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にじゅーきゅう
しおりを挟む「しばらくは王城で寝泊まりして欲しい」
そう言った殿下に固まったのは数秒の話だった。すぐに我に返った私は慌てて殿下に言う。
「ど、どうしてですか?」
嫌な予感がした。殿下がこう言うということはきっと、私の身に危険があるからだろう。だけどなぜ、危険がある?それをどうやって把握したーーー?
あの後、殿下は一度帰宅したのち、私に登城するよう命を出した。陛下がなき今、暫定的とはいえ玉座についてるのは殿下ということになる。そんな彼の言葉を無視するわけにもいかず、私は固唾を飲んで登城し、謁見の間に通された訳だがーーー。
会ってすぐに言われた言葉がそれだった。
私の狼狽えた様子に、殿下が難しそうな顔をしながらため息をついた。
「………これは、まだ正式な発表ではないんだが」
そう前置きしてから殿下が私の方に視線を合わせた。苦悩が混ざった瞳だ。恐らく私に告げるかどうかも悩んだのだと思う。
「…………陛下は暗殺された」
ーーーやっぱり
言われて、抱いた感想は、やはり、というも思いだった。殿下が突然私を王城に住まわせるというのがまずおかしい。
そして陛下は特に持病持ちというわけでも、体が弱いというわけでもなかった。なのに突然亡くなったということに驚きが隠せなかった。
陛下が亡くなったということは国民に混乱を招きかねないため、まだ伏せられている。現状この事実を知っているのは私と、私のお父様、そして一部の大臣たちのみ。
「………それは、私が狙われるという可能性が、」
「ないとはいえない。……すまない、まだ犯人も見つかっていないんだ。せめてきみの安全が確保されるまでは城で寝泊まりして欲しい。ーーーいや、寝泊まりしてもらうことになる」
すなわち、それは命令。
私が断ることは出来ないのだと知った。私は少し黙った後、謁見の間に取り付けられている窓を見た。空はどんよりしていて曇天模様だ。いつ雨が降り出してもおかしくない。
「……わかりました。では、いつから王城に参ればよろしいでしょうか」
「……今日からだ」
「今日から?」
「そう。もう用意はできているから、シャーロットは僕の隣の部屋を使って。侍従と侍女は後で紹介する。とりあえず………ラーセル」
呼ぶと、傍らでずっと控えていた男がすっと前に踏み出した。
そして私の前まで歩くと恭しく頭を垂れる。
「ラーセルは腕がきく。しばらくの間は、ラーセルをつけるから。何かあったらラーセルに言って」
「わかり……ました」
目まぐるしく動く内実にさすがにたじろわずにはいられない。だって私はこんな展開を知らない。
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