妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

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26話 撃退

 

「愛のない結婚をしなきゃいけないなんて、貴族令嬢って窮屈でとっても可哀想。でも私は、お父様にもお母様にも愛されているから、そんなことしなくていいの! 私ってば、皆に愛されてて素敵でしょう? それに比べて愛されてなくて可哀想だから、心配してあげてるの。なのに悪い意味に受け取って虐めるなんて、酷いなぁ」

「……愛されていないだなんて……私は、家のために……」

 政略結婚は自分の意思とは関係なく定められた結婚で、少なからず、不安に思うことはある。
 だけど、それでも貴族に産まれた者として、家のために政略結婚を受け入れている――でもそれが可哀想だなんて、他人に決め付けられる覚えはない。

「止めなさい、リシャル」

「あらお姉様。お姉様も、愛のない結婚をする一人だものね、可哀想」

「ニーナ様の婚約者様は、時間がある時にはいつも会いに来て下さって、お互いをよく知るために沢山、お話をしているそうよ」

「だから何よ?」

「分からないの? 政略結婚でも、可哀想とは限らないの! 互いに寄り添いあって、愛を育むことも、幸せにだってなれるのよ! リシャルが口出しすることじゃないの!」

「私は心配してあげてるだけじゃない!」

「心配じゃないでしょ? ただ、自分より不幸で可哀想って見下して、優越感に浸りたいだけでしょう? 元平民上がりの貴族は、性格悪いのね」

「なっ、酷い!」

「ああ、真っ当な平民に失礼ね、ごめんなさい」

 リシャルが元平民であることに劣等感を持っているのは知ってる。だからあえて、一番嫌がるであろうことを言ったら、顔を真っ赤にして震え上がった。

「お姉様なんて大嫌い!」

「私もリシャルが大嫌いよ」

「お姉様酷い! 家に帰ったらお父様とお母様に言いつけてやるんだから! お姉様なんて怒られてしまえばいいんだわ!」

「はぁ」

 勝手に好きにすれば? 今更、お父様もお義母様も怖くないもの。

 捨て台詞を残して去っていたリシャルを横目に、私は大きく溜め息を吐いた。

「セルフィ様……私のために怒って下さってありがとうございます」
「セルフィ様、とっても格好良かったですわ!」
「あの方の失礼な物言いには本当に苛々していていましたから、スカッとしました!」

 次々と賛辞の声を送るご令嬢達。

「いえ、妹が失礼なことを言って申し訳ありません」

「セルフィ様が謝る必要ありませんわ。リシャル様は以前から評判が悪かったですし」
「リシャル様の受けがいいのは、一部の貴族男性だけですわ。あの天真爛漫なところが、普段接している貴族令嬢らしからなくて良いとか」
「平民上がりの貴族が物珍しいのでしょう」
「あれは天真爛漫じゃなくて、礼儀がない、ただの失礼な人よね」

 次から次へと出るリシャルの不満。
 お父様もお義母様も、そんなリシャルを叱りもせず、甘やかすだけ甘やかして容認していたらしい。

「実はここだけの話、インテレクト公爵様と親族になるということで黙認されていた部分もあって……」

 ――へぇ、私の婚約を利用して、インテレクト公爵家の威光も使っていたのね。本当にムカつく。

「今後、インテレクト公爵家に気を使う必要はありません。妹が失礼な振る舞いをしたら遠慮なく窘めて頂いて構いませんし、私がいれば、即、呼んで下さい。私が撃退します」

 全身全霊を込めて、撃退します。

「セルフィ様、素敵!」
「礼節もしっかりされているし、お勉強も努力されていて、頼りになりますわ! セルフィ様のような方がインテレクト公爵様の婚約者で良かったですわ!」

「あ、ありがとうございます」

 アクトの婚約者として認めてもらえたのが嬉しくて、頬が熱くなった。


「――上手くやっているようですね」
「はい、アクトの婚約者として好意的に受け止めてもらえたようで、安心しています」

 令嬢達と別れアクトと合流し、パーティーの成果を報告する。

「それは良かったです、最も、セルフィなら大丈夫だと確信していたので、心配はしていませんでしたけど」
「私を過大評価し過ぎでは?」
「ではお互い様ですね。セルフィも、俺のことを過大評価しているでしょう?」
「アクトは実際に凄いですから……」
「セルフィも凄いですよ。あの環境下にありながら、腐らずにいてくれたのですから」

 今日は色々な人に褒められるけど、アクトにこうして褒められるのが、一番嬉しい。

「次はダンスですが、自信は如何ですか?」
「あまりありませんが、精一杯、頑張ります」

 正直、ダンスの練習まで手が回らなくて後回し気味だったんだけど、ここまで来たら、もうやるしかない。

「大丈夫ですよ――幼い頃の貴女は、とてもダンスが得意でしたから」
「え……と、アクトは私の幼い頃を知っているんですか?」
「ええ、少しだけ。婚約者に興味があったので調べたことがあったんです」
「そう……なんですね」

 過去の話をアクトから聞くのが不思議だ。だって私自身が、その過去を覚えていないのだから。だけどそう言われると、確かにダンスの練習は苦じゃなかった気がして、得意な気がしてきた。


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