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10話 悔しい
しおりを挟む「リーゼ様ってば、フェルナンド様のパートナーを奪われて悔しいからって、聖女に泥臭い平民の分際で生意気だ、早く帰れっと怒鳴りつけておりましたのよ。聖女がいようがいまいが、リーゼ様がフェルナンド様のパートナーに選ばれるはずがありませんのに、ね」
蔑んだ目で、馬鹿にするように微笑みながら私を見るシェリ様。
(……悔しい……)
否定したい、でも、否定しても、フェルナンド様は信じてくれない気がする。
(だって私がずっと、そう思われても仕方ない態度を取っていたんだもの)
円満離婚のために折角、頑張ってきたのに、これで全部無駄になるかもしれない。そう思うと、悔しかった――だけど、この後の展開は、私が思いも寄らない方向へ向かった。
「そうですか、それは、淋しい想いをさせてしまいましたね、リーゼ」
「へ?」
体を抱き寄せられると、そのまま顎を持ち上げられ、フェルナンド様の綺麗なお顔が間近に見えた。
「今回ティアをパートナーに選んだのは、聖女の面倒を見ている者としての義務のようなものです。説明不足で貴女に悲しい思いをさせて、申し訳ありませんでした」
「っ! は、はい! 分かっています! 充分、分かっていますから!」
急に何なの!? 悲しきかな、男性経験のない私にとっては、これだけでも心臓に毒なんだけど!
「な、なななななな、何でですの!? フェルナンド様はリーゼ様に望まぬ結婚をさせられて、不仲だと聞いておりましたのに……!」
私と同じように、いや、それ以上に動揺されているシェリ様。
「俺が妻を気遣うことがおかしいですか?」
「だって、フェルナンド様はリーゼ様を好きじゃありませんでしょう!? そ、それに、リーゼ様だけじゃありません、聖女だって、フェルナンド様に相応しくありませんわ! フェルナンド様の妻として相応しいのは、この私なんです!」
「貴女が俺に相応しい? 笑わせますね」
「フェルナンド様、どうしてそんなことを仰るの? 私はただ、貴方のために……!」
「わ、私を虐めていたのは、シェリ様です! リーゼ様じゃありません! リーゼ様は、私を助けてくれました!」
「ティア」
ここで、ずっと黙り込んでいたティアが、初めて声を上げた。
「ちょっと! 余計なこと言うんじゃありませんわ!」
「本当です! 私、ずっとシェリ様に虐められていました! フェルナンド様の所でお世話になる前のキングス侯爵家でも、ずっと……!」
ポロポロと涙を流しながら、溜め込んでいたいた思いを吐露するティア。
うちに来る前、侯爵家にお世話になっていたって聞いていたけど、もしかしてそれが、キングス侯爵家?
「な、う、嘘よ! 私、そんな事しておりませんわ!」
「本当です! 平民の私に、貴族の真似事なんてみっともないって、ただ、平民らしく貴族の駒になって働けばいいのにって、故郷から持ってきた荷物も、全部捨てられました!」
酷い……! 私の推しに何してくれてんの!
「残念ですがキングス侯爵令嬢、貴女がティアを虐めていた証拠はもう揃っています。どうやら、つい先程も虐めていたようですしね」
「あ、わ、私……」
「この件は貴女の父親は勿論、陛下にも報告させて頂きますので、覚悟していて下さい」
「ま! 待って下さいフェルナンド様! 私はただ、貴方の妻になりたかったんです! だから、邪魔になりそうな相手を――っ」
最後まで言い切る前に、フェルナンド様に冷たく睨まれ、シェリ様は口を閉ざした。
(世界を守る力を持つ聖女を虐めるなんて駄目だし、こんな風に、相手の妻になるために誰かを傷付けるなんて、絶対にしてはいけない! ……リーゼが言えたことじゃないけど)
その後、報告を受けてやって来たキングス侯爵によって、娘のシェリは連れて行かれた――というか、なんかもう、連行に近かった。
「フェルナンド様、助けて頂いて、ありがとうございました」
「誤解しないで下さい、貴女を守ったわけじゃありません。相手が嘘を付いていると分かったから、話を合わせただけです」
「はい、それでも、ありがとうございます」
信じてもらえなくても仕方ない態度を取っていたはずなのに、私を信じてくれた。それだけで充分嬉しい。
「キングス侯爵は、娘の虐めに気付いていなかったんですか?」
「皆が皆、貴女みたいに単純に堂々と虐めてくれればいいのですが、キングス侯爵令嬢は上手く隠して、ティアを虐めていましたから」
フェルナンド様の、私が単純って物言いは引っかかったけど、要するに、二人っきりの時とかを狙って、父親に隠れてティアを虐めていたらしい。わー、姑息!
ティアもまた、気弱な性格が災いして、助けを求めずに感情を押し殺してしまっていたらしく、異変に気付くのが遅くなり、慌てて、聖女をグリフィン公爵家で引き取ることにしたらしい。
「……リーゼ様、その……今まで話し掛けられても素っ気ない態度を取ってしまっていて、本当に申し訳ありませんでした」
「謝らないで! 私、全然気にしてないから!」
頭を下げて私に謝罪するティア。
どうやらティアは、シェリ様に虐められていたことで、貴族女性そのものに恐怖を感じるようになってしまっていたみたい。良かったぁ! 私が何かして怖がられていたワケじゃないのね!
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