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38話 再会の前に――エミルの気持ち
◇◇◇
コトコリス領は、誰にも見向きされないような、辺境の領土だった。土地も枯れ果て、実りも無い領土だった。だが、コトコリス男爵家に双子の娘が産まれてからというもの、不作とは程遠い豊作が続いた。
その頃から聖女の噂が流れ、双子の妹であるエミルが聖女に祭り上げられた。
エミルはコトコリスの聖女と呼ばれるようになり、今まで辺境で苦しんで生活して来た領民達からは、それはそれは愛され、甘やかされて過ごしてきた。可愛がられて可愛がられて、それが当然だと、思うようになった。
「ルキ様!」
「……エミル、どうしたんだ?」
コトコリス男爵邸、ルキとエミルの二人ために用意された夫婦の部屋に勢い良く入って来たエミルは、その場にいたルキの胸にそのままの勢いで飛び込んだ。
「聞いて下さい! お父様ったら酷いんです! ユウナお姉様が帰ってきていることを、私に教えてくれなかったんです!」
ユウナの予想通り、コトコリス男爵はエミルに、姉がコトコリス領に来ていることを内緒にしていた。
「っち、お義父様、エミルに喋ったのか」
「ルキ様?」
「……エミル、今、君は聖女の力を失っている状態だ」
エミルの髪に手を入れ、優しく髪を撫でると、ルキはまるで子供に言い聞かせるように、優しく声をかけた。
「土地が枯渇している今、ユウナの力を借りるしかないんだ。その為に、お義父様は恥を忍んで、ユウナに助けて欲しいと依頼したんだ」
ルキは枯渇当初から、コトコリス男爵にユウナへの救助を要請すべきと話したが、コトコリス男爵は当初、『あんな出来損ないの娘に助けを求めるなど、ユウナが本物の聖女だと認めたことになる!』っと、ユウナに助けを求めることを拒んだ。
ユウナがいなくなったコトコリス領は今、誰が見ても一目で分かるほど、枯渇している。ここまで酷くなるまで、コトコリス男爵はユウナに助けを求めなかったのだ。
コトコリス領がどうなろうと、ルキは正直どうでも良かった。だが、今はミモザにシャイナクル侯爵家を追い出され、一時的にでも結婚相手であるエミルのもとに身を寄せるしかなかった。その間はコトコリス領が腐敗するのは困る。
だからこそ、ユウナの機嫌を損ね、土地の回復をしないとか言い出されれば困るので、エミルにユウナが来ることを内緒にしようと義父に提案したのはルキで、コトコリス男爵はエミルの気持ちを汲み、それに同意したのだ。
ユウナが来ると知れば、エミルがまた暴走してしまうのは、目に見えて分かる。
「違います、依頼なんかじゃなくて、ユウナお姉様は、私のためにここに戻って来てくれたんです」
ルキの思った通り、エミルはユウナの来訪に、胸を弾ませていた。
エミルは、ユウナが自分のためにやっと、コトコリス領に戻ってきたのだと、純粋にそう思っていた。今までと同じように、私のために、私だけのお姉様に戻って来てくれたのだと。
「……エミル、エミルの姉を想うその気持ちは素敵だけど、今のユウナは違うんじゃないか? ユウナは、君を偽物の聖女だと知らしめたんだぞ?」
「あれは、ユウナお姉様の意地悪です。ルキ様にもお話していたでしょう? ユウナお姉様は、私への嫉妬からああやって、自分が聖女で、私のことを偽物だと嘘をつくことが昔からあるんです」
家族のために、私のために、私が聖女である方が良いとユウナお姉様に話したのに、ユウナお姉様は度々、こうやって意地悪を言って私を困らせる。
今までは、ユウナお姉様は聖女の力を証明出来なかったから、それで終わっていたのに、まさか、聖女の力を制御出来るようになっていたとは思わなかった。
酷いユウナお姉様。例え聖女の力を制御出来るようになっていたとしても、ユウナお姉様は私のために、家族のために、私を聖女にしておくべきだったのに。
それなのに姉は、事もあろうに、私を偽物の聖女だとつるし上げた。
姉なら妹のために尽くすものなのに、酷い姉だと思う。でも、私はそんなユウナお姉様を許します。私は、ユウナお姉様が大好きだから。
「嫉妬か。昔から、ユウナはエミルでは無く、自分が聖女だと嘘をついていたんだな?」
「はい、困ったお姉様です」
「……くそ、まさか昔からユウナが聖女だったのか!? なら婚約破棄なんかせずにあのままユウナと結婚していれば――!」
「ルキ様?」
小声で何やらブツブツ言っているルキの言葉は、エミルには聞き取れなかった。
「……ああ、もういい。それよりもエミル、今日は回復の依頼が来ていたんじゃないのか?」
「そんなもの、放置してきました」
「放置!? 今日の依頼は、ここら辺を仕切る商人の娘の依頼だろう!?」
「だって、ユウナお姉様がここに戻って来ているって聞いて、いても立ってもいられなくて……それに、あの人達、私を大切に扱ってくれなかったんです。最後には、偽物の聖女! なんて怒鳴られたんですよ? 酷いです」
奇跡と呼ばれる回復魔法を使えるエミルには、偽物の聖女だとレッテルを貼られてもまだ、依頼を求める人達がいた。
「馬鹿な……! あそこは多めの報酬を出してくれるお得意様だったんだぞ!? それを放置するなんて――!」
「どうしたんですかルキ様?」
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