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アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
25.仲の良さそうなあなたに嫉妬した
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ワインは、想像以上に美味だった。
口当たりは柔らかく滑らかで、口に含んだ瞬間、柑橘系の爽やかな甘みが広がった。
味わい深く厚みのある、フレッシュな味わいだ。
「美味しい……!」
感動していると王太子殿下が満足そうに頷いた。
無表情なのでわかりにくいがグレイも、満足しているようだった。
運ばれてきた皿には、卵料理やチーズ、ナッツ、カルパッチョといった品が運ばれてきて、食事に舌鼓を打ちながら、私たちは話を再開させた。
「それで……王太子殿下が、エムルズ公爵令嬢を動かしたのですか?」
尋ねると、ボロネーゼのパスタに口をつけていた王太子殿下が、ん?と顔を上げた。
どうやら、先程の夜会では食べ損なってしまったらしい。
王太子殿下は空腹である。
「ああ、うん。そうだよ。メアリーはあれでアンドリューにのぼせ上がっていてね。こちらも頭の痛い問題だったんだ。だから、メアリーをけしかければ、失敗はしないだろうと思ったんだよ」
王太子殿下は、そこでワインに口をつけて喉を潤すと、続けて言った。
「それに──ほら、これでも僕には王太子としての責任があるからね。王女が迷惑をかけたんだ。腹違いとはいえ、兄の僕には尻拭いをする義務があるからさ」
「まあ……」
「それでついでに、メアリーも片付けばいいなって思ったわけ。ああ、でもあわよくば……ってことだ。全て計算づくだったわけじゃあない」
王太子殿下はそういうと、ぺろりとパスタを平らげてしまった。
どうやら、だいぶ腹ぺこだったようだ。
そして──彼は、私も気になっていたことを口にした。
「しかし、ジェニファーの本命がグレイとはね。読めなかったな」
「あれはその場しのぎの嘘だろう。現状維持したかっただけなんじゃないか?」
チーズとトマトを乗せたブルスケッタを口に運びながら、グレイが淡々とコメントした。
それに、王太子殿下がチッチッ、と人差し指を振る。
「分かってないね。あれは本心だよ。そうは思わないかい、アデライン嬢?」
話を振られた私は、口に含んでいたチーズをこくん、と飲み込み、考えた。
(確かに、王女殿下のあの様子は演技のように見えなかった……)
本気で、本心からそう言っているように見えたのだ。
だけど、そうだとするなら、やはり、なぜ?といった疑問がついてくる。
私は、口元に指先を当てると、抱いた疑問をそのまま口にした。
「ですが、もし、そうだとするなら。なぜ、王女殿下はアンドリューと……」
「そこが、難しい乙女心ってやつだよね」
「乙女心はよく分からないが、それは世界中の乙女を敵に回す発言だと思うが」
グレイの全くその通りなコメントに、私も頷く。
それに、王太子殿下は肩を竦めた。
「いや、でもそうとしか思えない。我々は思い違いをしていたんだよ」
「思い違い、ですか?」
「ああ。僕は以前、グレイとジェニファーの婚約は、あなたありき、だと言ったね。それは、変わらない。だけど、因果関係が逆だったんだ」
「……それは、つまり?」
私は、首を傾げた。
グレイも、先を促すように王太子殿下を見ている。
彼は、「つまりね」と前置きをした後、言った。
「元々、ジェニファーはグレイが好きだったんだ。だから、仲の良さそうなあなたに嫉妬した。……どう?」
口当たりは柔らかく滑らかで、口に含んだ瞬間、柑橘系の爽やかな甘みが広がった。
味わい深く厚みのある、フレッシュな味わいだ。
「美味しい……!」
感動していると王太子殿下が満足そうに頷いた。
無表情なのでわかりにくいがグレイも、満足しているようだった。
運ばれてきた皿には、卵料理やチーズ、ナッツ、カルパッチョといった品が運ばれてきて、食事に舌鼓を打ちながら、私たちは話を再開させた。
「それで……王太子殿下が、エムルズ公爵令嬢を動かしたのですか?」
尋ねると、ボロネーゼのパスタに口をつけていた王太子殿下が、ん?と顔を上げた。
どうやら、先程の夜会では食べ損なってしまったらしい。
王太子殿下は空腹である。
「ああ、うん。そうだよ。メアリーはあれでアンドリューにのぼせ上がっていてね。こちらも頭の痛い問題だったんだ。だから、メアリーをけしかければ、失敗はしないだろうと思ったんだよ」
王太子殿下は、そこでワインに口をつけて喉を潤すと、続けて言った。
「それに──ほら、これでも僕には王太子としての責任があるからね。王女が迷惑をかけたんだ。腹違いとはいえ、兄の僕には尻拭いをする義務があるからさ」
「まあ……」
「それでついでに、メアリーも片付けばいいなって思ったわけ。ああ、でもあわよくば……ってことだ。全て計算づくだったわけじゃあない」
王太子殿下はそういうと、ぺろりとパスタを平らげてしまった。
どうやら、だいぶ腹ぺこだったようだ。
そして──彼は、私も気になっていたことを口にした。
「しかし、ジェニファーの本命がグレイとはね。読めなかったな」
「あれはその場しのぎの嘘だろう。現状維持したかっただけなんじゃないか?」
チーズとトマトを乗せたブルスケッタを口に運びながら、グレイが淡々とコメントした。
それに、王太子殿下がチッチッ、と人差し指を振る。
「分かってないね。あれは本心だよ。そうは思わないかい、アデライン嬢?」
話を振られた私は、口に含んでいたチーズをこくん、と飲み込み、考えた。
(確かに、王女殿下のあの様子は演技のように見えなかった……)
本気で、本心からそう言っているように見えたのだ。
だけど、そうだとするなら、やはり、なぜ?といった疑問がついてくる。
私は、口元に指先を当てると、抱いた疑問をそのまま口にした。
「ですが、もし、そうだとするなら。なぜ、王女殿下はアンドリューと……」
「そこが、難しい乙女心ってやつだよね」
「乙女心はよく分からないが、それは世界中の乙女を敵に回す発言だと思うが」
グレイの全くその通りなコメントに、私も頷く。
それに、王太子殿下は肩を竦めた。
「いや、でもそうとしか思えない。我々は思い違いをしていたんだよ」
「思い違い、ですか?」
「ああ。僕は以前、グレイとジェニファーの婚約は、あなたありき、だと言ったね。それは、変わらない。だけど、因果関係が逆だったんだ」
「……それは、つまり?」
私は、首を傾げた。
グレイも、先を促すように王太子殿下を見ている。
彼は、「つまりね」と前置きをした後、言った。
「元々、ジェニファーはグレイが好きだったんだ。だから、仲の良さそうなあなたに嫉妬した。……どう?」
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