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よんじゅーいち

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「早速だけど、お願いごとがあるの」

「シャルロット様?」

アメリアが小さく私に呼びかけた。
私はそれに目だけで答え、店主と思われる青年に声をかける。

「奥に通してちょうだい。アメリアはここで待っていて」

店主の青年を慎重に見つめながら言うと、彼は少し私を眺めた後にこりとまた微笑みをひとつ浮かべた。どうしたって胡散臭さを感じる。

「かしこまりました。では、お嬢様、こちらへ」

「シャルロット様、私は……」

アメリアに呼びかけられ、私は短く返した。

「ここで待っていて。すぐ戻るわ」

実際、すぐ戻れるかは不明だけど。
青年に連れられ奥に向かうと突き当たりに扉がひとつあった。青年は何の躊躇もなくその扉のノブを回す。金色のノブ………。これはおそらく金だわ。庶民にはとてもじゃないが手が出ないもの。それをあちこちにあしらった金具といい、ノブといい。やはりこの店が例の『金を積めばなんでもする店』で間違いないだろう。

「……どうぞ」

青年に声をかけられて室内に入る。
静かで、だけどどこか厳かな雰囲気を感じる。あちこちにアンティークの品が見受けられる。どれもお高いのだろう。掘られた紋様などよく見れば名高い巨匠のものだと分かる。ものによっては私と使っているものとおなじアンティークの品すらあった。
とてもじゃないがただの個人店の一室ではない。貴族でもここまで金をかけられる家は少ないだろう。
部屋に入り、ぱたん、と扉が閉まる音を聞く。振り向くと、青年は恭しい手つきで椅子を引いていた。だけど私はその椅子に触るつもりは無い。私はすぐさま彼の顔を見て言った。

「早速だけど、ロティア通り三番地に一番近い道筋と、あと裏口から私を出して欲しいの」

「ロティア通り?」

青年は私に言われて目を丸くしたが少しして目元を和らげた。私の言いたいことがわかったとでも言いたげな顔だ。
ロティア通り三番地とはメゾネリアから一番近い通りだ。この店に来て、わざわざロティア通り三番地を指定するわけアリ客。それだけで察せられるというものだろう。

「なるほど。………かしこまりました。では、お代の方を」

話が早い。
私は懐に忍ばせていた金貨を三枚とるとそれを近くにあったこれまた高そうなテーブルに置いた。
カチャン、という金特有の音がする。
青年は少しだけ意外そうな顔をした。
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