離婚しましょう、私達

光子

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20話 帰還

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 ◇◇◇◇◇


 小説である程度の流れは知っていると言っても、それなりに予期せぬ出来事もある。それは、私というイレギュラーな存在からくる変化なのか、ただ単に小説には描かれていなかっただけなのか、私には分からない。


 結婚生活四か月目――

 モンセラット伯爵邸、庭園。

「まさかジークが、お父様に直接雇われるとは思ってなかったよ」

 目の前には、モンセラット伯爵家の侍従の服を着たジークがいて、私のためにお茶を淹れてくれるその姿に、驚きを隠せないでいた。
 てっきり、事業展開している会社のどこかに採用されると思っていたのに。

「僕も驚いたけど、聖女の知り合いってところも、考慮された結果だと思うよ」
「ああ、なるほど」

 伯爵家に、田舎町出身の未経験者をいきなり侍従として採用するなんて破格だが、特別な存在である聖女さえ絡めば、不思議じゃない。

(最も、昔の娘に甘いお父様なら、無条件で私のお願い事をなんでも聞いてくれていたけど)

「ティア達はまだ、戻って来てないの?」
「……ええ」

 あれから、ティアはほぼ休みなく、聖女としての活動に明け暮れていた。たまに家に寄ったりはするけど、その姿は疲れ切っていて、家にいる間は、ずっとベッドで寝て過ごしているのが大半だった。
 その中でも、今回の旅は特別長くて、もう、旅に出てから一か月、戻ってきていなかった。

(少しは休ませてあげればいいのに)

 そう思うけど、闇に汚染されている土地の住民達からすれば、一刻も早く助けを求めている状況なのも、理解出来る。だから結局、何も言えないでいる。

「フェルナンド様にも会えないし、リーゼは寂しいね」
「どうして?」
「どうしてって……君の旦那様だろ? 会えないと寂しいんじゃないか?」
「寂しくないよ」

 ティアの活動が忙しいということは、世話役であるフェルナンド様も、必然的に忙しくなる。

「私とフェルナンド様は、ジークやティアみたいな関係じゃないの。会えなくても寂しいなんて、お互いに思わないよ」

 私とフェルナンド様の結婚は、リーゼが無理矢理、手に入れたもの。そこに愛はない。

「リーゼ、それ、本気で言ってるのか?」
「本気。教えたでしょ? 私とフェルナンド様のなりそめ」

 正体がバレてからというもの、ジークには、結婚に至るまでの経緯も話した。

「いや、どう見てもフェルナンド様は……」
「何?」
「……何もないよ」

 歯切れの悪い返答をされたけど、それ以上は聞かないことにした。

(この間にも、二人の関係は進んでる)

 旅を共にする度、二人はお互いの気持ちを強めていくことになる。

(私はいつ、フェルナンド様に離婚を突き付けられるんだろう)

 もう、早くして欲しい。本気でそう思ってる。

「リーゼ、気分転換にダンスの練習でもする? 主人――モンセラット伯爵から、娘のダンスの上達に力を貸して欲しい、と頼まれているんだ」
「ジーク、ちょっと練習しただけで踊れるようになったんでしょう?」

 未だにダンスが踊れない私とは大違い。あー、優秀って怖い、憎らしい。

「拗ねないで一緒に踊ろうよ、リーゼ」

 優しく手を差し伸べてくれるジークに、格好良いと、素直に思う。こんな素敵な人に一途に想われるティアが、羨ましい。

「ジークが私の旦那様なら良かったのに」

 なんて、冗談のつもりで言葉に出してジークの手を取ったのに、ジークは顔色を真っ青にさせ、眉間に手を当てながら、首を横に振った。

「リーゼ、お願いだから、二度とそんなこと言わないで欲しい」
「な、何で!? そんなに嫌!?」
「嫌とかじゃなくて、僕の命に関わるから」
「命!?」

 急に物騒な話になったことに驚きながらも、ジークの言う通りダンスの練習は必要不可欠なので、そのまま、ジークの手を取り、庭園を出た。

 フェルナンド様もティアもいないグリフィン公爵邸はとても静かで――早く、二人共、帰って来たらいいのにと、そう、空を見上げながら思った。



 ◇◇◇


 結婚生活四か月十五日目――

 結局、ティアとフェルナンド様が帰ってきたのは、旅に出て一ヶ月半が経った頃だった――

「リーゼ……様」
「ティア!? どうしたの!? ティア!」

 長い旅から帰って来たティアは、私の顔を見るなり、胸に倒れ込んだ。

「どいて下さい」

 困惑している私からティアを受け取ったフェルナンド様は、軽々と彼女を抱き抱えた。

「疲労だとは思うが、念の為に医者の用意を」
「かしこまりました」

 指示を受けたミセスが、すぐに手配を始める。

「ティア……!」

 フェルナンド様の腕の中、真っ青な表情をしたティアは、意識を失っていた。

(小説でも聖女の活動に疲れて寝込んだりしたことはあるって書いてあったけど、こんなに酷いなんて……)

 読むのと実際に見るのとでは、受け止める感覚が違った。

「リーゼは部屋に戻っていて下さい」
「いいえ、私も付き添わせて下さい。ティアの傍にいたいんです」
「……お好きにどうぞ」

 もっと反対されると思いきや、意外と、フェルナンド様はあっさりと了承してくれた。

(ティア……早く、元気になって。私もフェルナンド様もジークも、傍にいるから)

 推しのヒロインであり、私の大切で大好きな友達が回復するよう、強く願った。

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