琴子と幽霊の大五郎

さんごさん

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才能があるならイラストレーターになりたい

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 大五朗の告白が終わり、私は家に戻ってきた。

《えっく…うぅ……うわぁあぁぁ》

 大五朗は泣いていた。

「仕方ないじゃないの。幽霊が見える人なんて珍しいものよ」

 当然の如く大五朗は仲田さんには見えなかった。

 それは私にしてみれば想定どおりだったけれど、仲田さんには文字通り目にも入っていないということを痛感したのか、大五朗は泣き崩れていた。

 この調子でずっと泣いているものだから、私にしてみればうざったい事この上なかった。

《あ、あんさんは分からないんだ。あっしがどれだけの覚悟で告白したのか》

「そんな事言われてもさあ。――それに最初から言っていたはずよ。これはあくまでもテストみたいなものだって」

 それなのにここまで大泣きされてしまってはたまったものではない。

《あっしを試したんですかい?》

「そんな事言ってないでしょ?試したのは仲田さんが大五朗を見れるかどうかよ」

《う、うう。うわぁあぁぁ》

 大五朗は泣きやまない。大声で泣くものだから五月蝿くてしょうがないのに、私はそれを止められない。

 触れるなら殴ってでも止めてやるのだが。

(ああもう。面倒臭いな)

「大五朗。これで終わったわけじゃないわ。諦めるのは早いわよ」

 仕方ないので励ましの言葉を掛ける。

《で、でも、あのお譲さんはあっしの姿が見えないんでやすよ。一体どうしたら…》

「そうね。姿を見せるだけなら方法はあるかもしれないわ」

《ほ、本当で?》

 やっと大五朗は泣きやんだ。方法があると言えば泣き止むのだから現金なものだ。

「まあ、『あれ』が残ってればの話だけど」

《『あれ』?》

「写真よ。あなたが生きてるときの写真があれば、仲田さんにそれを見せるだけで大五朗の姿は知ってもらえるわ」

《写真を撮るんで?》

「いえ、生前の写真の方が良いわね。あなたの親族がどこにいるか分かる?」

 その方法にあまり気乗りしないのは、大五朗の生前の写真を持っている人を訪ねなければならないからだ。

 いきなり大五朗の親族のもとに行って生前の写真を借り受けるというのは、中々に難易度の高いミッションだ。

《いえ、死んでからは親族と関わったことはありやせん》

「そう。じゃあ大五朗の親族を探すところから始めないとならないわね」

 またしても苦手な探偵業をしなければならないかもしれない。

 しかも今回は手掛かりの無いところから親族を探し出す必要があるのだから、私のような素人には辿り着けない可能性も高い。

《でもあんさん。それは無理ですよ》

 暗い気持ちながらもやる気になっていた私に対し、大五朗は首を振る。

「どうして?」

《だってあっしは、生きてるときに写真を撮ったことなんて無いんですよ》

 写真を撮った事がない?

「写真を撮られるのが嫌いだったの?」

《違いやす。あっしは今まで一度も、写真に写ったことがないんです》

「何言ってるのよ。子供の頃の写真くらいはあるでしょ?」

《いえ、あっしの生きてた頃には、写真なんてものは存在しなかった》

 写真が存在しないって、写真は江戸時代にもあるものだったはずだ。坂本竜馬の写真だって教科書には載っている。

「ちょっと待って。大五朗。あなたは一体、いつ死んだの?」

《しっかりとは覚えていやせんが、少なくとも、百年以上前に》

 ああ、何てことだ。

「しゃべり方がおかしいとは思ってたけど、まさかそんな昔に死んでたとは考えてなかったわ。そもそも大五朗、あなた、仲田さんに未練を残して死んだんじゃなかったわけ?」

 仲田さんは二十歳のはずだから、彼女が生まれた後に死んだのならば最大でも死んでから二十年しか経っていないはずだ。

 しかも彼女に惚れていたというのならば、せいぜい五年程度しか経っていないのではないかと勝手に想像していたけれど、百年以上というのは想像を絶するほど昔だった。

《そんなはずは無いですよ。だってあっしが死んだときに、あのお譲さんは生まれてもいなかったんですよ?》

「じゃああなたは何でこの世にいるのよ。未練がないなら消えるものでしょう?」

《何の縁か、この世に居着いちまって。最初は梅ちゃんのことが好きだったんでやすが、想いを伝えられないまま梅ちゃんが死んじまいやして。その次は妙ちゃんだったんでやすが、妙ちゃんもすぐに死んじまいやした。その次は……》

「もういいわ」

 つまり大五朗は好きになった人が死んでから、少しもしないうちに他の人を好きになったという事だ。

 それはもう、消える暇も無く。

 百年以上というならばそれが何人にのぼるのか分からないが、彼はかなり『惚れっぽい』のだろう。

(まあ、想い人が死んだショックで悪霊にならなかっただけでもマシか)

「それにしてもあなた、顔に似合わず惚れっぽいのね」

 ひ弱そうにビクビクしている割に、好きな人がひょいひょい変わっているというわけだ。いや、ひ弱そうでビクビクしているから惚れっぽくないなどというのは私の単なる偏見でしかないけれど。

《あっしを女垂らしみたいにいわないで下さい》

「違うの?」

《違いやす》

 大五朗の目は真剣だ。

「でもそれは困ったわね」

《どうしたんです?あっしが女垂らしだった方が良かったんで?》

「違うわよ。それじゃなくて、あなたが百年以上前に死んだってこと。元から写真がないんじゃ、探しようも無いわ」

 無い物を探したって出てくるはずはないし、写真がないんじゃ大五朗の姿を伝えるのは困難だ。

「うーん。どうしましょう」

《駄目なんで?》

「難しいわね」

 私は頭を悩ませるが、どうしても良案は思いつきそうもない。

《う、ぅぅうう》

「ちょっと待って、無理だなんて言ってないでしょ。泣かないでよ」

 大五朗が泣き出したので慌ててそう言うが、別に案が浮かんだわけでもなかった。

《どうにかなるんで?》

 泣き止んだ大五朗は私を睨んでくるが、ここで私に案が無いなどと言われたらすぐにでも泣き出すだろう。

 だから私は無理に案を搾り出す。まあこれは、苦し紛れでしかないけれど。

「……あ、そうだわ。私には大五朗が見えてるんだし、似顔絵でも書いてみましょうか」

《お、お願いしやす》

 意外と良い案だったかもしれない。

 大五朗の顔をしっかりと紙に描ければ、多少の違いはあっても仲田さんに大五朗の姿を認識させられる。

 ただ、一つだけ決定的なまでに絶望的な要素がそれにはあったが。

 私は机の引き出しから色鉛筆と画用紙を取り出した。

 色鉛筆は十二色しかない安物だけど、色が多いからといって上手く描けるものでもない。机の椅子に座り、大五朗を手招きする。

「こっちに来て」

 大五朗を正面に見て、私は緑色の色鉛筆を取り出した。

《あっしの身体に緑の部分なんてありやすかい?》

 私が取り出した色鉛筆を見て、大五朗は眉を寄せる。

「五月蝿いわね。かっこ良く描いてあげるから黙ってなさい」

 色鉛筆を画用紙に這わせ、スラスラと大五朗の輪郭を作り上げていく。

 短めの髪を描き、顔の中に目、鼻、口を入れていく。

 私が大五朗の目を確認しようと視線を向けると、ふいと大五朗は横を向く。

「ちょっと。横を向かれちゃ描けないわよ」

《な、何だか恥ずかしいです》

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ?悪霊になりたくはないでしょ」

《………わ、分かりやした》

 しっかりと大五朗を見つめ、私は作画に戻った。

「出来たわ」

 肌に色をつけると、私の作品は完成した。

「これでどうよ」

 画用紙をひっくり返して、大五朗に見せる。

《………これは、子供の落書きで?》

 しばらく黙った後、大五朗はそう言った。

(まあ、そう見えるよなあ)

 描いた本人がそう思うのだから、描かれた本人だってそう思うだろう。

「私は絵が苦手なのよ」

 画用紙を放りだした私は立ち上がり、ベッドの上に移動した。

 机の椅子は硬くて座り心地が良くないから、物を書いたりするとき以外はベッドの上に座っていることが多いのだ。

「似顔絵も駄目か」

 言うまでも無く、自分の絵の力量など理解していたから、描く前からこれが使用不可な方法だとは分かっていた。

 もっと上手い人に似顔絵を描いてもらうという手も、『大五朗を見れる人』でなければならないという枷があるから使えないし、私が大五朗の顔を説明して、絵の上手い人に描いてもらうというのだって、警察に就職できるほどの能力がなければ難しいだろう。

勿論私にそんな知り合いはいない。

「写真でも撮ってみる?」

 幽霊の撮影というのはしたことがなかったけれど、写るのだろうか。

 これで写ってくれれば大五朗の姿を誰にでも見せられるのだが。

《写真ですか?緊張しやすね》

 そう言いつつもまんざらではない様子の大五朗だ。

 私はカメラを探す。

 確か押し入れの奥に古いデジカメがあったはずだと探し回るが、見つからなかったのでお母さんからスマホを借りた。

「何に使うの?」と聞かれたから、「自撮り」と応えたら「名古屋コーチン?」返ってきたのは、ボケなのか、マジなのか。

 母はぽよよーんとした天然さんなので、判別が付かなかった。

「はい、チーズ」

(この掛け声も古いよな)

 大五朗にカメラを向けて、撮影ボタンを押すと、『カシャ』というフィルム式カメラのシャッター音を模したものだと思われる音が鳴って、撮影が完了した。

 撮れた写真を確認すると、意外にも大五朗の姿がそこには写っていた。

「すごい。写ってるわよ」

 驚いて感動してしまい、自然と首を頷かせてしまう。

《確かに写ってやすね》

 それには大五朗も同意した。

「でも……」

 私は液晶画面が映し出した大五朗の写真を見る。

 そこには確かに大五朗が写っている。写っているのだが…。

「これじゃあただの心霊写真よね?」

 大五朗の身体は透けていた。

 それは知っている者が見れば大五朗の顔だと分かるほどしっかりと写っているのだが、身体を通り越して背景が見えていたのでは心霊写真以外のなにものでもなかった。

《これであっしだと分かりやすか?》

「私には分かるけど…」

(うん。これを見せられても不気味に思うだけだよな)

「ごめん大五朗。どうしたら良いのか分からないわ」

 他に大五朗の姿を仲田さんに見せる方法を思いつかない私は、仕方なしに謝るのだった。


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