〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。

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アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉

21.まるで悪魔でも目の当たりにしたかのよう

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「お願い、だと?」

国王陛下が眉を寄せる。

王とこんなに近くで話したことはない。
社交界デビューでも、挨拶程度だった。

多少緊張したが、それよりも、このプランを必ず成功させてみせる、という気持ちが勝った。
何より、私はこの【お願い】を必ず叶えたい。

私は頷くと、国王陛下に言った。

「まずひとつめ。私と、アンドリュー・ロッドフォードの婚約は相手の有責にて破棄とさせてください」

「なっ……」

アンドリューが何か口を開きかけたが、私はそれを黙殺して、続きを口にした。

「ただし。今回、私とアンドリュー・ロッドフォードの婚約は、相手の有責によって破棄されたとしても、私はロッドフォード家から賠償金は求めません。ただ、代わりと言ってはなんですが──」

私は、そこで言葉を区切った。
伯父様とお母様はうんうん、と私の話を聞いている。
その仕草はよく似ている。

流石兄妹、ということなのかしら……。

私は、続けてふたつめのお願いを口にした。

「アンドリュー・ロッドフォードの婚約相手は、王女殿下、そしてメアリー・エムルズの両名としていただきたいのです。これが、ふたつめのお願いです」

「……は!?」

アンドリューは目を見開き、王女殿下も唖然としている。
メアリーに至っては、苛立たしげに私を見ていた。

突拍子もない【お願い】だが、国王陛下は伯父様の手前か、ひとまず私の話を聞くことにしたらしい。
彼は顎髭に触れながら眉を寄せ、私に尋ねた。

ふたり・・・との婚約」

「はい」

「アデライン嬢。貴女も知っていると思うが、我が国で重婚は禁じられている」

「存じております。ですから、アンドリュー・ロッドフォードにはどちらかと・・・・・結婚していただきたいのです。それであれば、問題ありませんでしょう?選ぶのは、アンドリュー・ロッドフォードです。私は、彼の結婚に関与いたしません」

「選ばれなかった方は?」

低い声で、国王陛下が尋ねる。
恐らく、私の返答を予想した上で。

だから、私はとびきり綺麗──と思われる角度に首を傾げ、満面の笑みを浮かべて見せた。

「今と変わりませんわ!残念ですけれど、選ばれなかった方には、今と同じ関係を保っていただくことになります。端的に言うなら【愛人】という関係ですわね?」

私のハッキリとした言葉に、周囲の、主にご婦人がたから短い悲鳴が上がった。

本来、愛人、という強烈な言葉パワーワードは表に出てこない存在だ。

それが、こんなに堂々と、しかも王家主催の夜会で取り沙汰されている。

(これは、ここ数年、いやもしかしたら数十年にわたって語り継がれるかもしれないわね……)

もはや伝説になりかねないほどの騒動だが、ここまできて引くわけにも行かない。
何より、私の一番の願いは、最後、三つ目のお願いにあるのだから。

「そして、最後に」

「まだ、あるのか……」

疲れたように、国王陛下が言う。
だけど、勘違いされたら困るわ。

何せ、本題はこの三つ目のお願いごとにこそあるのだから。

私は一歩、また一歩、と足を進めた。
そして、国王陛下の影に隠れるようにして佇む王女殿下に声をかけた。

「王女殿下」

「ひっ……」

失礼な。
王女殿下は、まるで悪魔でも目の当たりにしたかのような細い悲鳴をあげた。

いつもキラキラと煌めいているアメジストの瞳は今は絶望に見開かれている。
動揺、混乱、衝撃、悲哀……そんな感情が綯い交ぜになった表情で、彼女は私を見た。

だけど、それこそ誤解しないで欲しいの。

(確かに私は王女殿下あなたが嫌いだけれど)

憎い、とは思っていないのよ。

ただ、私は清算してほしいだけ。

あなたがした、過去の行いに。

「三つ目。最後のお願いです。王女殿下、以前、あなたは私の許可無く、そしてわたしの妹──エンジェルの許可もないのに、妹をアンジー、と呼びましたわね?」

「!?」

私の言葉は、周囲のひとたちも、そして王女殿下すら予想していないものだったらしい。

みな驚いたのが伝播して伝わってきた。

それくらいで、と思うひともいるでしょう。

でもね、私にはそれくらい・・・・・のことがとっても、とっても──

「不愉快でした」

「なっ……。あっあっ……」

王女殿下は何を言われると思ったのか、口をパクパクと開閉させて、萎縮していた。

ぽろぽろと、次から次に涙がこぼれる。
こんなにも泣いて、よく枯れないものだわ、と思うと同時に。

前回と同じような構図に、内心苦笑してしまった。

そんな顔で見られたら。
そんなふうに泣かれたら、まるで私が悪いみたいだわ。

一方的に相手を糾弾することが悪だ、と言うのなら。
結構だわ。私は、悪になりきってみせましょう。
最後まで、手心なんて一切見せずにね。

「妹をアンジーと呼ぶのは、もうおやめください。妹からそう呼ぶよう乞われたのでしたら、話は別ですが──殿下の場合、そうではありませんでしょう?」

「──っ……」

私が言い終えた瞬間。
ぼろっと、大粒の何だが、王女殿下の瞳から零れ落ちた。

「ひっ、う、うう、うあああああーーーー!!」

そして、辺りによく響き渡る大きな声で、彼女はまた号泣し始めた。

泣き出した王女殿下に慌てた様子で国王陛下がその傍に寄る。
国王陛下は王女殿下を心配そうに見て、背中をさすり、あやしているようだ。

まるで、泣かした私にこそ責がある、とでも言うような構図だけれど──。

「失礼、セイクレッド王。そちらの王女は、まともに話し合いができない様子だ。下がっていただいても?」

コツ、コツ、と私の隣に来た伯父様が、そう言った。


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