20 / 28
20話 罰を与えます
私の体に傷がついていないことを確認し終えたアクトは、再度、お父様に向き合った。
「命拾いしたな、ローズリカ子爵。これでセルフィの体に傷一つでもついていたら、どんな手段を使っても地獄の底まで落とすつもりだったよ」
「ひっ!」
「この部屋を彼女から奪わなかったことも吉と出たな。自分の最後の判断に感謝しろ」
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
ずっと頭を上げることなく、震えながら言葉を発するお父様の様子から、アクトが畏怖の対象であることがハッキリと伺えた。
それなら私を監禁するなよ! とは思ったけど、それほど、私の評価がお父様の中で低いのでしょう。
私なんかが大切にされるはずがないと、そう信じている。失礼な人、それが自分の父親だなんて、悲しい。お母様なら、そんなこと思わないのに。お母様なら、私が大切に思われていることを自分のことのように喜んでくれるのに。
「但し、このまま何もお咎めなしというわけにはいかない、そうですよね? セルフィ」
私の力になると言ってくれたアクトは、その言葉通り、私に判断を任せてくれた。
「……そうですね、では、リシャルにも私と同じ罰を与えて下さい」
「わ、私?」
アクトの出現から息を潜めていたリシャルに話を振ると、想像通り、リシャルは戸惑うように返事をした。
「今日から私と同じように一か月、部屋に閉じ込めて下さい。侍女以外の面会も禁止します」
「い、嫌よ! そんなの嫌! ずっと部屋で閉じこもってるだけなんて退屈で死んじゃうわ! それに、明日はゼロが私に会いに来てくれるのよ! なんで私がそんな目に合わなきゃならないのよ! 酷い! お姉様、酷いわ!」
「まぁ、なんてこと! 妹にそんな仕打ちをするなんて、最低な姉よ!」
嫌でしょうね、今まで甘やかされて育ってきたお嬢様には。
私には平気でするのに、いざ自分に降りかかると、嫌だと泣き喚く。そしてそれを全力で擁護するお義母様。最低最悪な母娘。
本来なら、そこに、お父様も加わっていた。
「お父様からもなんとか言って――」
「リシャル! 我儘を言うんじゃない!」
きっと、リシャルにとって、お父様に怒鳴られたのは初めてのことでしょう。
「お、お父様?」
「たった一か月、部屋で過ごすだけで許されるんだ! 我慢しろ!」
「そんなぁ……!」
お父様はアクトの恐ろしさを、貴族の世界を、援助を受けている身であることを理解している。だけど、お義母様もリシャルも、言葉では理解していても、本質で理解していない。自分達が絶対に逆らってはいけない相手、それがアクトなのだと。
今回に関して言うなら、正しい行動をしたのはお父様の方。リシャルは貴族令嬢を目の敵にする前に、きちんと常識をお勉強しておくべきね。
「では失礼しました、インテレクト公爵様!」
「セルフィの寛大な心に感謝しろ、言っておくが、隠して部屋から出していたりしたことがバレた日には、恐ろしい目に合うと思え」
「はい! 勿論です!」
今日から監禁が決まったリシャルは、お父様に首根っこを引っ張られ、部屋を出た。お義母様もまだごちゃごちゃ文句を言っていたけど、お父様の決定に逆らうことは出来ないでしょう。
「セルフィ、あれで良かったんですか? もっと重い罰を与えることも出来ましたが」
「はい、部屋から出られなくて窮屈でしたが、エナのおかげで、大きな実害はありませんでしたから」
腹は立ったけど、以前よりは遥かにマシ。
それに、リシャルにとってもお義母様にとっても、私から罰を与えられたなんて、これ以上、屈辱的なことはないでしょう。
以前までは罰を与える側だったのに、罰を受ける側になって、お可哀想なことで、いい気味。
「アクトのおかげです、エナを雇って下さいましたよね? エナのおかげで、不便なく過ごすことが出来ました」
「それは良かった、彼女を雇った甲斐がありました」
エナからは、『アクト様のおかげで、こうしてセルフィお嬢様の侍女になれました! 冷酷非情、血の公爵様だとしても、アクト様は私にとって神様です!』なんて神格化された話を聞いているけど、取り敢えず黙っておきましょう。
「セルフィ、どうしてクロードに報告しなかったんですか?」
伝達係としてエナを使いクロードさんに伝えれば、すぐに解決することは分かっていた。
「アクトのお仕事の邪魔をしたくなかったんです」
「そんなことは気にせず、今度からは必ず報告して下さい。本当は、貴女をこのままここに残しておくことも嫌なんですよ」
アクトからは、結婚を前倒しにして、私をローズリカ子爵家から放し、インテレクト公爵家に迎え入れるという案も上がっていた。でも、私はそれを拒否した。
「お母様の部屋を守りたいんです」
面影は無くしてしまったけど、それでも、ここはお母様が過ごした場所だから――結婚するまでの間だけでも、守りたい。少しでも、記憶が――戻るように。
「……では仕方ありませんね、分かりました。その代わり、今度からは何かあれば必ず報告すると約束して下さい」
「分かりました」
あなたにおすすめの小説
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。
青空一夏
恋愛
グレイスは大商人リッチモンド家の娘である。アシュリー・バラノ侯爵はグレイスよりずっと年上で熊のように大きな体に顎髭が風格を添える騎士団長様。ベースはこの二人の恋物語です。
アシュリー・バラノ侯爵領は3年前から作物の不作続きで農民はすっかり疲弊していた。領民思いのアシュリー・バラノ侯爵の為にお金を融通したのがグレイスの父親である。ところがお金の返済日にアシュリー・バラノ侯爵は満額返せなかった。そこで娘の好みのタイプを知っていた父親はアシュリー・バラノ侯爵にある提案をするのだった。それはグレイスを妻に迎えることだった。
年上のアシュリー・バラノ侯爵のようなタイプが大好きなグレイスはこの婚約話をとても喜んだ。ところがその三日後のこと、一人の若い女性が怒鳴り込んできたのだ。
「あなたね? 私の愛おしい殿方を横からさらっていったのは・・・・・・婚約破棄です!」
そうしてさらには見知らぬ若者までやって来てグレイスに婚約破棄を告げるのだった。
ざまぁするつもりもないのにざまぁになってしまうコメディー。中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。途中からざまぁというより更生物語になってしまいました。
異なった登場人物視点から物語が展開していくスタイルです。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
※この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──