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8話 コトコリス男爵家の会話
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コトコリス男爵邸――
「ねぇ、ユウナお姉様はどこに行ったの!? まだ見つからないの!?」
「落ち着いて頂戴、エミル!」
「そうだ、大丈夫だから――」
コトコリス男爵に向かい、責めるように声を荒げるエミル。そんなエミルを、隣からルキ、コトコリス男爵夫人が、宥めるように声をかけた。
「何が大丈夫なの!? ユウナお姉様がいなくなって、もう何か月も経っているんだよ!? どうして……お父様、私、ユウナお姉様を家から追い出さないでってお願いしていたじゃない!」
「エ、エミル……」
ユウナを勘当したことは、暫くしてエミルにもバレた。
姉を家から追い出したのだから、エミルに隠し通すのは無理だと分かっていたし、別に隠し通す気も、コトコリス男爵は無かった。だから、姉が家にいないことに気付いたエミルからどういうことかと聞かれれば、普通に絶縁状を叩きつけたと話した。それでまさか、エミルがこんなに怒ることになるとは、思わなかったのだ。
「いつもユウナに虐められていたと言っていただろう? だから、ユウナに泣かされたと聞いて、もう我慢する必要は無いと思って、追い出したんだ」
エミルから何度も、ユウナを家に置いてくれと、頼まれてはいた。
可愛い娘のお願いだからと、ユウナを家に置いていたが、コトコリス男爵は内心、ずっとユウナを家から追い出したかった。
「でも、私はそれでも、ユウナお姉様と離れたくないって言いました! 例えどれだけ酷いことをされても、私達は、たった二人だけの、双子の片割れなんです!」
「あんな役にも立たない、聖女である妹を虐める姉など……」
「私には必要なんです! お願いですお父様! 早くユウナお姉様を見つけ出して!」
涙をポロポロ流しながら、父親に懇願するエミル。
どれだけ虐められても、姉のことを庇う優しい妹。それが、両親やルキ、町の人達のエミルの印象だった。
――だが実際、ユウナがエミルを虐めたことは一度だって無い。だが、エミルはユウナに虐められたと、両親だけでない、町の皆にも、嘘を付いた。
そうやって、姉が聖女である妹に嫉妬して、虐めをしてると話すことで、姉が孤立することを望んだ。
――ユウナを独り占めするために――
「わ、分かっている。今、必死になってユウナの行方を捜している」
「ならどうしていつまでもユウナお姉様が見つからないの!? ユウナお姉様が、そんなに遠くに行けるはずないのに……!」
エミルの言う通り、頼るあてもなく、お金も満足に持っていないユウナが行ける場所など、限られる。だが、ユウナの姿はいつまでも発見されなかった。
「エミル」
「ルキ様! どうしてユウナお姉様が見つからないの!? どうして――」
「落ち着いて、エミル」
ルキはそう言うと、エミルの体をふわりと抱き締めた。
「今、範囲を広げてユウナの捜索はしてる。大丈夫、きっと見つかるさ」
「……本当?」
「ああ、聖女の君が祈るのだから、見つからないはずがない」
「……そう、です、よね。私がこんなに祈ってるんだから、ユウナお姉様は見つかりますよね……」
「エミル、少し休みましょう。ね、ほら」
少し落ち着きを取り戻したエミルは、母親に連れられ、部屋を出た。
「はぁ、まさか、ユウナがいなくなってこんなにエミルが悲しむとは……!」
コトコリス男爵は、頭を抱えながら、ソファに深く腰掛けた。
「これでユウナが見つからなかったらと思うと……くそ! そろそろ聖女の活動を再開させよう思っていたのに!」
エミルが乗り気じゃなかったのも活動をしなかった要因の一つだが、それとは別に、コトコリス男爵には思惑があった。
聖女の力を出し惜しみすることで、聖女の価値を高めることだ。
時間が経てばもっと土地は枯渇し、聖女の力を求めるようになる。そうなれば、もっと聖女の価値が高まり、皆が聖女を求めるようになる。
そろそろ頃合いも良く、活動を再開しようと思っていたのに、肝心のエミルが、姉がいないなら活動を再開しないと言い始めた。辛うじて、人々を癒すことだけはしているが、他は一切しない。
「今は急に姉がいなくなって心が疲弊しているだけでしょう。いずれ落ち着けば、厄介者の姉を追い出してくれたことをお義父様に感謝するはずですよ」
「そうだといいがな」
エミルのために、ユウナの捜索は人を雇い、行っている。すぐに見付かると思っていたのに、捜索は難航した。
「もう死んでいるかもしれませんね」
「……はぁ、そうだな」
ここまでしてユウナの姿が見付からないのは、もうどこかで野垂れ死んでいるからではないかと考えるのが、自然だった。
「とりあえずエミルのために、形だけでも捜索はしておくさ。今はもう、帝都にまで足を伸ばしているがな」
コトコリス領から帝都までは、長い距離がある。
コトコリス領は辺境にある領地。元は、聖女が現れるまでは注目もされていない過疎地だった。
例え奇跡的に帝都に着けたとしても、何の取り柄も無いユウナが、帝都で暮らしていけるとは思えず、ただ形だけの捜索を続けていた。
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