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エリザベス嬢の突撃 2

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肩まである金髪を首元で結び、全体的に柔和な雰囲気はあれど切れ長の瞳が彼を鋭く見せている。
近寄り難い人、高嶺の人。住む世界が違う人。私が彼に抱いている印象はそんなものだった。だからこそエリザベス嬢にそんな婚約話を突然されてとても驚いた。思わず叫びそうになったが既で堪えた。良かった。公爵令嬢としてありえない醜態を見せるところだったわ………。

「ユーリアス殿下………ですか?」

「ええ。わたくしは常々思っていましたの。王太子殿下ともあろう方が十九になってなお、ご婚約者がいないのはいささか問題ではないかと」

「そ、そうですわね。わたくしもそう思います」

確かにユーリアス殿下の年齢で婚約者がいないというのはいささか、というより結構問題だろう。しかもユーリアス殿下は王太子だ。そこらの貴族ならいざしらず、ユーリアス殿下は将来この国を継ぐ方。そんな方が未だに婚約者のひとりもいないのは結構問題だろう。私とは全く無縁のことだと思っていたから考えたこともなかったがたしかに。これは問題よね…………。だけどそれがなぜ、私と婚約することになるのだろう。そもそもこのことをユーリアス殿下はご存知なのだろうか。

「リーデハルト様は、ファールソン伯爵とデキニス男爵の話をご存じ?」

「ファールソン伯爵………ですか?申し訳ありません、わたくし社交界のことはあまり………」

何せここ二ヶ月ほど引きこもっていたのである。社交界の噂とかとんと馴染みがない。公爵令嬢にしてこの世間知らずぶりに少し恥ずかしく思いながらもエリザベス嬢を見ると、彼女はそうですわよね、と気を使うような表情をした。

「ご病気なのは存じ上げています。だけどどうしてもあなたにしかお願いができなくて………」

そうだった。私病弱設定だった。
それをはっと思い出し、さりげなく姿勢を崩しケホケホと短く咳をする。わざとらしすぎたかしら!?だって今の今まですごく自然体で話してしまったんだもの。このままじゃ健康体だということが気づかれてしまう………!

「わたくしにしか………出来ないことですか?」

少し声も小さめで静かに問いかけてみる。
エリザベス嬢は変わらず心配そうな瞳で私を見た。うっ………罪悪感………!

「………先程のファールソン伯爵とデキニス男爵の話ですが………カールを王位に、という動きをしています。まだ水面下ですが、ここからどう政局が動くかわかりません」

「そ、それは………」

それは私が聞いてしまってもいい話なのかしら!?
なんて発言をすればいいかわからず、言葉に迷う。だけどエリザベス嬢は私の返答にさほど興味がなかったらしく、すぐに言葉を続けた。

「ユーリアス殿下はとても優秀で、次期王位に就くにあたり不足はありません。ですが………唯一問題なのが婚約者がいないこと。あと2~3年すればお子もいておかしくないご年齢なのに婚約者のひとりもいない。これは由々しき問題です」

「そ、そうですわね………」

婚約者はひとりでいいと思うが、エリザベス嬢の言うことは最もだった。だけどなぜ、その相手が私なのか。それがとても気になる。怖いもの見たさで私はエリザベス嬢の言葉を待った。

「あなたには婚約者がいませんわね。そして、身分も問題がない。まあその辺りはどうでもいいんですの。問題なのはーーー」

どうでもいいのか。そして他に理由があるのか。そしてその理由こそが本命という口ぶりである。私は人知れず息を飲んだ。

「ユーリアス殿下があなたにお心を寄せているからです」

「…………え?」

「今の今までご婚約者がいないことを怪しんで私が直接聞いたのです。間違いありませんわ。ユーリアス殿下はあなたが好きです」

「えっ…………えっ……………?」

誰が?私を?好きですって…………?
ユーリアス殿下が、私を好き…………!?
信じられなくて思わず間の抜けた声が出る。そして口から続いてでたのは情けない困惑の声だった。

「えええ~~~…………!?」

絶対嘘だと思うの!!
まず私とユーリアス殿下の接点はない。先程思い出したように顔を合わせたのなんて1回か2回か………。そもそもなんちゃって病弱の私と違い、ユーリアス殿下は本物の病弱である。だからこそ顔を合わせる機会なんてない。よってこれは偽りだということが分かる。だけど嘘を言う必要があるかしら?エリザベス嬢が?いやもっと言えばユーリアス殿下が嘘をついている可能性も………。私の脳内は忙しなく動いた。こんなに働いたのは半年前のイェルガー侯爵令嬢の「胸が大きいのは淫乱の証拠」という発言に対してなんて回答すればいいか迷った時以来だ。その時はやんわりと「私は胸が小さいから大きいのは憧れるわ~」みたいなことを言った気がする。どっちつかずの発言。私は敵を作りたくないのよね………。ちなみにイェルガー伯爵令嬢は私と同じど貧乳仲間である。でもだからといってお胸の大きな方を悪しようにいうのは良くないわよね!
私は微動だにせず、メドューサに睨まれた石像のごとく固まった。それにエリザベス嬢がやはり困ったような顔をしながら続けた。

「突然の話で申し訳とは思っていますの。だけど…………ユーリアス殿下はあなた以外とは婚姻するつもりはないと仰るし………。情勢は不安定で危ういのです。いつカールが矢面に立たされるか」

「エリザベス様…………」

エリザベス嬢のカール殿下を思う気持ちに多少胸が動かされる。
だけどだからといって突然婚約ということにはならない。そもそもあのユーリアス殿下である。高嶺の花すぎて話しかけることは愚か顔すら合わせることの出来ない。滅多に夜会にも出てこないので踊る機会はほぼゼロ、たまに出席される夜会では吸引力100%のごとく令嬢が周りに飛び交っていてあの場に飛び込む覚悟などない私は遠目から見ているのみ。
何が言いたいか。つまり、そんな高嶺の花すぎる王太子殿下と婚約するなどイコール私の身の破滅だと思うの。悪意、嫌味、皮肉、嫉妬、侮蔑…………それらがブレンドされた視線と言葉をいただくようになるのは目に見えている。うっ、考えるだけで胃が痛いわ…………!体が拒絶している!

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