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一章

邪魔者に過ぎない

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ティータイムが終わると、私はメイドと騎士を伴って自室に戻ることとした。
時間はわずか一時間にも満たなかったが、どっと疲れた思いだ。
これからずっとこのような日々を送るのかと思うと、今から胃が痛い。

(ルエイン様と上手くやる……。それにはどうすればいいか、わからなかったけど)

今日のティータイムで少しだけ、道が開けた気がする。
いちばん良いのは、彼女に|王妃(わたし)という存在を認めてもらうこと。
だけどそれは、なかなか骨が折れることだろう。
なにせ彼女もまた、ロディアス陛下に想いを寄せる女性なのだから。
となると、──目下、私の目標は。

(ルエイン様に場を掌握されないようにすること……かしら?)

レーベルトの社交界は、彼女の方が熟知している。その上、人脈も私などよりずっと広いだろう。
本当に、私よりもずっと正妃にふさわしい女性だと思う。

ルエイン様から見て、突然現れ、横から想い人へいかをかっさらった私は、さながら魔女そのものだろう。

悪名高い魔女は、欲しいものはみな手にするという。
それはひとの理に定められるものではない。
強欲な魔女の目に留まれば、何をおいても防げるものではないらしい。
ランフルアではまるで死神のように、その存在を語り継がれてきたのだ。

(私も魔女の血を継いでいる)

だからきっと、こうして正妃であることの意味を探し、正妃として、在るべき姿を模索している。

本当に心優しい娘なら、ルエイン様と直々に話して、『私とロディアス陛下はそのような関係ではない』と告げるのだろう。

『彼とは恋情で結ばれた仲でない。だから安心して欲しい』と。
『貴女の想い人を盗ったりしないから』と。

──しかし、私にはそれが出来ない。

彼女と同じように、彼に心を寄せる私が、どうしてそれを言えるだろうか。
口にしてもそれは所詮、上辺のものにしかなり得ない。
強欲で、悪名高い魔女の血を引く私は、彼の愛の代わりにと、彼の妻の席に縋り、しがみついているのだ。

罪悪感が胸を過る。
私が身を引けば、陛下とルエイン様は、王と第二妃という形であっても想いを交わせるかもしれない。
私という邪魔者がいなければ、それは叶うのかもしれない。
すべて、私がほんの少し我慢し、潔く諦めれば、それで済む話なのだ。

……それなのに。
その道を、彼らにとっての最善を、用意できない私は……なんて、罪深いのだろう。

やはり私は、私には、"魔女"の血が流れているのだ。
この肉に、血に、臓物に。
"私"という存在を形づくるそれに、魔女の性が隠されている。

部屋に戻る途中、背後を歩く騎士やメイドたちが不意にサッと膝をついたので驚いて振り向く。

そこには今まさに、私の思考を占めていた彼がいた。
紺のシャツに、王を示す白のジャケットを羽織っている。瞳も髪も色素の薄い彼が白のジャケットを身に纏うと、どこか幻想的に見えてしまうので、不思議だ。

「ティータイムは終わった?」

「はい。先程。……恙無く、終了しました」

少し悩んで、もしかしたら彼は、私がなにか失敗しなかったか、と案じているのかもしれない、と思い、さらに付け加える。
彼──ロディアス陛下は、私の言葉に苦笑した。

「まるで部下の報告だね」

「……申し訳ありません」

少し眉を下げた。
なにか、不興を買ってしまったのだろうか。
彼はそんな私を見ると、首を傾げて見せた。
顔を上げると、既にいつも通りの柔和な笑みを乗せた彼がいる。

「私室に戻るところだった?……少し話そうか」

彼がそう言って、私の横を歩く。
私もまた、彼を追いかけるようにして歩を進めた。後ろでは、少しの距離を保ってメイドと騎士が随従している。

「ルエインがきみに意地悪しなかった?」

その言葉に少し驚く。
それと同時に、やはり彼はティータイムでなにか起きなかったのか、気にしているのだろうとも思った。
正妃と第二妃の仲が悪ければ、それは政争にも繋がるから。毒を盛ったり盛られたり、なんてことになれば社交界が乱れる。
私は頷いて答えた。

「……友人になりたい、と仰っていただきました」

「友人?ルエインときみが?」

驚いたようにロディアス陛下が仰る。
頷いて答えると、彼は「んー……」と悩むように声を出した。

「……他には?」

「……可愛らしいと。その、私を」

「可愛らしい……?」

彼が眉を寄せる。
それに、焦がれるような羞恥心を覚えた。
やはり私には、可愛いという言葉は似つかわしくないのだ。
私は取り繕うようにさらに言葉を重ねた。

「社交辞令だと理解しております。それに……ルエイン様の方がよほど、可愛らしいと思いますし」

「え?いや、そうじゃなくて……。彼女が意味もなくそんなことを言うとは思えなくて」

「意味もなく、ですか?」

思えば、ルエイン様はほかにも、私を素直だ、とも言っていた。
陛下は気が気でないだろう、とも。
それが意味するところは──ティータイムが終わり、ゆっくり考えられるようになった今、その言葉を紐解く。

(……王妃の冠を戴くには、教養や振る舞いが足りない、とそう言いたかったのかしら)

そう大きく外していないだろう。
もしかしたら、もっと苛烈な意味合いがあったのかもしれないが。
そう思うと、ため息を禁じ得ない。
陛下の負担にならないようにしろ、と。
そういう意味合いを含んでいたのかもしれない。

(……そう思うと、私の言葉は……)

考えて、背筋がヒヤリとした。
彼女の方が可愛らしい、と答えた言葉は紛れもない私の本音だが、彼女には"貴女の方が劣っている"と聞こえたかもしれない。
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