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公爵令嬢の失態 3
しおりを挟む「アル、少しお時間よろしいかしら?」
「何?」
執務を終えて残りの片付けでもしようとしていたのか、書類を手に持ったままアルがこちらを向く。アルは少し怪訝そうだ。そうよね。あれ以来まともに目を合わせられなくなったわたくしが声をかけるなんて怪しまれても当然よね。しかも、
「お邪魔しまぁす」
「なぜ聖女がここに?」
執務室に一緒に入ったパフェを見て、アルが眉をしかめる。
そんな顔も美しいのだからアルは神に愛されているとしか思えない。何なのかしらあのお顔。美少女顔にも程があるわ。全くうらやまけしからん、ではなくて、羨ましくてたまらないわ。
あの剥き卵のようなお肌。つるっつるなんですけれど!?眉も男性にしては細めだし、鼻筋はツンと通っている。薄い唇は薔薇色で、紅要らずじゃないの。
全体的に色素が薄いのがよくわかる白い肌。
お髭もあまり生えない体質なのか、本当に男性なのか疑うレベルだわ。いや、男性なのは確かだったわね………。身をもって思い知らされてしまったのだったわ……。わたくしはそれを思い出して頬がカッと熱を持った。
だけど今はそんなことをしている場合じゃないわ。わたくしはほぼ日課ともなったアルの身体をじっと下から上に眺めた。
均整の取れた細身の体躯、腰は細く、手足はしなやかだ。その上顔も整った美青年なのだから百点満点。
「フラン様、視姦…………ンンッ。じゃなくて、殿下に何か言うことがあるのでは??」
あまりにじっくり見ていれば、パフェに促された。そうだったわ。
わたくしはアルと十分な距離を保ちながら言った。前のあれそれがあるので警戒は怠らない。
「アル。わたくしの一生のお願い、聞いてくださる?」
「えろいやつ?」
「………」
顔に似合わず直球で聞いてくる。
オブラートという言葉を口に詰め込んでやりたい。反射的に言い返しそうになって、わたくしは少し考えた。ある意味卑猥なことではある。
ただ卑猥な目にあうのはアルだが。
「まあ、そうね?」
「へえ、何?というか何で聖女がいんの?」
「私はサポーターです。SV的立ち位置なのでお気になさらず」
パフェが静かに答える。
アルは求めた答えじゃなかったのか眉を寄せる。
「はあ?SV?」
ちなみにわたくしもパフェの言うことは分からない。
「アル、お願いがあるの。ドレスを着てみてくれないかしら」
「…………………は?」
アルが信じられないものでも見たかのような顔をする。さながら天地がひっくり返ったような、半身半獣でも見たかのような顔だ。
わたくしは早速プレゼンした。己が身の安全確保のためにパフェを前に出すことも忘れない。パフェはさながらアルからの接触を防ぐ防護壁だ。
「安心して?アルはとっても似合うと思うの。世界の誰よりもドレスを綺麗に着こなすわ!ええ、わたくしなんかより断然ね!それが羨ましいかと聞かれたら正直憎くすらあるけれど、いいのよ。わたくしは寛容なの。髪は巻いてくるんとした感じに、お化粧は不要だと思うけれどせっかくなら目元に色を指したいわね?紅は何色がいいかしら。ええと……そうね。やっぱり赤だわ赤。あら、なあにその顔。赤は不満?」
「フラン……お前、また突然わけわかんねーこと言い始めやがって」
「やだ、アル。口が悪いわ。あなたの顔立ちなら一人称は"僕"であるべきだし、語尾は"かな"で決定よ」
「ははは。僕、今すごくフランをどうにかしたくなってるんだ。なぜか分かるかな?」
「まっ、やっぱり良く似合うわ!ねえ、わたくしって言って!」
「ぶち犯すぞお前」
「そんな口が悪くては淑女になれないわよ!」
「ならなくていいんだよ、ならなくて結構!何回言わせる気だ、俺は王太子で男で、女じゃねえんだよ!」
「そんな女みたいな顔してるのに!」
「ああそうだよ!生まれてこの方何百回と言われてきた文句だな。聖女、退室頂いても?」
わたくしが何とかアルに食い下がっていると、緩衝材は困った顔をしていた。わたくしは首を振る。パフェがいなくなったらとてもまずい気がする。
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