妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

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7話 私を守る?

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「やれやれ、どんなものかと見に来て見れば、想像以上に酷いもので驚きですよ」

「ぐわっ!」

 私の髪を引っ張りあげていたお父様の手が、悲鳴とともに離れる。

「大丈夫ですか? ローズリカ子爵令嬢」
「……アクト……様?」

 私をお父様から解放した主は、ついこの間、顔見知りになったばかりの婚約者、アクト様だった。アクト様は魔法の力を使い、簡単にお父様の体を吹き飛ばしたのだ。

「どうして、ここに……?」

 私の問いには答えず、笑顔だけを見せたあと、アクト様はお父様に、冷たい表情で向き直した。

「俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」

「イ、インテレクト公爵様!?」

 お父様はアクト様の登場に、文字通り腰を抜かす勢いで驚いているようで、吹き飛ばされた先で、その場にへたり込んだ。

「どうしてインテレクト公爵様がこちらに!?」

「婚約者の顔を見に来ることの、どこに疑問が?」

 私の傍まで来ると、アクト様はお父様に殴られて出血した頬に触れ、同時に、温かな光が広がり、傷が癒えていくのを感じる。

「手酷くやられましたね、他にも痛むところはありますか?」
「いえ……大丈夫です」

 流石は皇室魔法騎士団長。癒しの魔法で、あっという間に痛みを取り除いてくれた。

「形だけとはいえ貴女の婚約者なのだから、少しは俺を頼れば如何ですか? 俺なら、大概のことは守ってあげられますよ」

「私を……守る? アクト様が?」

「な、何故!? インテレクト公爵様は、今まで一度もセルフィの顔を見にきたことが無かったではありませんか! それは、セルフィに興味が無いからでしょう!? なのに何故、セルフィを守るだなんて世迷い事を……!?」

「おかしなことを言う、彼女は俺の婚約者であり、将来、俺の妻になる。自分の妻を守って何が悪い?」

「え? え!?」

 お父様がパニックになっているのが嫌でも伝わる。かく言う私も、少し混乱している。

 私を守る? 冷酷非情、血の公爵と呼ばれるアクト=インテレクト様が? 一度も会ったことがなかった私の婚約者様が? どうして? 私達は、お互いに愛のない、家同士が決めた婚約者なのに……!

「ローズリカ子爵、彼女への酷い扱いは、俺への冒涜も同意だと分かっているのか?」

「い、いえ! そんなつもりは微塵もございません! 誤解です! セルフィとは少し、行き違いがあっただけで、今回が初めての親子喧嘩です! 多少、やり過ぎてしまいましたが、今まで酷い扱いなど一度もしたことはありませんとも!」

 みっともなく地面に頭を擦り付け、弁解を続けるお父様のなんて情けない姿。チラチラとこちらを覗くお父様が何を伝えたいか、私には分かります。
 どうせ、私に早く、アクト様を止めるよう訴えているのでしょう?

「私はこの家で、家族の邪魔者扱いされて育ってきました」
「セルフィ!」
「酷い扱いなんて日常茶飯事です、殴られたことも暴言を吐かれたことも、今回が初めてじゃありません」
「止め……!」

 私がお父様を庇うわけないでしょう。あれだけ私のことを邪魔者扱いしていたクセに、図々しい。

「へぇ、それは許せないな」

「ひっ! お許し下さい! お許し下さいインテレクト公爵様!」

「ローズリカ子爵令嬢との結婚を約束に、我がインテレクト公爵家がローズリカ子爵家にどれほど援助を行っているか、分かっているのか?」

「――え?」

 援助? 何それ?

「……まさか知らないんですか? 貴女との結婚を条件に、俺が多額の援助を行っていること」

「私は……昔の恩を返すために結婚すると教えられただけで……」

 今もアクト様から援助を受けているということ? 結婚後も、援助を受け続けるつもりだったの? 私を犠牲にして、ずっとお金を得続けるつもりだったの?

 視線を向けると、お父様は気まずそうに顔を逸らした。

「――アクト様、お話があります」
「セルフィ! インテレクト公爵様に余計な時間を取らせるんじゃない!」
「ローズリカ子爵、余計な時間かどうかは、俺か決める。口を挟むな」
「は、はい……」

 アクト様に睨み付けられ、逆らうことも出来ずに頷くお父様。

「ローズリカ子爵令嬢とは俺もゆっくりと話をしたいと思っていたところです。今からインテレクト公爵邸へお越し下さい、おもてなしさせて頂きますよ」

「ありがとうございます、アクト様」

 一度も会ったことのない、顔も知らない婚約者様。
 傍から見れば私は、婚約者に一度も会いに来られない、可哀想な愛されない女に見えたでしょう。
 アクト様は私に興味がない、ただ、家同士の約束で結ばれた婚約で、そこに愛はない。だからこそ、お父様は私をぞんざいに扱っても構わないと思っていた。

 興味のない女など、どんな酷い目にあっていようと、冷酷非情な血の公爵が助けるはずがない、と。

「……くそっ!」

 あてが外れたお父様は、唇を噛み締めながら、去って行く私達を見送った。


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