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一章
切り離せない、割り切れない
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「そういうつもりでは……。その、真っ直ぐに……ええと、純粋に?想ってらっしゃるように見えたので……」
取り繕うように言葉を重ねれば重ねるほど墓穴を掘るようで、慌てて話を転換しようと模索する。
政略結婚した妻が、王妃が、不貞を疑われるなど有り得ないことだ。不貞そのものより、夫婦間の信頼関係の瓦解に繋がる。
何より、彼に誤解されたくない。
混乱のあまり、あちこちに視線をさまよわせて、私はようやく話を変えることに成功した。
「あ、もしかして聖女様は、ほかに好きな方がいらっしゃったのでしょうか?」
「……すごいね、この短時間でそこまで辿り着いたんだ?女の勘ってやつ?もしそうなら、女の勘も侮れないな」
少し驚いたようにロディアス陛下が言うので、私は笑ってしまった。
「いえ……。ただ、そうなのでは、と思っただけです。不慣れな環境で、あのように熱い想いを向けられてなお、想いを受け取られなかったということは……既に心に決めた方がいらっしゃるのでは、と」
「単純にアレンが気に食わなかっただけかもよ」
ロディアス陛下がぼそっと、辛辣なことを付け加えるので、苦笑した。
彼は私を抱き寄せて、膝の上に乗せると、そのまま私の肩に顎を乗せて話し出した。
距離がさらに近くなる。
体温すら感じる近さ。
彼と肌が触れ合うのは未だに慣れなくて、その度に心臓が跳ねる。今も、活発なまでに鼓動がうるさく騒ぎ回って、私はぴしりと石のように固まってしまった。
「ままならないものだね、ひとの感情っていうものは」
「は、はい」
あまりの近さに、その肌のぬくもりに。
あたたかさに、熱さに。
上手く言葉が紡げない。
彼は私の首筋に頭を擦り寄せて、言葉を続ける。
「アレンの妻にでも出来ればあるいは、と思ったんだけど……。まさか帰っちゃうとはね」
「ざ、残念ですね?」
彼の手が、腕が、触れている。
私の腰に、背中に。
柔く抱きしめられている。
ふわりと香るラベンダーがあまりにも官能的で、頭が上手く回らない。
自分が何を言っているのかすら、危うい。
「うん、割とね」
彼の舌がぺろり、と私の肌を舐めた。
首筋に熱が走る。
濡れた舌先が肌をなぞり、ちゅ、と柔く食んだ。
びくり、と揺れる体を、彼が抱え込む。
「ゃっ……へい、か」
「んー……こういう時まで『陛下』って呼ばれるのは、好ましくないな。気が乗らなくなるって言うか──」
「で、ではどうお呼びすれば……?」
中途半端に昂った体を放置されては困る。
彼に教えこまれてしまった体は、些細な刺激でも敏感に反応してしまう。
このまま解放されても、きっと朝まで落ち着かない気分で過ごすことになるだろう。
そう思っておずおずと尋ねると、彼は少し考え込むように沈黙した。
「……ロディアスでいいよ」
「え?で、ですが──」
「陛下、と呼ばなければなんでもい。きみを抱く時まで肩書きに縛られたら、できるものもできなくなる」
「え、えぇ?と……は、はい。分かりま、ました……。ロディアス様」
口篭りながら彼の名を呼ぶと、ロディアス陛下はよく出来ました、とでもいうように柔らかく微笑んだ。私は彼の瞳を見なかった。
感情の伴わない、冷たい瞳をしていたら、きっとまた私は、性懲りなく傷つくだろうということが、分かっていたから。
(できるものも、できなくなる──)
つまりそれは、義務でしかない、ということ。
義務だから仕方なく、私に触れる、ということだ。私は彼に触れられて、浅ましくも悦びを感じ、嬉しく思う気持ちを抑えられない。
だけど彼はそうでは無いのだ──。
それを思い知らされてしまってまた、苦しくなる。
彼のくちびるが、私の首筋を食んだ。
柔く甘噛みされて、そのまま肌を伝う。
「んっ、ぁ……」
思わず、声がこぼれてしまう。
些細な接触なのに、ただ首筋に口付けられているだけなのに。
私は、甘やかな声をこぼしてしまった。
体はすっかりこの先を期待してしまっていて、少し触れられただけで大袈裟に反応してしまう。
それが恥ずかしいのに、自分では止めることが出来ない。
「ロディアス、っさま……ぁっ」
「うん、やっぱりいいね。名前で呼ばれた方が、断然いい」
彼は私の胸元をぺろりと舐めると、結ばれたリボンの先を咥えた。
はらりと、リボンが解かれる。
胸元の白い膨らみがあらわになって、彼が肌に口付けた。それはあまりにも卑猥な光景で、目を逸らしたくなった。
……彼は、ルエイン様とも、こういうことをするのだ──。
それを、どうしてかこの時に思い出してしまった。
ルエイン様の、焦がれる眼差し。
彼を、求める熱い瞳を。
ロディアス陛下は、同じように彼女に触れるのだろうか。こうして抱き上げて、膝に乗せ、彼女の肌に触れる。
それを想像すると、笑ってしまうくらい胸が軋んでしまった。
取り繕うように言葉を重ねれば重ねるほど墓穴を掘るようで、慌てて話を転換しようと模索する。
政略結婚した妻が、王妃が、不貞を疑われるなど有り得ないことだ。不貞そのものより、夫婦間の信頼関係の瓦解に繋がる。
何より、彼に誤解されたくない。
混乱のあまり、あちこちに視線をさまよわせて、私はようやく話を変えることに成功した。
「あ、もしかして聖女様は、ほかに好きな方がいらっしゃったのでしょうか?」
「……すごいね、この短時間でそこまで辿り着いたんだ?女の勘ってやつ?もしそうなら、女の勘も侮れないな」
少し驚いたようにロディアス陛下が言うので、私は笑ってしまった。
「いえ……。ただ、そうなのでは、と思っただけです。不慣れな環境で、あのように熱い想いを向けられてなお、想いを受け取られなかったということは……既に心に決めた方がいらっしゃるのでは、と」
「単純にアレンが気に食わなかっただけかもよ」
ロディアス陛下がぼそっと、辛辣なことを付け加えるので、苦笑した。
彼は私を抱き寄せて、膝の上に乗せると、そのまま私の肩に顎を乗せて話し出した。
距離がさらに近くなる。
体温すら感じる近さ。
彼と肌が触れ合うのは未だに慣れなくて、その度に心臓が跳ねる。今も、活発なまでに鼓動がうるさく騒ぎ回って、私はぴしりと石のように固まってしまった。
「ままならないものだね、ひとの感情っていうものは」
「は、はい」
あまりの近さに、その肌のぬくもりに。
あたたかさに、熱さに。
上手く言葉が紡げない。
彼は私の首筋に頭を擦り寄せて、言葉を続ける。
「アレンの妻にでも出来ればあるいは、と思ったんだけど……。まさか帰っちゃうとはね」
「ざ、残念ですね?」
彼の手が、腕が、触れている。
私の腰に、背中に。
柔く抱きしめられている。
ふわりと香るラベンダーがあまりにも官能的で、頭が上手く回らない。
自分が何を言っているのかすら、危うい。
「うん、割とね」
彼の舌がぺろり、と私の肌を舐めた。
首筋に熱が走る。
濡れた舌先が肌をなぞり、ちゅ、と柔く食んだ。
びくり、と揺れる体を、彼が抱え込む。
「ゃっ……へい、か」
「んー……こういう時まで『陛下』って呼ばれるのは、好ましくないな。気が乗らなくなるって言うか──」
「で、ではどうお呼びすれば……?」
中途半端に昂った体を放置されては困る。
彼に教えこまれてしまった体は、些細な刺激でも敏感に反応してしまう。
このまま解放されても、きっと朝まで落ち着かない気分で過ごすことになるだろう。
そう思っておずおずと尋ねると、彼は少し考え込むように沈黙した。
「……ロディアスでいいよ」
「え?で、ですが──」
「陛下、と呼ばなければなんでもい。きみを抱く時まで肩書きに縛られたら、できるものもできなくなる」
「え、えぇ?と……は、はい。分かりま、ました……。ロディアス様」
口篭りながら彼の名を呼ぶと、ロディアス陛下はよく出来ました、とでもいうように柔らかく微笑んだ。私は彼の瞳を見なかった。
感情の伴わない、冷たい瞳をしていたら、きっとまた私は、性懲りなく傷つくだろうということが、分かっていたから。
(できるものも、できなくなる──)
つまりそれは、義務でしかない、ということ。
義務だから仕方なく、私に触れる、ということだ。私は彼に触れられて、浅ましくも悦びを感じ、嬉しく思う気持ちを抑えられない。
だけど彼はそうでは無いのだ──。
それを思い知らされてしまってまた、苦しくなる。
彼のくちびるが、私の首筋を食んだ。
柔く甘噛みされて、そのまま肌を伝う。
「んっ、ぁ……」
思わず、声がこぼれてしまう。
些細な接触なのに、ただ首筋に口付けられているだけなのに。
私は、甘やかな声をこぼしてしまった。
体はすっかりこの先を期待してしまっていて、少し触れられただけで大袈裟に反応してしまう。
それが恥ずかしいのに、自分では止めることが出来ない。
「ロディアス、っさま……ぁっ」
「うん、やっぱりいいね。名前で呼ばれた方が、断然いい」
彼は私の胸元をぺろりと舐めると、結ばれたリボンの先を咥えた。
はらりと、リボンが解かれる。
胸元の白い膨らみがあらわになって、彼が肌に口付けた。それはあまりにも卑猥な光景で、目を逸らしたくなった。
……彼は、ルエイン様とも、こういうことをするのだ──。
それを、どうしてかこの時に思い出してしまった。
ルエイン様の、焦がれる眼差し。
彼を、求める熱い瞳を。
ロディアス陛下は、同じように彼女に触れるのだろうか。こうして抱き上げて、膝に乗せ、彼女の肌に触れる。
それを想像すると、笑ってしまうくらい胸が軋んでしまった。
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