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第一章

授かりもの

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お母様の声は甲高い。というか、お母様と呼ばなくて済むのなら私もそうしたいわよ。あなたみたいな人が義母とか悪夢以外の何物でもないわ。何かの罰かしら。でもそれ以外呼び名がないじゃない。お名前は呼びたくないし、だからといってご婦人、なんて呼ぶのおかしいでしょ?
私はこの場をどう収集付けるべきか悩みながら、とりあえずわんわん泣いてうるさい男をどうにかすることにする。パンパン、と手を叩くと男がこちらを見る。あの………鼻水が…………。本当に29歳………?一桁間違えてるのではなくて………?

「急に手なんて叩いて、下品だわ!!」

「以前王国建国祭の折り、王子殿下もされていたことですが下品でしょうか?そうであればご相談しなければなりませんね」

「どっ……どこに………」

私が今まで言い返すことなんてなかったからか、急に歯切れが悪くなった。アホシュア様は目を皿のようにしてこちらを見ている。少し怖い。狂気を感じるわ。

「さぁ。然るべきところに。………と、お話はいいんですの。ア………ホシュア様。先程は手が滑って、事故で胸元に紅茶をかけてしまい申し訳ございませんでした。ですが随分冷めていたことですし、お怪我はないのではありませんか?」

「そっ、そういう問題じゃないだろう!!僕に紅茶をかけたことが問題なんだ!全く、品性の欠けらも無いな!まるでチンパンジーだ!」

知性が猿より劣る人間に言われると多少ショックを受ける。

「でしたら故意に、真冬の雨の日に女の子を池に落としたホシュア様はチンパンジー以下………いいえ、サボテンにも劣る単細胞ということでよろしくて?」

「なっ、なっ」

言葉をなくして真っ赤になるアホシュア様とは別に、お母様が扇を握りしめながら怒鳴り散らした。怖い。握力で扇が壊れそうだわ。

「なんてことを言うの!!!リリアさん、この事はリズラ家に連絡させて頂きますからね!」

リズラ家は私の家だ。
正直、今までのことが今までのことなので何を言われても痛くも痒くもないのだが、婚約者間での騒動は醜聞にしかならないので、避けたいところだ。

「そうですの。そうしましたら私としましては、婚約の不履行として王家に通達させて頂きますわね」

「は?婚約の不履行……?」

「お、お母様!僕はこんな女、もう嫌なんです!熱湯をぶっかけるわ睨んでくるわ女らしい態度は出来ないわ、偉そうだわ!こんなドキツイ女、誰が」

「ああ、その事じゃありませんのよ。まぁ、それも含めてにはなりますけれど」

ちなみに熱湯はかけてないっていってるのに。棚上げ大好きにも程があるわよ。ご自分のやった事、胸元に手を当てて考えていただきたいわ。

「ルーロイド街のシュザンナ……という娘をご存知ですよね?」

「シュザンナ………!?」

その言葉に顔色が変わったのはアホシュア様だ。当たり前である。自分が贔屓にしていた店の娘の名を忘れるほど耄碌している訳では無い。
明らかに狼狽えたアホシュア様に、お母様が訝しげな顔をした。

「知り合いなの?」

「え、えと。それは」

「何でも授かってしまったとのことで、大変でしたわね。上手く収めましたの?」 

「は………!?」

「なんでそれをお前が………!!!」

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