26 / 62
26話 星祭り
しおりを挟む◇◇◇◇◇
あれから、ティアの聖女としての活動は、前のような無茶な日程を組まれることはなくなり、ティアの体調や心のケアを考えられながら、行われることになった。
旅から戻った後はやっぱり、まだしんどそうにしているけど、私やジークが付き添っていると、自然と、元に戻っていった。
フェルナンド様は、以前よりもティアを私達に任せてくれるようになり、フェルナンド様自身も、少しは、休めているように見えた。
そんな中、私の大好きな小説のシナリオが、始まろうとしていた。
結婚生活六か月目――
「お祭りが……あるんですか?」
「ええ、とっても楽しいお祭りよ」
グリフィン公爵邸の庭園、真っ白な丸いテーブルに、四つの椅子。
その内の一つに私が、私の隣にはティアがいて、私はティアに、帝都で行われる《星祭り》について、お茶を飲みながら話をした。
「昼間は屋台とか出てて楽しいし、夜は夜で、綺麗な装飾が帝都全体にされてて、光る街を散歩してるみたいで、すっごいロマンティックなの」
「そう……なんですね」
「――平民も参加するような卑しい祭りには興味ないと言っていたのに、随分、詳しいんですね」
もう一つの私の隣の椅子に座っているのはフェルナンド様で、フェルナンド様は、私の言葉に、怪訝な表情を浮かべた。
「えーーっと、実は、心の中ではすっごい、素敵だなぁって思っていたんです」
「ふぅん」
(リーゼったら、そんなこと言ってたのね)
過去のリーゼの発言は知らないので、こうして話を振られると、毎回、何て言い訳しようか、とても戸惑ってしまう。
「……リーゼ様は、そのお祭りに、行きたいんです……か?」
「私? うん、そうね。行ってみたいかな」
転生したばかりの私が、星祭りを知っているのは、勿論、小説の知識によるものだ。
(昼間のお祭りもだけど、夜の星祭りは綺麗で幻想的って描かれていたから、この目で見てみたかったんだよね。まさか転生して、その願いが叶うなんて!)
お祭り自体、転生する前も、幼い頃以来行っていない気がする。
一人で行ってもいいけど、どうせなら、誰かと一緒の方が楽しそう。そう思って、私は自分の目の前に座る人物に声をかけた。
「ジーク、私と一緒にお祭りに行こうよ」
四つ用意された椅子の最後に座っていたジークは、私の誘いに、飲んでいた紅茶のカップを口から離し、むせたように咳き込んだ。
「だ、大丈夫? ジーク」
「大丈夫だけど……」
大丈夫と口にするものの、どことなくジークの顔色は暗い。体調不良とかから来るものじゃなさそうだけど、何? 一体、どうしたの?
因みに、何故このメンバーで集まってお茶会が開かれているかというと、発案者はティアで、普段なら絶対に断りそうなフェルナンド様が参加しているのは、聖女であるティアのお願いだからである。
「私と一緒に行くのが嫌なの? 私は、ジークと一緒ならすっごく楽しいだろうなって思ったのに……」
「違う、嫌とかじゃないよ。でもほら、僕よりも他に適任がいるんじゃないかな? って思っただけで」
「私には、ジークしかいないけど」
だってティアはフェルナンド様と一緒に行くだろうし、邪魔は出来ないし、させない。アルルは侍女の立場から遠慮しちゃうだろうし、ミセスなんてもってのほか。消去法でジーク以外、一緒に行く相手いなくない? 他に友達いないし……
「あ、嫌なら無理強いしないから大丈夫だよ! ジークが駄目なら、私、一人で行くから」
ジークの雇い主であるお父様の力を借りて、無理矢理連れて行くなんて真似しないから! ……最も、今のお父様なら、頼んでもしてくれない気がするけど。
「いや、それはそれで……」
言いにくそうに言葉を濁すジーク。
「……リーゼ様は……私よりも、ジーク兄さんと一緒の方が良いんですね」
「……」
私の両隣で、ティアが落ち込み、フェルナンド様が不機嫌になっているのに、私は全く気付かなかった。
「……ティア、よろしければ、俺と一緒に行きませんか?」
「フェルナンド様……はい、よろしくお願いします」
(おお! 小説通りの展開です!)
フェルナンド様が推しのヒロインをデートに誘う瞬間を、この目で見れるなんて! と、興奮する。
「……はぁ、分かったよ、リーゼ、僕達も一緒に行こう」
「ほんと? ありがとう!」
ティアを好きなジークには悪いけど、これは小説通りの展開! 大切な物語の筋書きなので、覆すことはさせません! なんていったって、この星の祭りには、フェルナンド様がティアに愛の告白をする大切な挿絵のシーンがあるんです! 小説のファンとしては、このシナリオを覆させるわけにはいかないんです!
848
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる