悪魔の家

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「ーーー」
 目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。
 (ここ…どこ…)
 頭がぼーとする。
 暖かい感触に、お日様の匂い。
 布団に包まれているのだと理解し、久しぶりだと感じる。
「あかりちゃん!気がついたかい?!」
「……けいじさん」
 心配そうに自分を見つめるけいじ。
「良かった。気がつきましたか」
 その後ろから、あきともやって来て、笑顔を浮かべた。
「多分、貧血だと思います。どこか痛い所や、おかしいなと感じる箇所はありますか?」
「いいえ…」
 椅子に座り、うずくまった辺りから記憶が無い。
 あの後、倒れてしまったと、理解した。
「迷惑をかけて……ごめんなさい」
「大丈夫かい?まだ休んでていいんだよ」
 起き上がろうとするあかりに、けいじは慌てて声をかけた。
 外を見ても、まだ明るく、倒れてそれ程時間が経ってはいない。
「平気です。夜、ゆっくり休みます」
 あかりは表情を変化させること無く、無表情でそう答えた。
「…無理しないようにな」
「はい」
 役立たずにはなりたくない。
 返事をすると、あかりは布団から出て立ち上がる。
「じゃあ、僕はもう少し休ませて貰いますね」
 あきともそう言うと立ち上がり、ふわぁと欠伸をした。
「あ…」
 昨日寝ずの番をしていた為、日中休む事になっていたが、医者であるあきとは、怪我や体調不良の者の看病にあたる。
「ご、ごめんなさい」
 自分の性で、眠りを妨げる事になったのだと、理解し、あかりは頭を下げた。
「気にしないで下さい。田村さんが素敵な布団を持ってきてくれたので、今からぐっすり休めそうです」
 早朝いの一番で布団を干し、昼間に取り込んだのを、あかりと、あきとの為に持ってきたのだろう。
「すまないね。助かったよ、ゆっくり休んでくれ」
「はい。遠慮なく」
 あきとはぺこりと頭を下げると、自分の布団に潜り込んだ。


 食事作りは、ほぼ終わらせてから椅子に座ったので、問題無い。
 次は何をすれば良いのかを確認する為に、あかりはけいじの姿を探しに外に出た。
「ーー何だ、目ぇ覚めたのか」
「!あ、はい」
 魚釣りをしていた濱田が、釣竿とバケツを手に、あかりの姿を見て声をかけた。
 釣竿もバケツも、この家の物置にあったものを借りている。
 正直、もう一緒に過ごして数週間経つが、あかりは濱田とは殆ど会話をする事が無かった。
「ーー弱っちぃんだからウロウロすんじゃねぇ」
 そう言うと、濱田はあかりの横を通り過ぎ、家の中に入った。
「ご、ごめんなさい…」
 もう通り過ぎた濱田には届かないだろうが、あかりは謝罪した。




 家の周りは大きな庭になっており、家の隣には、切った木材、薪を積む為の屋根付きの小屋があった。
 その小屋の前で、汗を拭いながら、木を切るけいじと、その隣で不機嫌そうに切れた木を拾うはなの姿が見えた。
「けいじさん」
「あかりちゃん、大丈夫かい?」
 自分の体を気遣うけいじに、あかりはこくりと頷く。
「あの、料理の支度終わったので、他に何かする事があればと思ってーー」
「なら丁度いーじゃない。はなと変わって」
 話を終える前に、はなの言葉が遮った。
 ポイッとその場で木を捨てると、はなは家に戻ろうと足を進める。
「はなさん」
「何よ。その子は休んで良くて、はなは駄目な訳?」
 止める言葉も聞かず、はなはそのままその場を去った。
「やれやれ」
 けいじは呆れたまま、斧を振り下ろし、木を切る。
「い、いいんですか?」
 あかりが心配しているのは、あきとの事だろう。
 休んでいるあきとに、はなが突撃する可能性を危惧する。
「濱田君は家に戻ってるよね?濱田君がいるなら、とりあえずは大丈夫ーーだと、信じたいよな」
 あはは。と、けいじは乾いた笑いをした。
 どうやらあかりがここに来るまでの間も、疲れも溜まって休みたいはなを必死にくい止めていたのだろう。
 休むだけなら、優しいけいじは止めないかも知れない。
 でも、今は違う。
「あきと君への執着が《再開》しちゃったからな」
 無視されたあの日から、はなはあきとに甘える事を止め、互いが話さなくなっていた。
「どうして…急に?」
 あかりは、はなの捨てた木を拾い集めながら、けいじに尋ねた。
「ん~」
 かこーん!
 振り下ろされた斧で、木が割れる。
「……ここから、生きて帰れるかも。って、思ったから。かな」
 野宿していた頃と違い、家が見つかった事で、生存率は格段に上がった。
「え…」
 あかりは、意味が分からず、首を捻った。
「生きて…帰れるから…?生きて帰れないと…好きじゃないんですか…?」
「みたいだね」
 憶測でものを言うのを躊躇っているのか、けいじはハッキリと何故かを明言しなかった。
 ただ、ハッキリ分かるのはーーー

 はなは、別にあきとを好きでは無いと言うこと。




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