『初恋の続きを、君と。』

第1話：10年ぶりの再会

　 「じゃあ、次の案件、こちらの担当で進めますね」
　 淡々とした声が耳に届いた瞬間、匠（たくみ）は手にしていた書類を落としそうになった。
思わず顔を上げる。そこに立っていたのは——

八木 奏人（やぎ かなと）。
10年前、突然いなくなった幼馴染だった。

髪型も、服のセンスも、大人になって少し鋭い雰囲気をまとっているけど。
間違えるはずがない。あの目、あの声、あの空気感——。

「……奏人、だよな？」

「……ご無沙汰してます、斉藤さん」

他人行儀な口調。
まるで他人みたいな視線。
同じクラスで、毎日一緒にいて、誰よりも近かったあの奏人が——そこにいた。

「担当変わったって聞いてたけど、まさか……」

「偶然ですね」

偶然じゃない。
ずっと連絡が取れなかった、あの日以来。

高校受験を前にして、突然の転校。
理由も、別れの挨拶もなかった。
残されたのは、ぽっかりと空いた時間と、言えなかった「好き」の気持ちだけだった。

「……元気だった？」

「まあ、それなりに」

事務的なやり取りが終わると、奏人は軽く頭を下げて会議室を出ていった。
背中を見送りながら、匠の胸の奥がじんと熱くなる。

あの時と、同じ匂いがした。
まだ、終わってなかったんだ——この気持ち。

　 （続く）