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アデライン・アシュトンの矜恃 〈前編〉
9.王女殿下の策略
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「っ……」
(は、は~~~~!??)
喉まで出かかった抗議の声を、何とか飲み下す。
まつ毛をはね上げてしまったが、何とか目を伏せた。
穏やかさを保ちながら、声を出す。
「私が、王女殿下の真似を?」
「……ごめんなさい。言うべきではなかった?ねえ、アデル。私があなたに聞きたいことってね」
そこで、王女殿下は足を止めた。
嫌な予感がする、と思った。
彼女の言葉は、聞かない方がいい。
そんな、予感が。
王女殿下は、困ったように眉尻を下げながら、言った。
「あなた……私に、嫉妬──ううん、私の事、嫌いでしょう?」
「は……?」
今、嫉妬って。
……嫉妬って、仰いました!?
誰が!?誰に!?
私が!?王女殿下に……!?
思わず足を止める。
アンジーも、王女殿下も、同じように立ち止まった。
大聖堂の付近には、人気がない。
立ち入りには王族の許可が必要なためだ。
「あのね、アデル。なにか私に言いたいことがあるなら──」
王女殿下は、震えた声を出した。
今にも、泣いてしまいそうな、そんな弱々しい声。
その瞬間、私は理解した。
王女殿下が俯いているのをいいことに、冷めた目で彼女を見る。
(ああ、そう。そういうこと)
【嫉妬で悋気を見せる伯爵令嬢に、辛く当たられた王女殿下】
そういうシナリオに、しようというのだろう。
彼女は、魔法学院で、よく涙を見せた。
研究室に押しかける彼女に、やんわりと注意した時。
アンドリューとの関係を聞いた時。
いずれも、彼女は涙を見せた。
それもあって、ますます私は彼女に苦手意識を抱くようになったのだ。
(今だって、そう)
王女殿下のアメジスト色の瞳は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそう。
女の涙は武器なのだと、その昔、誰かが言ったそうな。
私とはとことんスタンスが違うというものだわ。
涙は、見せるべきではない。
涙は、弱さの証だから。
私はそう思っているから、だからこそ、人前で泣きたくない。
私は微笑んで言った。
「……王女殿下を嫌いだなんて。そんなことあるはずないでしょう?」
「だけど」
「ただ、不思議に思ったのです。もし本当に偶然なら、なにか、別の力が働いていそうだ……と。王女殿下は、不思議に思ったことはありませんか?こんなにも服の色や小物が重なるのです。今日だって、ほら。王女殿下が身に着けていらっしゃるのは、真珠の耳飾り?私と同じですわ」
「私は……そんなつもり」
「ええ。存じておりますわ。それに、本来なら私が謝らなければなりません。高貴な方だと服装どころか小物まで被ってしまうなんて。だけど、私にも他意はないのです。お許しいただけますか?」
「……そんなつもり、なかったのよ?本当に、私は」
王女殿下は、もごもごと言葉を続けた。
意図的に服装や小物を揃えてくるのは、間違いなく王女殿下の仕業だ。
彼女が何を狙って、私と同じものを身につけるのかは分からないけれど──。
(そうそう。魔法学院の時は、彼女が私と同じ髪色に染めて、騒ぎになったのだったわね)
彼女は、柔らかなローズ色の髪をしているが、一時期何を思ったのか、彼女は私と同じく紫色に髪を染めた。
それはもう、大変な騒ぎになったものだ。
何せ、桃色の髪は聖女の証。
五百年前に現れた聖女がピンクの髪をしていたとかで、それもあってジェニファー殿下は聖女の生まれ変わり、と呼ばれているのだ。
その聖女の証と言ってもいい髪を染めたことは、流石に王家も看過出来なかったらしい。
早々に叱られたらしい彼女は、すぐに染め粉を落としたようだった。
彼女が、私の何に執着しているのかは分からない。
彼女が私の真似をする理由と、それを止めさせることは適わなかったけれど。
十分、牽制にはなっただろう。
そう考えていると、王女殿下がアンジーを呼んだ。
「アンジー。あなた、もうお人形遊びは卒業した?」
彼女がアンジー、と呼ぶ度に不快感を覚える。
(私の妹に、馴れ馴れしくないで欲しいわ……)
まさか、アンジーを懐柔するつもり?
何を言うつもりかと警戒していると、王女殿下は思いもよらないことを口にした。
(は、は~~~~!??)
喉まで出かかった抗議の声を、何とか飲み下す。
まつ毛をはね上げてしまったが、何とか目を伏せた。
穏やかさを保ちながら、声を出す。
「私が、王女殿下の真似を?」
「……ごめんなさい。言うべきではなかった?ねえ、アデル。私があなたに聞きたいことってね」
そこで、王女殿下は足を止めた。
嫌な予感がする、と思った。
彼女の言葉は、聞かない方がいい。
そんな、予感が。
王女殿下は、困ったように眉尻を下げながら、言った。
「あなた……私に、嫉妬──ううん、私の事、嫌いでしょう?」
「は……?」
今、嫉妬って。
……嫉妬って、仰いました!?
誰が!?誰に!?
私が!?王女殿下に……!?
思わず足を止める。
アンジーも、王女殿下も、同じように立ち止まった。
大聖堂の付近には、人気がない。
立ち入りには王族の許可が必要なためだ。
「あのね、アデル。なにか私に言いたいことがあるなら──」
王女殿下は、震えた声を出した。
今にも、泣いてしまいそうな、そんな弱々しい声。
その瞬間、私は理解した。
王女殿下が俯いているのをいいことに、冷めた目で彼女を見る。
(ああ、そう。そういうこと)
【嫉妬で悋気を見せる伯爵令嬢に、辛く当たられた王女殿下】
そういうシナリオに、しようというのだろう。
彼女は、魔法学院で、よく涙を見せた。
研究室に押しかける彼女に、やんわりと注意した時。
アンドリューとの関係を聞いた時。
いずれも、彼女は涙を見せた。
それもあって、ますます私は彼女に苦手意識を抱くようになったのだ。
(今だって、そう)
王女殿下のアメジスト色の瞳は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそう。
女の涙は武器なのだと、その昔、誰かが言ったそうな。
私とはとことんスタンスが違うというものだわ。
涙は、見せるべきではない。
涙は、弱さの証だから。
私はそう思っているから、だからこそ、人前で泣きたくない。
私は微笑んで言った。
「……王女殿下を嫌いだなんて。そんなことあるはずないでしょう?」
「だけど」
「ただ、不思議に思ったのです。もし本当に偶然なら、なにか、別の力が働いていそうだ……と。王女殿下は、不思議に思ったことはありませんか?こんなにも服の色や小物が重なるのです。今日だって、ほら。王女殿下が身に着けていらっしゃるのは、真珠の耳飾り?私と同じですわ」
「私は……そんなつもり」
「ええ。存じておりますわ。それに、本来なら私が謝らなければなりません。高貴な方だと服装どころか小物まで被ってしまうなんて。だけど、私にも他意はないのです。お許しいただけますか?」
「……そんなつもり、なかったのよ?本当に、私は」
王女殿下は、もごもごと言葉を続けた。
意図的に服装や小物を揃えてくるのは、間違いなく王女殿下の仕業だ。
彼女が何を狙って、私と同じものを身につけるのかは分からないけれど──。
(そうそう。魔法学院の時は、彼女が私と同じ髪色に染めて、騒ぎになったのだったわね)
彼女は、柔らかなローズ色の髪をしているが、一時期何を思ったのか、彼女は私と同じく紫色に髪を染めた。
それはもう、大変な騒ぎになったものだ。
何せ、桃色の髪は聖女の証。
五百年前に現れた聖女がピンクの髪をしていたとかで、それもあってジェニファー殿下は聖女の生まれ変わり、と呼ばれているのだ。
その聖女の証と言ってもいい髪を染めたことは、流石に王家も看過出来なかったらしい。
早々に叱られたらしい彼女は、すぐに染め粉を落としたようだった。
彼女が、私の何に執着しているのかは分からない。
彼女が私の真似をする理由と、それを止めさせることは適わなかったけれど。
十分、牽制にはなっただろう。
そう考えていると、王女殿下がアンジーを呼んだ。
「アンジー。あなた、もうお人形遊びは卒業した?」
彼女がアンジー、と呼ぶ度に不快感を覚える。
(私の妹に、馴れ馴れしくないで欲しいわ……)
まさか、アンジーを懐柔するつもり?
何を言うつもりかと警戒していると、王女殿下は思いもよらないことを口にした。
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