文字の大きさ
大
中
小
11 / 25
偽りの朝
「ぁ………ア」
朝、目が覚めて声を出すとなかなかに枯れていた。昨日は明け方まで抱かれていたのを思い出す。
ーーー夢の時間は終わってしまった。
残されたのは、現実のみ。
声を静かに出していると、不意に後ろからグッと抱き寄せられた。見なくてもわかる。レイル様だ。
レイル様。わずかな間といえど彼を敬称なしで呼び、そして気安く話していた感覚は消えない。しばらくは違和感が付きまとうだろう。だけどそれでいい。それが、私と彼の正しい距離感なのだから。
だからーーーもう少しだけ。あと少しすれば、あなたは本当に幸せになれるから。私ではなく、あなたの思う方と、きっと幸せになれる。
「ん………リーフェ?」
「レイル………」
今、彼を敬称で呼ぶのは不自然だ。話をするのから、夜がいい。私はそっと彼のすべすべの腕を取り、額に押付けた。
とても幸せだった。幸福だった。そうだと信じ、浸れるほどには。私には、彼の本物の愛は得られなかったけれど。だけど仮初の安寧と、優しさを彼はくれた。それで十分だ。それで十分じゃないか。それ以上を望むのは、我ながら欲深い。元々私のものではなかった人だ。私には過ぎた人だったのだ。元々、私とは縁がなかった人。だけど何の偶然か、たまたま、色々なことが重なって彼の妃になれただけ。
【棚ぼた妃】ーーー。まさにその通りだ。この婚姻は色んな不運と不祥事が重なって巡ってきただけのもの。急ごしらえて取り繕われた婚姻だったのだ。それなのに、私は彼と思いあっていると。そう信じきってしまっていた。なんて愚かだったのだろう。自分のことしか考えていなかった。
「もう起きる?俺はまだ、もう少しこうしていたい」
レイル様の声は少し掠れていた。寝起きだからだろうか。その甘い声が嬉しくて、切なくて、悲しくて、胸が痛くなる。本当に。本当に好きだったの。だけど、好きだからこそーーー幸せになって欲しい。
「私も………。でも、レイルは忙しいんじゃない?政務が立て込んでいるのでしょう?」
嘘か本当か分からない言葉を口に乗せると、レイルが唸るのが聞こえた。それと同時に、ギュ、と彼の腕に強くだきしめられる。
「んー………そうなんだけど。だけど今は、リーフェの方が心配だから。………昨日から、どこかおかしいよね?何かあった?」
不意に、優しい声に尋ねられる。私は言葉に詰まって、それでも、なんでもないふうを装って寝返りを打った。彼の瞳と目が合う。海色の、キラキラした瞳だ。朝の眩しい光に照らされて、彼の瞳は夏の海のような色をしていた。
「………あのね、あの。ひとつだけ、わがままを言っていい?」
視線を合わせて言うと、レイルは少し驚いたように瞬きをしたが、すぐにふわりと笑んでくれた。その笑みに胸が甘く締め付けられる。寝乱れたレイルは髪がいつものようにセットしておらず、どこか無防備に見えた。
「何?何でも俺に言って。リーフェのために出来ないことはないよ」
「それなら………あの。今日は早く戻ってきて欲しいの」
感想 20
あなたにおすすめの小説
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
辺境伯と幼妻の秘め事
睡眠不足 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。
途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。
*元の話を読まなくても全く問題ありません。
*15歳で成人となる世界です。
*異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。
*なかなか本番にいきません
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
【完結】 心だけが手に入らない 〜想い人がいるあなたは、いつか私を見てくれますか?〜
紬あおい
完璧な夫には愛する人がいる。
心は手に入らないと分かっていても、愛することをやめられない妻。
そんな二人がいつしか心を通わせ、家族となっていくお話。