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三章

あなたのせい、きみのせい ※R18

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「さすがに昨日破瓜したばかりのきみに無理はさせられない。後ろ向いて、メリューエル」

別に、少しくらい無理をしてもいいのだけど。
そう思ったが、それを言えばあまりにも行為を望んでいるように思えて、口を噤んだ。
それに、後ろを向いて何をするのか、少し気になった、というのもあった。
ミュチュスカに従って後ろを向く。自然、手も足もシーツにつき、四つ這いの体制となった。

「ミュチュスカ?これでどう──」

するの、と言いかけた言葉は、ミュチュスカが覆いかぶさってきたことで、途切れてしまった。
ミュチュスカは私を後ろから抱きしめると、剥き出しの胸を手で包み、私の項に口付けを落とした。

「ん、ァッ……は、」

「……足、閉じて。そう。しっかり」

ミュチュスカに言われるまま、震えながら足を閉じる。そうすると、股の間にぬるついた熱が押し当てられた。それは長くて、固い。
見なくても分かった。サッと顔から、耳から、首筋まで。熱を持つ。
ミュチュスカの性器だ。それが触れると、私はミュチュスカの性を否応なしに思い知らされる。ミュチュスカは男で、私は女なのだと。
女の体が、好きな男に触れられて、好きな男に求められて、意図も容易く昂ってゆく。彼が腰を動かすと、ぬるついた液が潤滑液となって動きを助けた。秘部の間を、彼のものが擦る。
そうすると、甘い快楽が走った。

「ぁっ、や、ァ……ん、んぅ……!」

「は、……メリューエル。もっと、」

ミュチュスカの声にそちらを向くと、顎を掴まれて口付けを交わす。無理な体勢だから、少し首が痛いけれど、それでもミュチュスカとの口付けをやめたくなかった。必死にシーツを掴み、獣の交尾のように四つ這いになる。
ミュチュスカの肉棒はぬらぬらと滑り、時折私の秘芽を刺激した。

「ぁ、ッ……!や、ミュチュ……」

「イって。メリューエル」

ミュチュスカの熱い吐息が耳にかかる。それにすら背筋に痺れが走り、短い嬌声が途切れ途切れに零れた。

「ぁっ、ア、は、……っ、あ、や、だめ、も、……ッ、」

もう少しで達する、緩やかな快楽の終わりに連れていかれる。
そう思った時、ミュチュスカがかぷ、と首筋を噛んできた。
思わぬ刺激に、痛みに、気がつけば私は悲鳴をあげて達していた。

「やッ、ひ、ぁ、あ───ッ!」

びくびくと体が震え、耐えきれずに立てていた肘は崩れてシーツに倒れ込んだ。
ミュチュスカもまた、息を詰めて、腹に温いものが放たれる。
ミュチュスカも達したのだ。

なかには入らなかったというのに、あまりにも濃厚な交わりだった。はあはあと肩で息をしていると、ミュチュスカもまた私の隣に寝転がり、放った液を指ですくい、私の腹に広げた。
ぬるついた感触が腹部に広がった。
生臭いような、いやらしい香りがする。ミュチュスカの精と、私の女の匂いが混ざった結果なのだろう。男女の行為というのは、こうも濃密な匂いを作り出すのだな、と呆然と思った。
ミュチュスカは私の腹から指を放して、言った。

「俺の種が、きみの|腹(ここ)に芽吹けばいいのに」

「……あなたの子なら、きっと可愛いわね」

「俺ときみの子だよ。可愛いに決まってる。天使よりも天使らしい、そんな赤子が生まれてくる。……早く、身が結べばいい。そうすれば、きみはもうあんな無謀な行動には出ないだろう?」

ミュチュスカが瞳を細めた。
その瞳の奥に、冷たい氷のような色を見つけて、どきりとした。
……無謀な、行動?

そう言われて、思い当たるのはひとつしか無かった。
聖女の身代わりになり、ディミアンの元に行ったこと。
だけどあれは、あの時の最適解だと思っている。

よほど私は、困った顔をしていたのだろう。ミュチュスカは顔を和らげると、私をそっと抱き寄せた。
まるで、これ以上顔を見せないように。

「きみの行動は貴族として褒め称えられるものだ。褒められてしかるべき行動だ。……だけど、俺は、好きな女性に……好きな女の子に、危ない真似はさせたくない。だから、きみを孕ませる。そうすれば、周りもきみに無理はさせない。妊婦に過労を敷いるものは、さすがの社交界でもいないよ」

「………そう、なの」

ミュチュスカは静かに語ったが、彼がこの結論に至るまで、たくさん、たくさん悩んだのだろうということはすぐに分かった。
真面目で高潔な騎士である彼が、未婚の淑女である婚約者を孕ませることなど、通常の彼なら考えもしないことだろう。
だけど彼は、その手段を取った。
もう二度と、私が無茶をしないように。
無茶をしなくても、社交界に糾弾されないように、それに足る理由を作った。
……そうすることで、私を守れるから。
そうすることで、私は何をせずとも許されるから。

ミュチュスカの考えを、気持ちを思うと泣きそうになってしまった。
彼がどんな思いでそれを決めたのか。
その過程に思いを馳せてしまったから。

ねえ、ミュチュスカ。
あなたは愛や恋の気持ちを分からない、というけれど……。
私はね、思うの。
きっと、恋情に形なんて無い。
そのひとを想い、そのひとを希う。
その気持ちこそを、ひとは愛と呼ぶのではないかしら。

目を閉じると、熱い涙がじんわりと滲んだ。
誤魔化すようにミュチュスカの胸元に顔を押し付けるけど、すぐに泣いていることに気づかれてしまった。
ミュチュスカが、私の髪を撫でる。短い、銀の髪を。すぐに彼の指からはらりと髪がこぼれ、またすくうのを彼は繰り返した。

「……メリューエルは泣き虫だね」

優しい声だった。

だから、私は答えた。
酷い鼻声だったけど、構わなかった。

「あなたのせいよ。……あなたのせいで、弱くなってしまったの。私」

こんなに、すぐ泣くような弱い女ではなかったはずなのに。
あなたが、そうさせた。
ミュチュスカ、あなたが私を変えてしまったのよ。




【3章 完】
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