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一章

害虫

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「このような場所にまで足を運んでいただき、ありがとうございます」

対面したメリューエルは、私と同じ銀の髪を持っていたが、私よりも白い、雪のような色合いだった。灰色と称されることもある私とは、似ているようで全く違う。
案内されたのは中庭で、パラソルの下、テーブルを挟んで彼女と向かい合う。
季節の花に囲まれ、庭園の中心に置かれた噴水を楽しめる位置にテーブルは置かれていた。

冷夏とはいえ、夏の日差しは強い。
直射日光を浴びるとじわじわ蒸し暑さを感じる気温だ。
パラソルのおかげで日陰となっているために、ちょうどいい過ごしやすさとなっている。
テーブルにはアフターヌーンスタンドが置かれ、用意されたのは甘い香りのするハーブティーだった。
彼女と私は、それぞれハーブティーに口をつけてから、話を始めた。
私が社交界に不慣れなこと、そして、ロディアス陛下からの勧めで彼女を訪ねた、ということまで。

「……ルエイン様、ですか」

私が彼女の話を振ると、彼女はほんの少し瞳を細めて、考え込むように言った。
鋭い赤の瞳は、明るい日差しの下で見ると、少しだけ恐れを抱く。
彼女は冷たいとすら感じさせる無表情で、最初に薄い愛想笑いを浮かべてから、終始その様子だった。

ふと、彼女と視線が交わった。
彼女の梅重色の瞳は真っ直ぐで、射るような力強さがある。
その瞳に呑まれそうになり、私は息を呑む。

似ている、と思った。
それは、ロディアス陛下の瞳の強さと。

真っ直ぐに私を見る、その強さ。
なにものにも侵されないような、【己】を持っている。
それは、【自分】があるものの瞳だ。

貴族として、確かな自分を確立した瞳。
私には持ち得ない、確かな強さを秘めた瞳。

彼女はじっと、痛いくらい強く私を見つめた後──ふ、と視線を逸らした。

「……王妃陛下が何を求めていらっしゃるのか分かりかねますが、生憎、私は彼女についてあまり知り得ません」

「…………」

「ですが……ひとつだけ、お伝えするのであれば、あれは毒花によく似ています。しかも、遅効性の毒を持つ。油断すると、内側に入り込み、食い荒らす……そうですね。毒花、という例えより、毒虫、と言った方が正しいかもしれません」

そうして、彼女はにこり、と笑った。
額に触れる前髪を煩わしそうに横に流しながら、優雅な手つきでカップを持つ。
首を傾げ、愛らしい笑みを浮かべる。
先程の無表情が嘘のような甘やかな笑みに、内心驚いた。

ここまで表情が変わるとは、思わなかったから。
いや、明確には違う。
表情が変わるだけで、こんなに雰囲気が変わるとは思っていなかったのだ。

「王妃陛下の対応は悪いものではありません。そうやって毅然となさっていれば、悪いようにはなりませんわ。あの娘は身の程を弁えず──自身の口八丁手八丁だけで、のしあがろうとしている、ならず者ですもの。王妃陛下のように、高貴な身の上で、尊い血の方に対して、対等に振る舞おうなんて……」

ふ、とメリューエルは鼻で笑った。
とことん、心底馬鹿にしたような声音だった。

「身の程知らずもいいところ。育ちが分かる、というものですね」

「…………」

私は、メリューエルの言葉に呆気に取られていた。
ルエイン様にあのような言葉を放ったのだから、苛烈なひとだ、ということは知っていた。
だけど、実際彼女と対面して言葉を重ねてみると、想像以上に辛辣というか──見た目からは想像がつかないほどにたくましい精神を持っているようだった。
驚いてひたすら瞬きを繰り返す私に、メリューエルは少しだけ眉を下げた。

「王妃陛下のお話は夫から、少しばかりですが伺っています。夫は貴女のことを、内気ではあるが、陛下を強く案じられている、と言っておりました。……私は王妃陛下について、あまり詳しくありませんし、こうしてお言葉を交わすのも初めてです。ですが、陛下がこうして学びの場を、と用意されるくらいですから、陛下からの信頼も厚いのでしょう」

メリューエルの言葉が流れるように続く。
私はそれを聞いてから、やっと我に返り、口を開いた。

「……いいえ、そんなことは。そうであると、嬉しいのですが」

「…………恐れながら、王妃陛下は尊い身の上でありながら、謙遜する|癖(へき)がございますね。王妃陛下の人柄をよく表す、良きことかと思いますが、貴女に敬意を払わない逆賊にそのような気遣いは不要です」
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