15 / 37
15
しおりを挟む朝ーーー。
この生活になってから、朝は早く、夜も早い。
日が落ちると寝静まり、夜明けと共に活動する。
あかりは台所で、山菜やきのこを、包丁でトントンと、不慣れな手つきで切っていた。
いつもより、体が楽に感じるのは、気のせいではないだろう。
今までの野宿とは違い、屋根や壁のある、たたみの上で睡眠をとれることがどれ程幸せな事か、噛み締めた。
二階建ての家は、1階には台所、風呂釜、居間、トイレ、和室、2階には大きめの和室と、もう1つ小さな和室があった。
何より、目の前には井戸、そして川。周りを囲むのは森。雨風を凌げる屋根に壁。
杉の惨状を見ているだけに、動物への恐怖もあったが、それも、家があれば緩和する。
生活するには困らない。
家には、以前の住民が残していた食器や布団もあった。
どれも年代が経過しているが、使う事は出来る。
ここを拠点とし、助けが来るまでの間、ここで過ごす事に、誰も反対しなかった。
今は昨日寝ずの番を引き受けた2番手のあきとが休んでいるが、それ以外は布団を干したり、山菜や木を集めたり、水を汲んだり、魚を釣ったり、忙しくなく動いていた。
移動の工程が無くなった為、寝ずの番をしていた者が日中休めるのも、拠点が見つかった利点で、男性側の負担が一気に軽減した。
余談だが、
「体調が悪いのー」と、あきとと一緒に休もうとしていた、はなを、濱田が「てめぇの分の飯はてめぇでなんとかしろ」とつめ、何とか働かせる事に成功している。
騒動を好まないけいじだが、このままでは不公平であり、何より、あきとが拒絶している。
このまま、はなの要望を叶えても、あきとと衝突するのが目で見て取れる為、今回は濱田の意見を採用し、「皆平等に働かないとね」と言った。
「なんではながーー」
と、今もぶつぶつ文句を言っているが、食事が無いのは嫌なので、渋々、山菜やきのこ集めに動いている。
彼女は本人も自ら公言するように、見目美しい。
だからこそ、男性の方が率先して行動してくれる事が当然で、今まで甘やかしてくれる事が、彼女の普通だったのだ。
「どう?あかりちゃん」
ひょいと、台所で作業をしているあかりの元に、けいじが様子を見に顔を出した。
「なんとか…」
不慣れながらも、あかりは食事作りを担当している。
「良かった。分からない事があったら何でも聞いて。体調が優れなかったら、すぐに横になるんだよ」
「……はい」
けいじはとても気遣ってくれていて、あかりだけで無く、皆の様子も見て回っている。
実際、体調の良くないあかりには有難く、けいじが立ち去った後、あかりは傍にあった椅子に腰掛け、ポケットにしまっていた、藤の髪飾りを取り出した。
出会ったばかりの私に、どうして大切な髪飾りを手渡したのか、その真意は、本人にしか分からない。
でも、なんとなくーー
(私を……心配してくれたのかな…)
と、あかりは感じていた。
一人残してしまう事への申し訳なさや、無事でいて欲しい、そんな風に、あかりは受け止めた。
彼女は、自ら、杉のもとに残る事を決めたーー。
「…私は……何してるんだろ…」
それぞれが目的があって、あのバスに乗り合わせた。
杉と藤は、この場所が地元で、家に帰る為。
濱田は里帰り、けいじはキャンプ、あきとはボランティア、はなは、そんなあきとの付き添いだと言っていた事を、思い出す。
あかりはーーー
この集落に来るのがよそ者なら、殆どの目的は、この森、悪魔の森。
未知な領域に足を踏み入れたいとするもの。
永遠に彷徨うというこの場所で、自分の最期を迎える為に、死を覚悟して入るものーーーー。
(死のうと……思ったのに……)
自分の住む場所のバス停の近くの電柱に、この森のポスターが貼ってあって、あかりはそれを見つめた。
面白おかしく書かれた内容は、《悪魔の森》。
一度踏み入れたが最後、決して出られないーーー。
そんな森に挑戦してみませんか?!と、探索を募る内容だったが、あかりは、永遠に彷徨う部分に、惹かれた。
ここなら、静かに最期を迎えられるーー。
バスの時刻を確認すると、もう最終の便は終わっていた。
『明日…8時…』
始発の出発を確認し、バス停を後にした。
まさか、始発で乗ったバスがあんな事故を起こすなんて、想像もしていなかった。
(死のうと思っていた私が……杉山さんや、藤さんよりも、生きてる……)
生に、しがみついている。
(どうして……)
あかりは膝を抱えながら、うずくまった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる