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14話 離婚はしません
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結婚生活一ヶ月十日目――
ティアがグリフィン公爵家に来て数日、いざ、明日から本格的に、ティアの聖女としての活動が始まることになった。
「……リーゼ様は……一緒に行かないんですよね?」
「う、うん。私がついて行っても、何も出来ないし」
どんよりとした空気を背中にたっぷり乗せたティアが、今日だけで何度目かの質問を投げ掛ける。
「そうですよね……」
(うっ、なんかすっごい罪悪感)
聖女として、国を救うために活動することは、大変なプレッシャーを伴うものだろう。ティアが不安で心細くなるのも、分かる。分かるし、出来るなら付いて行ってあげたいけど、ただの一般人の私が一緒に行ったところで、何の役にも立たない。
「ご心配には及びません、ティア。今回のものは汚染の規模もそう大きくないものですから、ティアの力なら問題なく土地を癒すことが出来るでしょう」
「フェルナンド様……はい、分かりました」
フェルナンド様の言葉に、肩を落としたまま返事をするティア。
(ていうか、何でフェルナンド様もここにいるの?)
グリフィン公爵家でのダイニングルームで夕食中、普段ならいないはずのフェルナンド様が、一緒に食事を取っていることに違和感を感じる。ティアが来て家にいることは増えたけど、それでも、今まで一緒に食卓を囲んだことなんて無かったのに。
「何か言いたげですが、どうしましたか?」
「いいえ、何もありません」
(何よ、平然としちゃって)
あれから、フェルナンド様は何も無かった、ってくらい普段通りで、変に意識してしまっていた自分が、馬鹿らしくなった。
(フェルナンド様にとっては、別に対したことないですもんね)
恨みつらみは山ほどあるけど、リーゼである以上、どこにも吐き出せない。だって、私達は夫婦で、しかも、リーゼが無理矢理、関係を迫っていた。なんて、文句も言えない。
「フェルナンド様は……私と一緒に行ってくれるんですよね?」
「ええ、ご安心下さい。ティアの力になれるよう、尽力致します」
聖女の活動には、お世話係として任命されているフェルナンド様も同行する。
私を見る時とは違う、優しい笑顔をティアに向けているのを見ると、小説通り、二人の恋は着実に進んでいるのかな? と、思う。
(小説では、今回の旅で二人の仲はグッと縮まることになる)
リーゼと無事に離婚出来、晴れて独身に戻ったフェルナンド様と、リーゼの初めての旅。聖女の活動に慣れずに弱気になっているティアに寄り添うフェルナンド様は、素敵だった。
小説と違って私達はまだ離婚していないし、離婚の話はあれから進んでいないけど、このまま放っておいたら、今度は、フェルナンド様の方から離婚を切り出してくれるじゃんじゃないだろうか。
(もしフェルナンド様から離婚を言い渡されたら、私は、笑顔で頷こう)
『今度こそ、幸せになって下さい』
そう、笑顔で伝えるの。
◇◇◇
「お休みなさい、ティア」
「はい……あの、リーゼ様に弱音ばかり吐いて……ごめんなさい」
弱っているティアを部屋の前に送り届けると、ティアは申し訳なさそうに、謝罪した。
「謝らないで? 私には、いつだって弱音を吐き出してくれていいから」
「リーゼ様……」
「また、旅から戻ったら話を聞かせて?」
「はい、勿論です」
優しくティアを抱き締めて頭を撫でると、ティアもまた、顔も赤く染めながらも、腕を回し、抱き締め返してくれた。ふんわりした優しい匂い、照れる頬、もう全部が可愛い! 私の推し、最高!
――なんて、満足しつつ、自分の部屋に戻ろうとした途中、待ち伏せしていたであろう、フェルナンド様の姿があった。
「ティアととても、仲良くなられたみたいですね」
「……悪いですか?」
「いいえ、夫である俺よりも親しくなるのはどうかと思いますが、構わないですよ」
「別に、そんなつもりはないですけど……」
何? 私にティアを取られたとでも思ってるの?
(心配しなくても、二人は結ばれるのに)
「暫く留守にしますが、くれぐれも問題を起こさないよう、大人しくしていて下さい」
「分かりました」
「……」
「? まだ何か?」
「いいえ、以前は仕事で少し家を空けるだけで五月蝿かったのに、随分、物分りがよくなったものだな、と、思っただけです」
過去の話をされると、耳が痛いです、ご迷惑おかけしてすみませんでした。
「えーーっと、それは、やっぱり、聖女と一緒に国を救うための旅なら、仕方ないかなぁ、と、思いまして」
「ふぅん」
納得されたのかしなかったのか、ハッキリとしない表情のフェルナンド様は、何故か、私をそのまま壁に追い詰めた。
「どうして、この前、逃げたんですか?」
「そ! それは、その、えーーーーっと、あの、その時の都合と言いますか、心の準備と言いますか」
「準備万端にして来られたと思いますが」
(それは、アルルが支度したんです!)
「夫婦の時間を大切にするべきだと言ったのは貴女ですよ?」
「て、撤回出来ませんか?」
「出来ませんね」
(リーゼーーーー!)
もうこうなったら、リーゼに対する恨みつらみしかない。
「本当に俺のことが好きじゃなくなったんですか?」
「! そ、そうです。信じて……くれますか?」
以前そう伝えた時は、信じてもらえなかった。
「……例え俺のことが好きじゃなくなったとしても、まだ、貴女とは離婚しません」
「何でですか?」
「事情が変わりました、モンセラット伯爵――貴女の父親は、娘のことがなければとても優秀な男です。彼をこのまま手放すわけにはいきません」
(お父様にしっかりしてと言った弊害が、ここで!?)
「お父様には、私と離婚後もフェルナンド様のお力になるよう、口添えします」
「貴女に何度も嘘をつかれた俺が、どうやってそれを信じろと?」
(過去のリーゼと今の私の行動が、完全に裏目に出てる!)
「無理矢理、俺と結婚したのは貴女なんですから、拒否しませんよね?」
「う、それは……」
でも、これで少し納得出来た。
フェルナンド様が私との離婚を拒んだ理由は、お父様の、モンセラット伯爵家のお金が目当てなのね。それなら、ティアの力で世界が救われたら、きっと、今以上にお金は必要なくなるだろうし、私はいらないくなる。
(その前に、ティアと真実の愛を見付けて、私と離婚したくなるかもしれない)
どちらが原因の離婚でも、私は構わない。
リーゼへの罰だと思えば、振り回されるのも仕方が無い。
「……分かり……ました、でも、私と離婚したいと思ったら、すぐに言って下さい。喜んで離婚に応じますから」
「……」
フェルナンド様のお心を考えた、百点満点の回答だと思う。なのにフェルナンド様は、どこか不機嫌な表情で私を解放し、無言のまま、その場から去ってしまった。
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