妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

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20話 罰を与えます

 

 私の体に傷がついていないことを確認し終えたアクトは、再度、お父様に向き合った。

「命拾いしたな、ローズリカ子爵。これでセルフィの体に傷一つでもついていたら、どんな手段を使っても地獄の底まで落とすつもりだったよ」

「ひっ!」

「この部屋を彼女から奪わなかったことも吉と出たな。自分の最後の判断に感謝しろ」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」

 ずっと頭を上げることなく、震えながら言葉を発するお父様の様子から、アクトが畏怖の対象であることがハッキリと伺えた。

 それなら私を監禁するなよ! とは思ったけど、それほど、私の評価がお父様の中で低いのでしょう。
 私なんかが大切にされるはずがないと、そう信じている。失礼な人、それが自分の父親だなんて、悲しい。お母様なら、そんなこと思わないのに。お母様なら、私が大切に思われていることを自分のことのように喜んでくれるのに。

「但し、このまま何もお咎めなしというわけにはいかない、そうですよね? セルフィ」

 私の力になると言ってくれたアクトは、その言葉通り、私に判断を任せてくれた。

「……そうですね、では、リシャルにも私と同じ罰を与えて下さい」

「わ、私?」

 アクトの出現から息を潜めていたリシャルに話を振ると、想像通り、リシャルは戸惑うように返事をした。

「今日から私と同じように一か月、部屋に閉じ込めて下さい。侍女以外の面会も禁止します」

「い、嫌よ! そんなの嫌! ずっと部屋で閉じこもってるだけなんて退屈で死んじゃうわ! それに、明日はゼロが私に会いに来てくれるのよ! なんで私がそんな目に合わなきゃならないのよ! 酷い! お姉様、酷いわ!」
「まぁ、なんてこと! 妹にそんな仕打ちをするなんて、最低な姉よ!」

 嫌でしょうね、今まで甘やかされて育ってきたお嬢様には。
 私には平気でするのに、いざ自分に降りかかると、嫌だと泣き喚く。そしてそれを全力で擁護するお義母様。最低最悪な母娘。
 本来なら、そこに、お父様も加わっていた。

「お父様からもなんとか言って――」
「リシャル! 我儘を言うんじゃない!」

 きっと、リシャルにとって、お父様に怒鳴られたのは初めてのことでしょう。

「お、お父様?」
「たった一か月、部屋で過ごすだけで許されるんだ! 我慢しろ!」
「そんなぁ……!」

 お父様はアクトの恐ろしさを、貴族の世界を、援助を受けている身であることを理解している。だけど、お義母様もリシャルも、言葉では理解していても、本質で理解していない。自分達が絶対に逆らってはいけない相手、それがアクトなのだと。
 今回に関して言うなら、正しい行動をしたのはお父様の方。リシャルは貴族令嬢を目の敵にする前に、きちんと常識をお勉強しておくべきね。

「では失礼しました、インテレクト公爵様!」

「セルフィの寛大な心に感謝しろ、言っておくが、隠して部屋から出していたりしたことがバレた日には、恐ろしい目に合うと思え」

「はい! 勿論です!」

 今日から監禁が決まったリシャルは、お父様に首根っこを引っ張られ、部屋を出た。お義母様もまだごちゃごちゃ文句を言っていたけど、お父様の決定に逆らうことは出来ないでしょう。

「セルフィ、あれで良かったんですか? もっと重い罰を与えることも出来ましたが」

「はい、部屋から出られなくて窮屈でしたが、エナのおかげで、大きな実害はありませんでしたから」

 腹は立ったけど、以前よりは遥かにマシ。
 それに、リシャルにとってもお義母様にとっても、私から罰を与えられたなんて、これ以上、屈辱的なことはないでしょう。
 以前までは罰を与える側だったのに、罰を受ける側になって、お可哀想なことで、いい気味。

「アクトのおかげです、エナを雇って下さいましたよね? エナのおかげで、不便なく過ごすことが出来ました」

「それは良かった、彼女を雇った甲斐がありました」

 エナからは、『アクト様のおかげで、こうしてセルフィお嬢様の侍女になれました! 冷酷非情、血の公爵様だとしても、アクト様は私にとって神様です!』なんて神格化された話を聞いているけど、取り敢えず黙っておきましょう。

「セルフィ、どうしてクロードに報告しなかったんですか?」

 伝達係としてエナを使いクロードさんに伝えれば、すぐに解決することは分かっていた。

「アクトのお仕事の邪魔をしたくなかったんです」

「そんなことは気にせず、今度からは必ず報告して下さい。本当は、貴女をこのままここに残しておくことも嫌なんですよ」

 アクトからは、結婚を前倒しにして、私をローズリカ子爵家から放し、インテレクト公爵家に迎え入れるという案も上がっていた。でも、私はそれを拒否した。

「お母様の部屋を守りたいんです」

 面影は無くしてしまったけど、それでも、ここはお母様が過ごした場所だから――結婚するまでの間だけでも、守りたい。少しでも、記憶が――戻るように。

「……では仕方ありませんね、分かりました。その代わり、今度からは何かあれば必ず報告すると約束して下さい」

「分かりました」


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