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第2話:あの日のままの声
しおりを挟む「お前、顔に出すぎだって」
仕事終わり、編集部に戻ると同僚の松井がニヤつきながら缶コーヒーを渡してきた。
「なにがだよ」
「いやいや、会議中のあの顔。どストレートに“動揺してます”って書いてあったぞ?」
図星すぎて、反論できない。
——奏人と、10年ぶりに再会した。
あんな形で、まさか職場で、こんなに近くで。
そしてあんなによそよそしい態度。
(……まるで他人みたいだった)
匠は缶コーヒーを手にしたまま、ゆっくり椅子にもたれかかった。
目を閉じれば、あの頃の記憶が簡単に蘇る。
***
「匠、見て見て!これ、ウルトラレアだぜ!」
「おおーっ!まじか!お前、運良すぎ!」
中学の帰り道。
くだらないことで笑い合って、漫画の貸し借りして、体育祭はいつも同じ組。
冬の教室でふたり並んで、指先がかじかむまでしゃべってた。
でも、あの日突然——。
「来週から転校するって。親の仕事で、急に決まったんだって」
風の噂のように聞かされた。
(なんで、俺には何も言わなかったんだよ)
直接聞きたかった。
言いたかったことも、渡せなかった手紙も、ぜんぶ飲み込んだ。
***
「やっぱ変わってねーな、お前」
突然、声がして顔を上げると、そこには——奏人。
「……え?」
「顔に出やすいとこ。昔からだろ」
そう言って、奏人は無表情のまま自販機のボタンを押す。
出てきたコーヒーを取りながら、ぽつりと続けた。
「……今日の案件、俺が担当になるの、知らなかった。だから驚いたのはこっち」
「そっか……」
会話はそこまでだった。
奏人は「じゃあ」とだけ言って背を向ける。
その背中を見送りながら、匠は思った。
(あの頃のままの声だった。けど——あの頃のままの君じゃなかった)
心だけが、10年前に置き去りのままだった。
(つづく)
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