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27話 飛んで火に入る夏の虫
しおりを挟む大ホールの中心、音楽が流れ出すと私達はそのまま体を寄せ合ってダンスを踊り――――終わった頃には、大きな拍手が鳴り響いた。
「素晴らしいダンスでしたわ」
「素敵! お手本のような綺麗なダンスで、思わず見蕩れてしまいました!」
次から次へと飛び交う、私とアクトを賞賛する声。
「やっぱり上手でしたね」
「――っ、自分でも驚いています」
体が勝手に動いたし、何より、アクトとのダンスが踊りやすかった。緊張を忘れて、とても楽しかった。私……ダンスが好きだったのね。
「社交嫌いの引きこもり令嬢だと聞いていましたが、なんて素晴らしいご令嬢なのかしら。さっきご挨拶したら、孫の誕生を知っていて、お祝いの言葉を頂きましたのよ」
「私も、結婚をお祝いして頂きました」
「ダンスも礼法も素晴らしいし、あのリシャル嬢と姉妹とは思えないわね」
周囲から聞こえる声は、同じホールにいるリシャルにも、嫌でも届いた。
「何なのよっ! お姉様の分際で私より目立つなんて!」
ギュッと、強くドレスの裾を握りしめるリシャル。その隣には、婚約者であるゼロの姿もあった。
「あれがセルフィ……? セルフィがあんなに堂々としていて、あんなに綺麗だなんて信じられない……」
ゼロが知っているセルフィは、いつもローズリカ子爵邸で俯いていて、息を殺して生きているような女性だった。
「ちょっとゼロ! お姉様なんて見ないで、ちゃんと私だけを見てよ!」
「あ、ごめんごめん」
「お姉様はただ、貴族令嬢として優秀なだけでしょ? ダンスだって礼法だって、偉そうな貴族様の習い事じゃない。平民はそんな堅苦しい礼法なんてしなくていーし、ダンスみたいなお上品なことしなくてもいいのに、貴族令嬢って本当、自分を偉そうに見せるのが好きだよねー、私、難しくて分かんない!」
「はは、リシャルは堅苦しいのが嫌いだもんな」
「うん、そうなの。流石ゼロ! 私のことをよく分かってくれてる! ね、また踊ろう!」
「もう、仕方ないなぁ」
そんな風に言いながらも、ゼロはリシャルの要望に応え、二回目のダンスを踊った。
――リシャルは平民上がりの貴族だ。
そういった貴族は珍しいが、普通は、貴族に上がった時に一通りの教育を受け、貴族令嬢として恥ずかしくない振る舞いを学ぶものだ。だけどリシャルは、学ぶことを途中で放棄した。
『私は貴族令嬢みたいに堅苦しい礼法やら挨拶を学んで、私ってお嬢様なの、凄いでしょ? なんて、傲慢な令嬢になりたくないの!』
とか意味の分からないことを言っていたけど、結局は、貴族令嬢は悠々自適な生活を送るだけだと思っていたのに当てが外れて、挫折しただけだと思う。だからリシャルは、基本的なマナーすら知らない。
「まぁ、同じ相手と踊るなんて……」
この国では、一人のパートナーと二回以上踊ることはマナー違反になる。
だけど何も知らないリシャルは、平気でマナー違反をする。最も、ゼロの方は知っていて、リシャルの要望を叶えているのだろうけど。
それ以外にも、基本的な挨拶が出来ていなかったり、他の令嬢達に失礼な口を利いたり、社交界でのリシャルを見るのは今回が初めてだけど、これほど酷いとは思っていなかった。
「本当、リシャル嬢がインテレクト公爵様の婚約者じゃなくて良かったわ」
「ねぇ。リシャル嬢が公爵夫人になるだなんて……想像するだけで悪夢ですわ」
もしかしなくても、リシャルの評価が悪い分、私の評価が上がりやすくなったんじゃない?
リシャルのおかげでアクトの婚約者として受け入れられやすくなったなんて、私の不幸を望んでいるはずなのに、行動が全て裏目に出ているようで、笑ってしまう。
「セルフィの妹は中々に破天荒な女性ですね」
「お恥ずかしい限りです。出来ることなら、即刻縁を切りたいくらいです」
お母様の部屋や記憶のことさえなければ、今すぐにでも縁を切って家を出て行くのに。
「今すぐにでも俺と結婚すれば、縁を切れますよ」
「……っ、わ、分かってはいるんですけど……」
同じことを思ってはいたけど、アクトから言われると、妙にドキドキしてしまう。前はそんなこと無かったのに!
「冗談ですよ、セルフィが二十歳になるまで、ちゃんと待ちます」
「お、お願いします」
分かってる、以前とは違う――――私は、アクトを意識してるんだ。
「セルフィ嬢、よろしければ、次は私と踊って頂けますか?」
「断る」
次のダンスにと、ノヴァ様がわざわざ私に声を掛けて下さったのに、秒速で断るアクト。
「アクト! どうして断るんですか!?」
「セルフィのダンスの腕前はもう見せたから、後は俺とゆっくり過ごせばそれで大丈夫です。ノヴァと踊る必要はありません」
「折角お誘い頂いたのに、踊らなくていいんですか?」
「はい」
そんな満面の笑みで肯定されたら、もう私にはどうしようもないんだけど……
別にダンスを断るのはマナー違反とかではないけど、お誘い頂いたのに踊らないのは申し訳がない気がします。それに、未来のレパスト伯爵様ですよ!?
「貴女の婚約者より強い者は存在しませんので、安心して断って下さい」
「わ、分かりました」
「アクト様、独占欲が強過ぎでは?」
そう言いながらも、ノヴァ様の顔には柔らかい笑顔が浮かんでいた。
多少のいざこざ(リシャル)があったけど、平和で、私にとっては目的の達成された楽しいパーティの時間だった。このまま終われば良かったのに。
「ノヴァ様、酷い……! 酷過ぎます!」
それで終わらないのが、リシャルよね。飛んで火に入る夏の虫。何故自分から騒動を起こしに来るのか分からないが、リシャルは涙を流しながら、私達に詰め寄った。
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