婚約者にまで愛されない私を見て、事あるごとに嘲笑っていた。
こうして会おうとするのが、他の女に婚約者を変えて欲しいとお願いする時だなんて、皮肉なものね。
「さて、では、初めて婚約者様のお顔を拝見しに行きましょうか」
鞄をひとまず直し、隠し持っていた少ないお金を持って、小屋を出た。
婚約が決まった頃は、インテレクト公爵家に嫁いでも恥ずかしくないようにと、お父様はローズリカ子爵家の威信のためだけに、それこそ寝る間も惜しみ、自由の時間を与える間もなく教師をつけ、私に沢山の教養を詰め込ませた。
出来が悪ければお父様に怒られ、出来が良ければ、お義母様にリシャルより出来が良いなんて生意気だと妬まれ、どちらにしても、私には罰が与えられた。なんて理不尽。
そんな地獄の時間が終わった今は、家族の除け者は邪魔だから顔を見せるな! と、小屋に閉じこもるよう命じられるようになったけど、今の私にとっては好都合、自由に動かせて頂きます。
インテレクト公爵邸はローズリカ子爵邸から少し離れた場所にあるが、私に馬車を用意してくれるはずがないので、自分で馬車を手配して行くことになる。
「ここが、インテレクト公爵邸」
流石は由緒正しきインテレクト公爵邸、ローズリカ子爵邸とは比べ物にならないくらいの豪邸だ。
…………さて、どうしようかな。
勢い余ってここまで来てしまったが、いざ目の前にすると、急に気持ちが冷静になった。
いきなり押し掛けて婚約者を交代して下さい、なんて無礼な真似、アクト様にしていいのだろうか? それこそ、無礼者! って魔法で黒焦げにされたりしない? 切り刻まれたりしない? 乱暴に扱われるのは慣れているとはいえ、魔法をぶっぱなされる経験はない。
冷酷非情の血の公爵って噂されているんだから、それくらい、当然のように攻撃される? でも、折角ここまで来たのに何もせずに帰るなんて出来ないし、アクト様だって、ローズリカ子爵家の中で除け者にされている私よりも、リシャルの方が良いに決まってる。
最悪、魔法で攻撃されても構わない。それだけ、私は無礼なことをするんだから――
「――アクト様に何かご用でしょうか?」
「きゃあ!」
どうしようとか悶々と思考を巡らせていると、急に背後から声をかけられ、驚いて悲鳴を上げてしまった。
「驚かせて申し訳ございません、私、インテレクト公爵家に仕える執事の《クロード》と申します。先程からインテレクト公爵邸の前で何やら悩まれている様子でしたので、声をおかけしました」
「私、不審な者じゃないです! あの、少し、不審者に見えるかもしれませんが……」
「そうですね、失礼ながら、不審者に見えました」
ですよね、家の前で悶々と独り言言いながらウロウロしている人がいたら不審ですよね。私が悪いです。
「コホン、大変失礼しました。私、セルフィ=ローズリカと申します」
「はい、存じ上げております。セルフィ様、アクト様の婚約者様ですね」
「私を知っているんですか?」
「勿論、主人の婚約者様ですから」
一度も会ったことがない婚約者の顔を知っているなんて……優秀な執事ですこと。
「アクト様に何か御用でしょうか?」
「あ、えっと、私、アクト様にお願いしたいことがありまして……」
「お願いですか、かしこまりました。では主人に聞いてきますので、中でどうぞお待ち下さい」
「お屋敷の中に入っていいんですか?」
「勿論です、未来の奥方様なのですから」
正直、こんなに簡単にインテレクト公爵邸に入れるとは思ってはいなかった。
「どうされましたか?」
「いえ、あの、本当にアクト様は私と会ってくれるんですか?」
「はい、まだ仕事中ですので暫くお待たせしますが、時間を作ると言っておいででした」
門前払いも覚悟していたし、会えるまで何度も通いつめようと思っていたのに、こんなに簡単に応接室に通され、しかも、お茶に洋菓子まで出されて、まるで歓迎されているみたいで困惑している。
婚約者になってから今まで一度も、私の顔すら見にきたことが無かったのに。
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