妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

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19話 1ヶ月ぶりの再会

 

「止めないか! 何をしている!?」

「離して頂戴! ハミルカ様の物は全部捨てるの! 要らないのよ!」

 お義母様を羽交い絞めにして必死に止めるお父様。

「頼むから止めてくれ! インテレクト公爵様が来られたんだぞ!」

「ええ!?」

 ああ、やっぱり。お父様がこうして必死になられているんだもの、そんなことだろうとは思った。

「何でインテレクト公爵様がこんな頻繫にうちに来るんだ……! まさか、本当にインテレクト公爵様はセルフィを大切に思っているのか!? セルフィなんかをっ!」

 酷い言い方、実の娘に対するものとは思えない、最低ね。

「セ、セルフィ」

 怯えた表情のお父様は、初めて聞く、媚びを売るような声で、私の名前を呼んだ。

「インテレクト公爵様に、お前から誤解を解きなさい」

「……誤解?」

「この部屋にずっといた件だ。体調が悪くて部屋に閉じこもっていたとか、何とでも誤魔化せるだろう。それで、この部屋に閉じ込められていたなどという誤解を――」

「事実じゃない。私はお父様達の所為で、一か月近く、この部屋から出られなかったんですよ」

「だから、それを誤魔化せと言っているんだ! お前は優秀な自慢の娘だ! それくらい、上手く出来るだろう」

「……は?」

「お前のような娘がインテレクト公爵様の目に留まるとは思わなかったが、こうなったら、それを生かすべきだろう! そうだ! インテレクト公爵様に、援助の額を元に戻すよう――いや、前よりも増額するよう話せ! 今まで役に立たなかったお前が、初めて家族の役に立てる絶好の機会だぞ! そうすれば、お前を形だけはワシの娘でいさせてやる!」

「あなた! なんでセルフィを娘だなんて言うのよ!」
「お父様! お姉様が家族なんて嫌よ!」

「形式上だけだ! どうせ、リシャルの身代わりの花嫁になるのは前から変わらんのだ! このままリシャルの身代わりの花嫁になって、家族のために役立たせればいい!」

 納得いかないお義母様とリシャルに対して出たお父様の言葉は、なんて身勝手なものでしょう。
 あまりにも身勝手な台詞に、血が沸騰するような、激しい怒りが湧きあがった。リシャルの身代わりの花嫁? 家族の役に立て? 娘でいさせてやる? ――何様なの。

「お断りします、私は、お父様達の役に立ちません! 立ちたくありません!」

「セルフィ! 折角このワシが、娘と認めてやると言っているんだぞ!?」

「娘と認めてもらえなくて結構。貴方達みたいな最低な家族なんて、こっちからお断りよ!」

 まだ父や母と呼んでいるのは、あくまで形式的なもの。
 私はもう、お父様を父親だなんて思っていない、後妻であるお義母様も、リシャルも、私の家族なんかじゃない!

「馬鹿な……! セルフィがワシを拒絶するなど……!」

 子供がいつまでも無条件で好きでいるとでも思っていたの? 馬鹿なお父様。

「お前の所為でこのまま家族が、貧乏で惨めな生活を送ってもいいのか!? 不幸になってもいいのか!?」

「はい、どうぞ喜んで」

 何の迷いも憂いもなく、出来る限りの笑顔を浮かべて、頷いた。
 貴方達が貧乏になるのも惨めになるのも不幸になるのも、全て私が望むところ。どうぞ、私の所為で、不幸になって。
 私の笑顔を見たお父様は、それが私の心からの本心だと気付いたのか、顔が真っ青に染まった。

「――――セルフィ」

 懐かしい、一か月ぶりに耳に届く声に、安心する。
 ああ、この人が来てくれたら、もう大丈夫だと思える。そんな風に思える日が来るなんて、少し前までは思いもしなかった。

「アクト」

 笑顔で迎える私に、アクトもまた、笑顔を返してくれた。

「お仕事、お疲れ様でした」
「ええ、思ったより遅くなってしまって申し訳ありませんでした」

 後に知ったのだが、実は今回のアクトの仕事は長期の遠征で、本来なら半年はかかる期間を、繰り上げて一か月で終わらせたらしい。

「無事に帰って来て下さって、良かったです」

 アクトが強いことは聞いているけど、どうしても心配はしてしまう。

「ありがとうございます、それで――――少し、おかしな話を聞いたのですが、確認してもよろしいですか?」
「はい」

「お待ち下さい、インテレクト公爵様! これは何かの誤解でして……!」

「ローズリカ子爵」

「ひっ!」

 冷たい声色、視線、気配に至るまで、アクトが怒っているのが伝わる。

「忠告したはずだ、セルフィに酷い扱いをするな、と――殺されたいのか?」

「も、申し訳ありません! 申し訳ありません!」

 必死に地面に頭を付けて許しを乞うお父様。
 私のために怒って下さるかも、とは思っていたけど……これは、私の想像以上に怒ってらっしゃる?

 私に向けられているわけではないのに、初めて感じる鋭い殺意に、体が震えた。

「セルフィ、君がこの部屋に閉じ込められていたというのは本当ですか?」

「……はい、そうです」

 一瞬、本当に誤魔化した方が良いのかもしれないと思ったけど、お父様達を助けることになるのが嫌で、正直に答えた。

「そう、それは許せませんね」

 私の手を取り、腕や顔、体を確認する。これは、私の体に傷がついていないかを確認する、いつもの行為だ。

「お許し下さい! 本当に申し訳ございません! 二度と、二度とこのような真似は致しません! ですからどうか、命だけは!」

 体中を震わせ、必死で命乞いをするお父様。

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