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第二章

"聖女様に気をつけて"

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「ホシュアは行ったな………。リリア、きみに話しておきたいことがある。ああいや、レストでも構わなかったんだけれど、あまり派手に動くと、目をつけられるから」

「目をつけられるとは………?ディーンハルト殿下、いったい……」

「聖女様のことについてだ」

「聖女様………」

ディーンハルト殿下の言葉に思わず目を丸くする。
聖女様といえば、これからその身をお守りするために、辺境、フィンハロンへと行く予定だ。その聖女様について、ということで、私は虚をつかれた。まさか、ディーンハルト殿下から聖女様の話を持ち出してくるとは思わなかったわ。

「………あまり、きみに無闇矢鱈と先入観を与えるのはよろしくない、というのが兄上の見解だ。そして、僕もそうすべきだと思っている。だけど、後から後悔するのでは遅い」

「………あの?ディーンハルト殿下……」

その時、遠くで「殿下!」と呼ぶ男性の声が聞こえてきた。恐らく、ディーンハルト殿下の従僕か、騎士だろう。彼はちらりとそちらを見たが、やがて私を見た。そして、短く言いきった。

「聖女様に、気をつけて」

「え…………」

「ディーンハルト殿下、ようやくおみつけ致しましたよ!もう、すぐフラーっとどこかに行くんですから……って失礼。取り込み中でしたか」

庭園の中、ガサガサと忙しない足音をさせてやってきたのは、緑髪の、まだあどけない顔をした少年だった。年の頃は十三、四、だろうか。こんな幼い少年が王宮務めしていることに驚く。
少年の言葉に、ディーンハルト殿下は首を振って答えた。彼が首を振る度に、そのサラサラな亜麻色の髪が揺れて、太陽の光に照らされ、透き通った色になる。もしかしたら、私よりその髪はサラサラかもしれない。

(わ、私だって年頃の令嬢なのだけれど………)

おそらく、あまり手入れに時間をかけていないだろうと見受けられるディーンハルト殿下の髪がサラサラなのは、髪質か。生まれつきのものであれば、太刀打ちするのは難しい。

(………と、そうじゃなかった)

"聖女様に気をつけて"

………これって、どういう意味………?
ディーンハルト殿下を見れば、彼は少年に声をかけているところだった。

「いや、そろそろ戻るつもりだった。それじゃあね、リリア。健闘を祈る」

「え?ええ………。はい。ありがとうございます、ディーンハルト殿下。お元気で」

「うん」

しばらく、私は王城を離れる。
ディーンハルト殿下と次お会いするのは、聖女様をこの王都に、そして王城に。お連れした時になることだろう。
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