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28話 《完》幸せ
しおりを挟む「一体何のことですか? リシャル嬢」
「私とは何度お願いしても踊ってくれないのに、どうしてお姉様にはダンスのお誘いをするの? 私はゼロの婚約者なのに……酷いよぉ」
ポロポロと涙をこぼして、悲しみを表現するリシャル。
……ああ、ノヴァ様はゼロのお兄様ですものね。リシャルとしては、仲良くしたいところなのでしょう。
「ああ、すみません。踊りたいのは山々なのですが、私とリシャル嬢ではレベルが違い過ぎるので踊れないんですよ」
「そんなの、私は気にしません!」
うん、リシャルが気にする気にしないの話じゃないのよね。皮肉を言われてることにも気付かないなんて、馬鹿な子。遠回しに言っても、リシャルには通じない。
「リシャルのダンスが下手だから、一緒に踊れないって言ってるのよ」
「そんなっ……酷い!」
「酷くないでしょう、遠巻きに見ていたけど、下手にも程があるわ。というか、あれはダンスとも呼べないわ。そもそも、ステップを覚えてないでしょう?」
適当に音楽に合わせて体を動かしているだけだから、踊っている他のペアにぶつかったりと、迷惑極まりなかった。
「わ、私は、楽しく踊っているだけだもん!」
「平民のダンスがどうなのかは私には分かりませんが、ここは貴族の場です。郷に入っては郷に従えってことよ」
「酷い……! お姉様は平民を馬鹿にしてるの!?」
「馬鹿になんてしてないわ、リシャルを馬鹿にはしてるけど」
そう言えば、お父様に令嬢としてのマナーやら勉強やらダンスやらを叩き込まれていた時、『リシャルよりも出来が良いなんて生意気よ!』なんて理不尽な理由でお義母様に叱られてたっけ。
こんなに出来の悪い娘を持ったら、正妻の娘がちょっと出来が良いだけで目障りにもなるか、可哀想なお義母様。
「酷いよ、お姉様! ちょっとダンスが上手いからって、いつも元平民である私を見下して馬鹿にするなんて……! だから、私、ダンスを練習するのが嫌になっちゃったんだよ……!」
ノヴァ様やアクトがいるからか、リシャルは私を悪者にする手法を選んだようで、涙を流しながら、意地悪な姉に虐められる、か弱い妹を演じた。こうやって泣いて私を悪者にするのも、いつものことだものね。泣けば、お父様もお義母様も、無条件にリシャルの味方になって、一方的に私を責める。
「セルフィ、言い過ぎじゃないか? リシャルが可哀想だよ。リシャルは一生懸命、貴族令嬢として頑張っているんだから」
両手で顔を隠して泣いているリシャルを、慰めるように頭を撫でるゼロ。
思惑通りにゼロが私を責めたことに、リシャルは私だけに見えるように手の隙間から微笑んだ。
「――さっきから何を言っている? 令嬢としてなんの教養も備わっていないのだから、セルフィが見下すのは当然だろう」
「セルフィ嬢だけじゃありませんよ、私含め、ここにいる全員がリシャル嬢を見下していると思います」
「なっ!?」
だけど、リシャルの思惑とは違い、アクトもノヴァ様も、リシャルの三文芝居に惑わされるような方では無かった。
「自ら進んでパーティーに参加しているようだが、貴族令嬢として振る舞うつもりがないなら、社交界に参加しなければいい。迷惑だ」
「貴族令嬢を馬鹿にするわりに、華やかな貴族社会と男は好きなようですね」
「くだらない、こんな娘を育てたローズリカ子爵と夫人の器がしれるな」
アクトとノヴァ様の容赦ない言葉に、周りで会話を聞いていた貴族達からも、クスクスと馬鹿にするような笑い声が上がった。
「ひ、酷い!」
「それしか言えないのか。語彙力も無いとは、哀れだな」
「っ! もういい! 私、帰る! こんなつまらない集まり初めて! もう絶対来ないから!」
きっと語彙力の意味は知らないんだろうけど、馬鹿にされたことは分かるみたいで、顔を真っ赤にさせ、この場を逃げるように去った。
皇室主催のパーティーをつまらない集まりって……関係者に挨拶も無しに帰ることもそうだし、なんて無礼な妹。片方でも血の繋がりがあるのが恥ずかしい。元々常識の無い妹だけど、今日はいつも宥めてくれるお父様やお義母様がいないから、余計に暴走してるのね。
皇室主催のパーティーでこんな騒ぎを起こすなんて、お父様が知ったらどう思われるか。
「に、兄さん、アクト様。あまりリシャルに意地悪しないであげて下さい」
意地悪って……そんな次元じゃないでしょ。
一人残されたゼロは、兄であるノヴァ様に向かい、未だに見当違いのことを述べた。
「リシャルは元平民だから、少し普通の貴族令嬢とは違うんです。それがリシャルの魅力だし、一緒にいて楽しいんです。兄さんもリシャルと関われば、彼女の魅力に気付くと思います!」
……大丈夫か、この人。なんて、他人事のように思えることに、驚く。
あれ? 私、ゼロがリシャルを選んだことにいつも傷付いていたのに、今は全然傷付いてない。
「セルフィの存在が、リシャルの成長の邪魔をしたんです。セルフィはあの家の、邪魔者だったから……」
以前なら胸が張り裂けるくらい辛い言葉も、何ともない。どうして私、こんな人の言葉に一々傷付いていたんだろう? こんな――ロクでもない女に引っかかるような、駄目男に。
「ノヴァ、早くお前の弟をどうにかしろ。じゃないとレパスト伯爵家ごと滅茶苦茶にするぞ」
「止めて下さい。はぁ、我が弟ながら、なんて嘆かわしい」
「心中お察しします」
誰よりもノヴァ様のお気持ちが分かりますよ! ロクでもない妹や弟を持つと大変ですよね。
「アクト様の話では、セルフィ嬢を邪魔者として虐めていたのはその家族なんだろう? なのに何故、セルフィ嬢の所為で教養を学べないなんて話になる?」
「それ……は、その、セルフィがいるから、集中出来なかったとか……?」
「話にならないな」
リシャルにはお父様がちゃんと学ぶ場を用意していましたよ。それを、リシャルが途中で挫折しただけでしょ。まさか、お父様達にも私の所為で勉強出来ないって言ってたんじゃないでしょうね? あり得る! 何でもかんでも人の所為にして! 最っ低!
「ゼロ、セルフィ嬢はお前の婚約者とは比べ物にならないくらい素晴らしい教養の持ち主だ。貴族として生きていきたいなら、姉を見習わせて、少しは教養を学ばせたらどうだ?」
こんな皇室主催のパーティーで醜態を晒すような婚約者を持ったゼロのなんて哀れなこと。これで溜飲も下がったことだし、良しとしましょう。自分から墓穴を掘るなんて、馬鹿なリシャル。貴女の悔しい顔も見れたし、満足よ。
「――っ」
真っ青な表情を浮かべるゼロ。
貴方のそんな顔を見てもざまぁみろなんて気が晴れる私は、本当に貴方が好きじゃなくなったみたい。
「ではセルフィ、一緒に美味しい物でも食べに行きませんか? 皇室主催なだけあって、用意されている食事は中々美味しいですよ」
それは、きっとアクトのおかげなのでしょう。
愛のない政略結婚、リシャルの身代わりの花嫁だったはずなのに、私は、アクトを本当に好きになっているのかもしれない。
「……はい、アクト」
きっと彼と一緒なら、例え記憶を失ったままでも幸せになれる。そう、思えるから――――
《完》
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